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透華「あ、あの……お父様、お母様、お風呂いただきました……」 須賀父「狭い風呂で悪いね。でも、さすがにこの寒空の下、帰すのは気が引けるから……。ま、今夜は適当にくつろいでってください」 須賀母「ごめんなさいねー、私のパジャマがらいしか着るものなくて」 透華「い、いえっ、そんなことありませんわ!……ぁ、な、ないです」 須賀母「ウフフ、いいのよ別に無理して普通の喋り方しなくても。ちょっと変わってても、ウチの子で慣れてるから」 須賀母(下着、すぐ近くのお店で買ってきたものだけどサイズは大丈夫だった?) 透華(ピ、ピッタリでしたわ……悲しいぐらいに) 須賀母(ウフフ、おもちのサイズ判定は密かな特技なのよー。大きいおもちもいいけど、ちっちゃなおもちも可愛くていいのよねー、これが) 透華(……京太郎のおもちに対する執着って、もしや――――) 京太郎「ちょいウェイトだぜ、母さん!俺の喋り方のどこが変わってんの?」 須賀母「アラ、あなたよく変なこと口に出してるじゃない?ペーポンペーポンとかリーピンチャンタイーペードラドラーとか」 京太郎「それただの麻雀用語だよ……」 須賀母「あら、そうなの?ごめんなさいね、この子、最近大会で優勝したとかで、ずっと麻雀のことばかり口にしてるのよー」 透華「そ、そうですの……」 須賀父「しかし、京太郎が家にこんな可愛いお嬢さんを連れてくるとはなー。立ち振舞いも上品だし、本当にいいとこのお嬢様みたいだよ」 須賀母「あらあら、じゃあ京ちゃんには頑張って玉の輿を目指してもらわないと♪」 透華「た、玉の輿……」 京太郎「やめれ母さん!別にそーいう考えで透華さんと仲良くしてないから!」 須賀父「お、じゃあどういう考えなんだ?」 京太郎「そ、それは………………せ、切磋琢磨する麻雀仲間としてとか、イ、イロイロあんだろ」 須賀父「………………チッ、カスみたいなテンプレ回答しやがって」(ペッ 須賀母「本当に私たちの息子かと思うぐらいクズだわー」(ペッ 京太郎「やめてよっ、そんな道端のゴミ見るような目で我が子を見んなよ!」 須賀父「ゴミどころか、なあ?」 須賀母「ダメですよ、アナタ。透華ちゃんの前でそんな言葉口にしたら、彼女が卒倒しちゃうわ」 京太郎「どんだけヒドイこと言おうとしてんの!?」 透華「ゆ……ゆにーくなご両親、ですわね」 京太郎「ちが、違うんです透華さん。いつもはもう三割ほどマトモなんですけど、きょ、今日は透華さんが来てはしゃいじゃってるだけなんです……!」 透華「それって……か、歓迎していただけている、ということ……ですわよね?」 須賀父母「「ウェルカーム」」 京太郎「マジで恥ずかしいからやめてくれよ、そのノリ……」 透華「――――ウフフ……♪」 京太郎(うぅ、変な見栄張らずにイベントが被った、って言っとけばよかった……。つーか、家誘ってそのままお泊まりとか、いろいろすっ飛ばしすぎじゃねえの……?) 須賀母「―――さて、せっかくのクリスマスイヴだし、お茶とケーキでささやかにパーティーといきましょうか」 須賀父「よかったな京太郎、お前の好きな母さんお手製のイチゴケーキだぞ」 京太郎「オイ、マジでやめろよブッ飛ばすぞ、いつの頃の話してんのさ!」 須賀父「男はいつまで経っても母離れできないもんさ……」 須賀母「今度、私のケーキのレシピ教えてあげるからね透華ちゃん♪」 透華「ハ、ハイ、よろしくお願いいたしますわ、お母様!」 京太郎「うっわ、もう本気で部屋に引きこもりたくなってきた……。地味に透華さんもノリノリだし……」 須賀父「とりあえず何の話をしようか……。うん、普段学校で京太郎がどんな奇異な行動をしてるか、なんてどうだろう」 須賀母「まあ、面白そう♪透華ちゃん、いろいろ教えてちょうだいね、お礼は弾むから」 透華「お、お礼……?」 須賀母「例えば、この京ちゃんの成長を事細かに記録したアルバム(複製)とか」 須賀父「小さかった頃の京太郎の冒険譚から、当時の交遊関係まで網羅してあるよ」 透華「おまかせあれっ、ですわ!!お父様、お母様、何でも聞いてくださまし!」 京太郎「ヤメテッ!?」 そんなこんなで(京太郎を除いて)会話は弾み―――― ――AM1:07 須賀父「おっと、もうこんな時間か……」 須賀母「あらホント、もう寝ないと明日に響いちゃいそう」 透華「そ、そうですか……。できれば、その幼少の頃に出会った女の子たちについて、もっとじっくりしっかり聞いておきたかったのですが……」 須賀母「大丈夫よ透華ちゃん、それについては巻末に私のレポートを掲載してあるから」 京太郎「もういっそ殺せよ……」 須賀父「さて、それでとうかちゃんの寝る場所だが……どうしようか」 須賀母「実は客間、お掃除サボっててあまり綺麗じゃないのよねー」 須賀父「すまないんだがね、京太郎の部屋を使ってもらうということで構わないかい?」 透華「(京太郎の部屋、京太郎の部屋で一泊……!)わ、私は問題ありませんわっ!」 京太郎「まあしょうがないよな、場所ないし。それじゃ、俺はカーたんと一緒に居間で寝る―――」 須賀母「あらあら、ホントにそこでいいのかしら?」 京太郎「は?」 須賀父(そんな場所で寝て、明日から父さんと母さんの目を見て話せなくなるような、トラウマ級の大人のイチャイチャを目撃しても知らないぞ、という意味さ)(ヒソヒソ 京太郎「」 透華「?」 京太郎「この……外道どもがっ……!」 須賀母「あら心外。京ちゃんはその場の勢いで一夜の過ちを犯しちゃう子なのかしら?」 京太郎「普通、逆だろ!なんで親が同衾せざるを得ない流れ作るかなあ!?」 透華「ど、同き……え……ええぇぇぇぇえっ!?」 親のごり押しなんかには負けない! ……親には勝てなかったよ―――― 【京太郎自室】 京太郎「………………本当に、本当にウチの親がすみませんでした」 透華「い、いえ、わ、私は……たの、楽しませてもらいましたし……」 京太郎(せ、背中が当たってて、全然眠くなんねー……) 透華(ふわぁぁ……!?事情が事情とはいえ、背中合わせでいい、一緒の布団でねむ、眠るなんて……!) 京太郎「あの、ホントに無理だと思ったら言ってくださいね。すぐに俺、居間に行きますから……」 京太郎(それでトラウマ負っても……後悔なんてしないさ、ああ、しないとも) 透華「――――た、確かにこのままだと眠るのは……難しい、かもしれませんわね」 京太郎「じゃ、じゃあ……」(モソ… 透華「っ!……それでも、こ、ここで居間に行かれると……少し……いえ、とても傷つきますわよ、私……」(ギュッ 京太郎「――――ぅぅ……」 透華「…………」 京太郎「…………」 透華「あの、京太郎……?」 京太郎「な、なんですか透華さん……」 透華「お母様のお話に出ましたけど……や、やっぱり男の人というのは、その、ですわね…………た、玉の輿というのを気にしてしまいますの?」 いつの間に寝返りを打ったのか、背中にヒタリと寄り添うようにして投げ掛けられた質問。 その問い掛けの意味が分からないほど、須賀京太郎という少年の頭は鈍くない。 京太郎「俺、は――――」 トッ、トッと背中に透華の胸の鼓動を感じながら、京太郎は緊張に震える唇を静かに開いた―――― ちなみにその夜、京太郎が何と答えたか知っているのは、透華とカピバラのカーたんのみであることをここに記す。 そして、次の次の日の会話へ繋がるんだなこれが。
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京太郎「やっぱり和のマンコは気持ちいいなー」 京太郎「うっ…でるぞっ…」 京太郎「ふぅ・・・」 和(コロスコロスコロスコロス) ……… …… … 咲「…京ちゃん、昨日の放課後なにしてたの?」 京太郎「ん?」 京太郎「なにもしてないぞ」 咲「…一応確認するけど私たちって付き合ってるんだよね?」 京太郎「そうだぞ、当たり前だろ」 咲「私見ちゃったんだよね…」 京太郎「何をだ?」 咲「…昨日の放課後和ちゃんと京ちゃんが部室でSEXしてるところ」 京太郎(な…!そんなはずは無い!確認して誰もいなかったはずだ) 京太郎「何言ってるんだ、咲?」 咲「とぼけないで、京ちゃん」 京太郎(どーしよーかなー正直咲は飽きたしなー) 京太郎(このまま咲と別れるのもいいけど、そうすると和を味わえなくなるからなーもうちょっと粘るか) 京太郎「そんなわけないだろ!俺は咲を愛してる!和とSEX?するわけないだろ!」 咲「ほんと?」 京太郎「当たり前だろ!」 咲(そうだよね。ちょっとかまかけて見ちゃったけど京ちゃんが浮気なんてするはずないよね) 咲「じゃあ今日は私の家に来てよ」 京太郎(咲は胸が無いからオナホと一緒なんだよなー) 京太郎「わかった」 咲の家 京太郎(あーダル、和とSEXしてー) 京太郎「咲っ…もうでそうだ…!」 咲「京ちゃんっ・・・きて!」 京太郎「うっ…でるぞ…」 咲「ふんふふ~ん♪」 咲「今日の昼休みは部室で本を読んで過ごそうかな」 咲「部室なら誰もいないだろうし、読書に集中できるよ!」 ヤ、ヤメテクダサイ!! 咲「あれ、この声……和ちゃん?」 咲(優希ちゃんと一緒に遊んでるのかな?) 咲「どうしよう……やっぱり、図書室に戻ろうかな?」 ダレカタスケテー! 咲「?」 咲(何だか様子がおかしいよ……ちょっと覗いてみよう」ガチャッ 京太郎「うっはwwww和のまんこ超気持ちいいwww」パンパンパン 和「"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ!!」 京太郎「やべっ、中に出すぞ!!」ドッピュピュドッピュドピュピュピュピュ 和「あ……あぁ……」ヘナヘナヘナ 咲「えっ」 京太郎「あー、最高だったぜ和。また頼むわ!」 和「コロスコロスコロスコロスコロスコロス」 咲(な、なにこれ……和ちゃんと京ちゃんが……) 咲(こんなオカルトありえないよ……)ガタッ 京太郎「ん?」 京太郎「……あー、咲。お前いたの?」 咲「きょ、京ちゃん……どういうこと……?」 京太郎「あちゃー、全部見られちゃった感じ?」 京太郎「ま、咲になら別にバレちゃってもいいか」 京太郎「いやー、和のおっぱい見てたら性欲が抑えきれなくてさぁ、つい犯したわけ!」 京太郎「そしたら和のまんこ気持ち良すぎてうっかり中出ししてしまってさww」 京太郎「おもしろいだろww」アヒャヒャヒャヒャ 咲(これがあの京ちゃんなの……?全然違う人だよぉ……)フルフル 京太郎「ん?」ジーッ 京太郎(うっわ、咲のやつ俺を見て怯えてやがる……いつもは性的な魅力なんてこれっぽちも感じねえのに……) 京太郎(やっべ、咲の震える姿見てたらまた起ってきた)ムクムクムッキー 京太郎「なぁ、咲」 咲「な、何……?」 京太郎「一発やらせろよ」 咲「や、やだよ。なんで彼女がいるのに平然と浮気する人とエッチなんてしなきゃいけないの!」 京太郎「ガタガタぬかしてんじゃねぇぞ!」ガン 咲「ひう!」 京太郎「お前は黙って俺のオナホになってればいいんだよ…オラァ!」 咲「ひ、ひどいよぉ京ちゃぁん……」 京太郎「さて……和よぉそこでじっくり見ていろよ?」 和「コロスコロスコロスコロスコロスコロス」 京太郎「お前が恋い慕ってる咲が俺に嬲られ蹂躙される様をなぁ!!」 京太郎「ふん!」パンパンパンパン 咲「ひぅ……っはぁ……んっ…あぁ……あん///」 京太郎「なんだよお前……乱暴に突かれながら感じてんのか?とんだ淫乱だなお前ぇ!!」パチュパチュパチュ 咲「そ、そんなこと……やん……んっあん!……ないもん!」 京太郎「マンコこんなに濡らして何言ってんだよww見てるか?和ぁ」 京太郎「お前の大事な大事な咲ちゃんは男のチンポでよがり食らうただの雌豚畜生なんだとよぉ!」 和「サキサンサキサンサキサンサキサンサキサンサキサン」 咲「んんっ///和ちゃ…あぁん見ないでぇ……」 京太郎「へっそろそろ中に出すぞ?いいなぁ?!」 咲「だめだめだめぇ中には出さないでぇ」クネクネ 京太郎「膣こんなに引き締まってる癖になにいってんだ?出すぞぉ……ヒャッハー!!」ドピュッピュップー 和「サキサンサキサンサキサンサキサンサキサンサキサン」 咲「あ……京ちゃんの赤ちゃんの素……こんなにいっぱぁい///」 京太郎「ふぅ」 京太郎「やっぱりセックスは最高だぜ!!」 カン
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京太郎「はあ、将来どんな姿になってるのかシミュレーションしてくれるソフト、ですか」 智紀「龍門渕の会社の美容部門が作ったみたい」 純「暇だったのかね」 一「いやいや。今の生活続けてるとこんな風になるかもしれませんよ、ってデータがあれば色々役に立つからだよ」 純「ふーん。俺はそーいうの気にしたことねえからなぁ」 京太郎「ハハ、純さんらしい反応ですね。でも、龍門渕のみんなの将来像はちょっと見てみたいかも……」 透華「フフフ、そうでしょう、そうでしょうとも!というわけで、準備は万端でしてよ!」 智紀「合点承知……」 透華「一番バッターはもちろん私!さあ京太郎、とくと目に焼き付けるといいですわ!」 智紀「今の生活リズム、食事、その他もろもろのデータを入れて、ポチッとな……」 龍門渕透華(大人):スタイル抜群・オッパイ大きめの知的な美女! 京太郎「お、おぉ……こ、これは……」(ゴクリ 透華「ど、どうかしら……お、お気にめして?」 智紀「長い目で見れば、須賀君の好きなオモチも十分大きくなるから、絶対に損はしない」 京太郎「い、いや、損得勘定で透華さんと付き合ったりはしないですけど……町でこんな人見かけたら、間違いなく目で追っちゃいますね」 透華「当たり前ですわ!この私が注目を集めないなんてウソに決まってますもの!」 京太郎「目立ってなんぼですもんね。あ、でもこの透華さんの彼氏は困っちゃうだろうなー……自分がちゃんとつり合ってるのかな、って」 透華「彼っ……!?そ、そんなの関係ありませんっ、あ、愛があればいいのです!」 一「つりあってるかどうか、なんて考えるだけ無駄だよ須賀くん。一緒にいて幸せかどうか、で考えてあげなきゃ。ね、トーカ?」 透華「ぅ…………」(真っ赤 京太郎「ナ、ナルホドナー」 京太郎「…………さ、さて、次は誰がやるんですか?」 智紀「(ヘタレた……)じゃあ、次は……」 透華「うぅ、肝心のところで流されましたわ……」 一「ファイトだよ、トーカ!地道なアピールとフラグ作りが勝利の鍵ってともきーが言ってたから」 智紀「…………一、やってみる?」 一「え、僕もやるの?」 京太郎「一さんの将来……俺、気になります!」 智紀「任せて……ポチッとな」 一「ちょっと緊張するなー」 透華「どれどれ、念のためまずは私が…………!?」 国広一(大人):見せられないのよー! 透華「キャ、キャアアァァァァッ!?これは見てはいけませんわよ、京太郎!!」(目隠し 京太郎「え、ちょっと、一体なにがあったんですか……!?」 智紀「これはヒドイ……」 一「ヒドイって、そんな言い方ないんじゃないかなー、ともきー」 純「いやいや、もうこれ犯罪だろ。前も後ろも布の切れ端、貼っつけてるだけだし」 智紀「間違っても前貼りを服と言ってはいけない」 一「え、そうかな、僕の私服よりちょっと小さいぐらいだよ?」 透華「一、ああああなたっ、公然猥褻罪で捕まってしまいますわよ!?」 京太郎「ま、前も後ろも布を貼り付けた、だけ……前貼り……」(ゴクリ 透華「……京太郎?」(凍死…… 京太郎「さ、さあ、次いってみましょー」(ガクブル 智紀「確かにこれは目に毒。次は……純で」 京太郎(俺も見たかったなぁ……) 純「えー、俺もやんのかよ」 透華「当然ですわ。将来を考えて生活スタイルを見直すいい機会になるかもしれませんわよ?」 一「ああ、純くんって結構、暴飲暴食するもんね」 智紀「若さの特権……ポチッとな」 純「別にちょっとぐらい太っても、俺は気になんねーんだけど」 京太郎「なんて男らしい……」 井上純(大人):オスカァーーール! 純「あん?あんま今と変わってねーな」 京透一智「………………」 一「ヅカ、だね」 透華「ヅカですわ」 京太郎「か、カッコよすぎてなんかへこむ……!」 智紀「女の子侍らせてそう」 純「最後の評価がひでえな。俺は女だっつーの」 京太郎「まあ、美女というより美人とか麗人ってことにしときましょうか」 智紀「それじゃ、次は…………須賀君?」 京太郎「え、お、俺もですか……?」 一「僕たちがやって、須賀くんはなしってわけにはいかないなー。ね、トーカ?」 透華「そ、そうですわね、やはりこういうのはみんなでやってこそですし……別に、京太郎が将来どんな風になるのか、早めに確かめておきたいとか、そんな意図は欠片もありませんのよ?ただ、やっぱりですね……」 智紀「巻きでいく……ポチッとな」 透華「ああ!?私、ま、まだ心の準備ができてませんわ……!」 京太郎「それは普通、俺の台詞じゃないですかね」 一「まあまあ」 須賀京太郎(大人):ざわ…ざわ… 智紀「…………いぶし銀」 一「うわ……これは、渋いね」 純「え、これ京太郎?なんかフツーに麻雀で何人かあの世に送ってそうな面してるぜ」 京太郎「いやいや、麻雀で人は殺せませんって……たぶん」 透華「……………………」 一「トーカ、大丈夫?あんまりに渋味がありすぎて反応に困っちゃって…………?」 透華「…………ぁ、アリアリですわっ!」(ガッツポーズ 一「あ、そっち方向でも大丈夫なんだ」 京太郎(麻雀やり続けたら俺、将来的にこんな感じになるのか……)(ペタペタ 智紀「心配しないで、鼻と顎は思ったほど尖ってない」 京太郎「どこの心配されてたんですか、俺!?」 衣「おー、京たろーだー♪」 ハギヨシ「ただいま戻りました」 衣「見て見て、ちゃんと頼まれたもの買ってきたぞ!」 純「おー、エライエライ」 透華「ご苦労様、ハギヨシ」 ハギヨシ「お心遣い、嬉しゅうございます…………ところで、皆様なにを?」 智紀「パソコンのソフトを使って、みんなの数年後の姿をシミュレーションしてる……」 一「龍門渕製だし、信憑性はそこそこありそうだよ」 衣「数年後……衣もっ、衣もやってほしい!」 智紀「いいけど」 衣「クククッ、数年後の衣は当然、ノノカのようなぼんきゅぼん、だ!目に焼き付けていいぞ、京たろー!」 京太郎「ハハ……透華さんと同じこと言ってますね……」 透華「ぐ、偶然ですわ……!」 一「いとこだもん、仕方ないよ」 智紀「それじゃあ、ポチッとな……」 天江衣(大人):変化なし 衣「…………あ、あれ?」 純「ビックリするぐらいなんも変わってねーな」 智紀「そんなバカな……」 京太郎「え、でも数年後だと衣さんって二十代になってるぐらいじゃ……」 透華「見た目、いまと同じのお子様ですわね…………下手すれば、わ、私の子供で通用しますわ。ね……ねえ、京太郎?」(チラチラ 京太郎「ノーカン……ノーカンですっ……!これはなにかの間違い……もう一回、もう一回試してみましょう……!」(アセアセ 透華「うぅぅ……」(ショボン 一「飛ばしすぎだって、トーカ」 智紀「うーん……衣でやり直す前に、ハギヨシさんでやってみる?」 ハギヨシ「私でですか?」 純「おお、それなら変化してるか分かりやすそうだもんな」 京太郎「数年後のハギヨシさんか……さらに格好よさと執事ぶりに磨きがかかってそうですね」 ハギヨシ「いえいえ、私などまだまだ」 智紀「それじゃあ、ポチッとな」 ハギヨシ(数年後):変化なっしんぐ 京太郎「…………え?」 智紀「そんなバカな……」 純「こっちも変化なしかー……てことは、このソフト壊れちまったんじゃね?」 一「あるいは……この二人が、ちょっとフツーじゃないか……だね」 衣「ククッ……面白い戯言、片腹大激痛だ!」 ハギヨシ「ハハ、ご冗談を」 透華「そういえば、ハギヨシ……私が幼稚園の頃から外見に変化ないよーな?」 京太郎「衣さんもすごいけど、それ以上に執事スゲェ……!?」 一「…………とりあえず、やめにしよっか。なんかこれ以上考えると深みにはまっちゃいそうだし」 智紀「賛成」 京太郎「そ、そうですね」 衣「ハッハッハッ」 ハギヨシ「フフフ」 終われ 京太郎「ところで智紀さん……」 智紀「……なに?」 京太郎「うまい具合に部室には誰もいませんよね」 智紀「……」(コクコク 京太郎「ふと思い出したんですけど、この間の将来の姿が見えるソフト……智紀さんだけ試してなかったですよね」 智紀「な、なんのことやら……」 京太郎「いやいや、誤魔化そうとしてもダメですって」 智紀「きっと、ロクでもないことになってる……寝不足で、肌とかボロボロ」 京太郎「そんなことないですって。だから、ね?一回だけ、一回だけでいいですから智紀さんの大人バージョン見せてください、このとーり!」 智紀「………………みんなに内緒、なら」 京太郎「もちろんです!」 智紀「…………ポチッとな」 沢村智紀(大人):艶然とした笑みと、退廃的な空気を纏った妖艶美女 京太郎「な、なんか……エロ――」(ゴクリ 智紀「お、おしまい」(パタンッ 京太郎「ああっ!?も、もう五秒……いや、三秒!脳内に焼き付けますから……!」 智紀「ダメ……恥ずかしいから」(フルフル 京太郎「そんなー……」 透華「…………」(ムスー 一「トーカ、無言で物陰から睨んでも意味ないから……」 透華「別に拗ねてません、拗ねてませんわ……!」 一「ハイハイ」 今度こそ終われ!
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「リーチ!」 清澄高校麻雀部部室に起家である優希の高い声が響いた。東1局3順目、捨牌には西、1萬、4索が切られているのみである。 内心ため息をつきながら下家の京太郎は自分の手配を見下ろした。 『京太郎手配』 2289m 125p 58s 北北撥中 ドラ3s アガリどころか聴牌すらほど遠い自分の手配に視線を送りつつ、山に手を伸ばす。ツモ8p。 『京太郎手配』 2289m 125p 58s 北北撥中 ツモ8p 全く状況が良くならないツモであったがどちらにせよ1面子もない状態で親リーに突っ張るつもりは欠片もなかった。 ノータイムで北の対子に手を伸ばし、場に切り出した。だが、それに対して待ってましたとばかりに声が上がる。 「ロンだじぇ!」 思わずビクリ、京太郎の体が跳ねた。思わず優希の顔を見た後、優希の倒した手配に目をやった。 『優希手配』 678m234s東東東北北中中 ロン北 「リーチ一発ダブ東ドラ1……おっ、裏ドラが中で親っ跳だじぇ!」 「なんじゃぁそりゃ!」 思わず素っ頓狂な声が上がる。振り込んだ京太郎は体をのけぞらせ天を仰いだ。 「そう落ち込むな! 高めだったら親倍だったんだじぇ! 安く済んだと考えな!」 「まぁ、京ちゃんこればっかりはしょうがないよ。その待ちならいずれ出ちゃうよ」 「そうですよ須賀君。麻雀ですからこういうことも起こりえます」 1年生の3人娘から口々にフォローの言葉が飛び交う。 自分の手の中にある中――優希の言う高目親倍の当たり牌――を見下ろしながらため息をつく。 あの手恰好では振り込むことが約束されていたとばかりの状況に心が折れそうになる。 「そうじゃな。あの手恰好じゃ誰が打とうといずれ打ち込んでおった。気にするな」 京太郎の打ち筋を後ろで眺めていたまこも気遣いの言葉を投げる。 「うっす。よっしゃ、まだ始まったばかりだ! 気合い入れていくぜ!」 「ふふっ、頑張って京ちゃん」 「おぉっと、そうはいかないじぇ。この連荘で終わらせてやるじぇ!」 軽く笑いあいながら、再び場は進行していった。 (そう、だれでも振り込む。それはわかる) (でも……こいつらは) (こいつらはこんな状況にまずならない) (こいつらだったら確実な安牌が手にあるかそもそも手の中に当たり牌がない) (……少なくとも、インターハイ中はそうだったしな) 京太郎の胸に芽生えた小さな小さなしこりを押し隠したまま。 激動のインターハイで非常に優秀な成績を残した清澄高校麻雀部は インターハイ後の残り少ない夏休みも関係各所への対応に追われた。 学校での祝賀会、マスコミへの応対、行政からの祝辞等、 一般高校生ではなかなかお目にかかることのないイベントが連日のように行われろくに休みもないまま新学期に突入した。 9月となり竹井久からの引き継ぎを終えた染谷まこが新部長となり、 新たな体制と清澄高校麻雀部は2学期初めての部活に励んでいた。 大会中は麻雀をほとんど打つことができなかった京太郎は部活開始と同時に喜び勇んで卓につき、 前述の通り惨い有様となっている。 東1局1本場は和が優希から2,300点をアガって軽く流し、巡ってきた親番。 何とかこれをものにしなければ、と念じながら配牌を手にした。 1127m458s257p西西西撥 ドラ1m ドラヘッドのチャンス手。面子候補が足りてないうえに動きにくい手だが筒子がさばければ勝負になる。 自分の手をそう結論付ける。ドラを固定するために1打目2萬を切り出す。 面子が足りてないうえに動きにくい手恰好なので撥はぜひとも欲しいところであった。 とは言えある程度の打点もほしい、そう考慮して小考した後2萬を切り出したが それを受けて京太郎の下家は和はドラが対子以上であることをなんとなく検知する。 (須賀君も私達とは打てなかったとはいえ、その間に何もしてなかったわけではありませんからね) (ある程度効率は考えられるようになってきているはずです) (恐らくドラが対子以上。まぁ、ほぼ聴牌形が出来上がっているという可能性もありますが……) 考えつつも和は第1ツモに手を伸ばす。そしていつものように長考に入る。 『和手配』 23m12446s24678p北 ツモ3p とは言ったもののほぼ面子候補ができている形。 且つ急所の1つである索子の嵌張引いて方向性はほぼ決まっている。を北を切り出し場を進める。 その後、場は淡々と進み一つの分岐点といわれる6順目、京太郎の手配はこうなっていた。 『京太郎手配』 11m34588s579p西西西 高確率で愚形が残る手恰好。ツモは白。ノータイムでツモ切りしつつ、京太郎はどう聴牌してもリーチを打つ気でいた。 夏休み、大会中の空き時間中に携帯の麻雀アプリで麻雀を打っていた際に 役無しドラ1の愚形聴牌を入れた際に両面への手替わりを見越して黙聴にしたところ、 たまたま通りすがった和にひどく叱られたことがあった。 『京太郎手配』 123m23479s67799p ツモ5p ドラ1m 「須賀君、何故黙聴にしたんですか?」 アプリの画面では「リーチ」のアイコンが表示されていたがそれを押さず7pを切って聴牌を取った瞬間だった。 思いがけず声をかけられびくり、と震えて後ろを振り向くと難しい顔をした和が立っていた。 自分の答えを待っていることを悟った京太郎は恐る恐るといった感じで声を出した。 「えっ? あっ、そ、その、 だって嵌8索だぜ? 6索を引けば平和が……」 「論外です!」 ぴしゃりと言い切る和に思わず言葉を詰まらせる京太郎。 「単純な確率の問題です。まだ5順目ですよね? だれのリーチも仕掛けも入っていません。」 「場は字牌、端牌だらけ。この状況で6索引く確率と8索引く確率ってどちらが高いと思いますか?」 「……同じ、だな」 「そうです。尚且つこの手は役無で手替わりの受け入れも6索しかないと考えれば即リーの1手です」 「6索引いて平和を逃すより8索の出上がりができないということのほうが圧倒的に痛手です」 「なるほど、そういわれると納得いくな……」 「これは現代のデジタル麻雀では基礎の基礎です」 「この21世紀に未だ旧態依然とした面前で手役を作らなければいけないという面前至上主義が」 「根強く生き残っているのは由々しき事態です。自分がやるのはまだ許せますが」 「それを初心者にあたかも正しいことのように伝えていくというその姿勢が」 「ストーーーーーップストーーーーーーーップ! わかった! わかったから!」 オカルトの風が吹き荒れるこのインターハイでいろいろと腹が据えかねるものがあったのか、 滾々と和の口から湧き出る呪詛の言葉をあわてて押しとどめる。 思わずはっとなった和は軽く頬を染めながら軽く咳払いをする。 「……失礼しました」 「い、いや、別にいいけどさ。しかし……すまんな、和」 「? 何がですか?」 少し言いづらそうに視線をそらしつつ呟く。 「いや、その、大会中でせっかく休んでる最中に俺なんかのためにくだらない時間使わせちゃって。もうすぐ出番だっていうのにさ」 はは、と自嘲気味に笑う。烏滸がましいことだとは理解している。しかたがないことだとは理解している。 それでも京太郎は周りに置いて行かれている、蔑ろにされている。そんな気持ちを抑えることができなかった。 普段はあまり自虐的なことなど言わないとは京太郎自身思っていたがそんな精神状態のせいか、 思わず口に出てしまう。何を言ってるんだ、と激しく後悔しそうになるが 見る見る不機嫌な顔になっていく和に驚きの感情で塗りつぶされていった。 「くだらないってなんですか?」 「えっ、いや、だって」 「私が初心者の須賀君に対して、経験者が初心者に指導をする、初心者が経験者に対して教えを乞う」 「それがそんなにおかしいこと、くだらないことなんですか?」 麻雀はガチガチのデジタル思考であり、機械のように冷静沈着正確無比。 そんな原村和だが一歩卓から離れると非常に感情が表に出やすい。 京太郎はそんなことを考えながら思わず身震いする。彼女は怒っていた。それも猛烈に。 「その……大会中だし、和も忙しいし自分の時間もほしいだろ? ほら、俺の始動で時間を使うよりはその」 「須賀君!」 ごにょごにょと、とりとめのない言い訳をする京太郎を一喝する。 京太郎はびくりと体を震わせ恐る恐るといった感じで和と目を合わせた。 「いいですか須賀君。私とあなた、同じ清澄高校麻雀部ですよね?」 「……」 「返事は?」 「は、はい!」 「そうです。同じチームメイトですよね? それなのに何故、貴方が教えを乞うことに遜ったり卑屈になる必要があるんですか?」 「いや、だって、和はレギュラーメンバーだし、インターミドルチャンピオンだし、悪いなって……」 「つまらないこと聞くと、その、怒られそうだし……」 和はその答えに思わず頭を抱えたくなった。将来の夢の1つに小学校の先生になりたい そう思っているのにそんなに怖い人間、質問をしにくい人間だと思われていたとは……。 もう少しやわらかい態度を心がけるべきだろうか、そう自省しつつ幾許か表情を和らげた。 「……須賀君の中で私はそんなに怖い女、キツイ女だったんですか?」 「あー、いやー、そんなことは」 「目を見て話してください」 「……すみません」 「いいです、謝らないでください。初心者が聞きづらい環境にあるというのはこちらが反省すべきことですから」 そう、反省するべきだ。そう和は思った。初心者であり、 まずは麻雀の楽しさを分かってもらうという大切な時期に合宿だ大会だで殆ど放置気味になっていたことを反省すべきだ。 和自身、中学時代は後輩達にもいろいろ気にはかけていたはずだったのだが ここ最近はいろんなことがありすぎ、自分自身手一杯であったため、あまり周りに気を配りきれなかった。 京太郎がこういう卑屈な発言をしてしまうような環境を作ってしまったのは自分たちに責任がある。 ずきり、と心が痛んだ。 (だからと言って今更取戻しが効くものではありませんよね……) (だから……だからせめて) 和は心の中で一つ決意する。今更罪悪感に任せて媚を売っても仕方あるまい。 京太郎に怖い女と思われているのならそれでいい。 それでも自分にできることをしよう、そう決意した。 「須賀君」 「な、何?」 「今は大会中だから無理ですが、大会が終わって、新学期になったら特訓です」 「うぇ?」 思わず声が出る京太郎。大分間抜けな顔をしているのだが気にせず和は続けた。 「勉強はそれなりにしているみたいですがまだまだ不足しているところも多いみたいです」 「えっ、ちょっ」 「私だけじゃありません。周りは上手い人だらけです。部長、染谷先輩、咲さんとゆーき、みんなで協力して徹底的に特訓します」 「いや、その」 「嫌とは言わせません。泣いたり笑ったりできなくなるまでみんなでバキバキに鍛え上げます」 「ちょ、和。こわ」 「何か言いました?」 「いえ、何も」 怖い、と言いかけた口を思わず閉じる。そんな姿を見て和は思わず小さく微笑んだ。 「大丈夫です。優しく教えますから」 「……」 (今の話の流れでその言葉はどう考えても信用ならん) 新学期から自分はどうなってしまうのか。そう考えると京太郎は軽く身震いした。 「それと、さっき教えることが無駄な時間って言いましたけど」 「私たちも人に教えることで自分が改めて深く理解するっていうこともありますし」 「指導っていう行為は無駄な時間ってことはないんですよ」 「だから」 「くだらないとか、悪い、とか思わないでください」 「そんなの、悲しいです」 その一言でどれだけ救われたか、京太郎はそう思った。 恐らく一番存在を軽んじられているであろうと思っていた和にそう言われて京太郎はひたすら麻雀の勉強に費やした。 大会中の雑用もこなしつつ、教本を読み、ネト麻を打ち続け自分なりに修練を続けた上での この1局であったが状況は前述した通りである。 だが、圧倒的不利な状況でも京太郎は何とかベストを尽くそうと足掻いていた。そして8順目。 『京太郎手配』 11m34588s579p西西西 ツモ1m (っ! 絶好のドラ引き!) ここ最近で一番手ごたえがあるツモに喜び勇んで5筒を切り出し、千点棒を場に出して高らかに発声した。 「リーチっ!」 このリーチに対して3人は現物を切り出す。そして1発目のツモ。 力を込めてツモるがそこに書かれていた絵柄に思わず心がざわめく。 『京太郎手配』 111m34588s79p西西西 ツモ6p 典型的な裏目。思わず歯ぎしりしそうになる京太郎だったがなるべく平静を装って場に切り出した。 (しょうがない。麻雀で裏目を引くのはしかたない、まだ終わったわけじゃ) 「ロンだじぇ」 京太郎の必死な思いをその声が無情にも打ち砕く。 『優希手配』 【5】5m99m67799s【5】5p北北 「仮聴だったけど出るならありがたくあがらせてもらうじぇ。チートイ赤赤。6,400点だじぇ」 「っ! ロクヨンってことは……」 「そう。リー棒出しちゃったから……ト・ビ、だじぇ」 「マジかーーーーーーーーー!」 しなを作ってウィンクしながら無情にそう告げる優希。それを聞いた京太郎はぐしゃり、と前のめりに倒れこむ。 京太郎の手配も倒れこんだがその手配と捨て牌を見比べて和は多少表情を和らげた。 「いえ、須賀君。結果的に振り込みに回ってしまいましたが別段間違いは犯してません。まっすぐ打てていたと思いますよ」 「そうだよ京ちゃん。8筒はおそらく全部山だったし、こればっかりはしょうがないよ」 そんなフォローが2人から飛ぶが京太郎はうめき声を返すのが精いっぱいだった。 無力感にさいなまれつつ、先ほど芽生えたしこりに気づかないように視線をそらし続けた。 (俺は、強くなれるのか。本当に?) 勝利への疑心という感情に 「あーあ、9筒切りだったか……」 「それは結果論です」 弱気な発言を即座にたしなめる和。 その様子を見ながら咲は自分の手牌に目をやり、次に嶺上牌に目をやった。 『咲手牌』 123m【5】55s999p白中中中 (9筒を切ったら私がカンしてた。多分あの嶺上牌は……中、だと思う) (それもカンしたらおそらく、多分この白ツモれてた) (新ドラも含めれば倍満で京ちゃんを飛ばしつつ逆転……) (ごめんね京ちゃん。9筒でもダメだったみたい) 和が聞いたら発狂しそうなことを考えながら、咲は京太郎の不運を嘆いた。 そんな中、一呼吸を置いてまこが立ち上がり手を叩いた。 「とりあえず新学期一発目の対局は終わったようじゃな」 1年生4人組の顔を見渡したのち多少もったいぶった感じで言った。 「インターハイも無事に終わって気が抜けたと思うが、じゃからと言ってそれで全てが終わったわけではないぞ」 そう言った後、ペンを取ってホワイトボードに歩み寄り何かを書き始める。 訝しげに見つめる4人を尻目に、何かを書き終えたまこはペンを置き、ホワイトボードを強く叩いた。 11/×× 新人戦長野県予選 「そう、新人戦じゃ。無論わしには関係のない話じゃが……おんしら1年生4人組には他人事ではなかろう」 それを聞いて京太郎は何か言いたげにまこを見たり3人娘を見たり落ち着かない様子であたりを見渡した。 「京太郎、そんな顔をせんとも言いたいことはわかる」 「夏の大会メンバーで言えば鶴賀の東横や風越の文堂あたりがでてくるじゃろう。それでも」 しばし沈黙するまこ。 「インターハイでの成績を考えれば3人のうち誰かは全国に行けるじゃろう」 「ですよねー」 「無論、油断していいという理由にはならん! 団体戦に出なかった無名の大型ルーキーが出てくるかもしれん」 麻雀に絶対はないしな、と付け足しつつまこは3人娘に視線を送る。それを受けてはい、と元気よく返事を返す。 だが、その言葉に京太郎はふたたび心がざわめくのを感じた。 (絶対はない……本当か? 本当にそうなのか?) その内心を知ってか知らずか、まこは京太郎に視線を向け、びしりと指を突きつけた。 「問題はお前じゃな。京太郎」 「え、あ、はい……」 唐突な名指しの声に思考を打ち切り我に帰る京太郎。まこと目を合わせると何か意地の悪い笑みを浮かべていた。 「インターハイ中はほとんど目をかけられなかったというのに、自分なりに学習を進めておったようじゃな」 「はい、一応……」 「とはいえ、自分の実力は把握しておるじゃろ?」 「休み期間中にやっていたというネト麻の牌譜を見せてもらったがまだまだミスが多い」 「うぐっ」 「だーかーらー」 にぃ、という擬音が聞こえてきそうな笑みだった。 「これから大会に向けて京太郎を徹底的に鍛え上げる。今までろくに始動できなかった分たっっっぷりとな」 ぶるりと身震いする京太郎の横から和が何か楽しそうに言葉を続けた。 「私から染谷先輩に須賀君の特訓の話を持ちかけたら、染谷先輩もそのつもりだったみたいです。よかったですね、須賀君」 「なるほど犬の強化月間ってことか。それは楽しみだじぇ! 腕が鳴るじぇ!」 「よかったね京ちゃん! もちろん私も協力するよ!」 わいわいと、本当に楽しそうにこれからの教育プランを話し合う4人を見て、 決して見捨てられていたわけではないという喜びを感じつつも…… (どうなるんだ、俺……) 嫌な予感が止まらない京太郎であった。 その後、京太郎は4人とかわるがわる打ち続けことごとく叩き潰される時間が続いた。 本日は初日ということで軽めに――とはいえそれなりに打ってはいるのだが――終わったのが京太郎にとっては幸いであった。 今日1日で1か月分は負けたのでは、と思えるほどのすりつぶされっぷりあった。 事務仕事があるというまこを残し4人は校舎を後にした。 「それじゃあまた明日なー!」 「須賀君、咲さん。また明日」 「ばいばーい」 「おう……じゃーなー」 とりとめのない話をしながら歩いていたが分かれ道となり京太郎と咲、優希と和という組み合わせで別れた。 「あー……づがれだ」 「お疲れ様、京ちゃん」 二人だけとなったタイミングで軽く愚痴りながら大きく伸びをする。 げっそりとしている京太郎とその横で朗らかに笑う咲。 時間的には夜とは言えまだまだ暑い。時間を考えずけたたましくなく蝉の音を聞きながら二人は帰途についていた。 二人の間に特に会話はないが付き合いの長さが成せる技か、気まずさは特になかった。 沈みかけた日に伸びる自分の影を見つつ京太郎はふたたび自分の心のしこりに悩まされていた。 (沢山打った) (そして沢山負けた) (3位をとれたのが数回あっただけであとは全部ラス) (何だこれ? 麻雀ってそんなゲームなのか? こんなに運の要素が強いゲームなのに、こんなに勝てないものなのか?) (俺が弱いだけ……本当にそれだけで済まされる話なのか?) (牌効率や押し引きを学んで……埋められる距離なのか?) 京太郎は隣を歩く咲に目を向ける。 それと同時に長野大会での最後の場面が京太郎の頭によぎった。 『カン』 (……) 『ツモ』 (あれが) 『清一色、対々、三暗刻、三槓子、赤一、嶺上開花』 (あれが) 『役満です』 (あれが……!) 『麻雀って、楽しいよね』 (あれが技術やなんかで埋まるものなのか!?) 「……京ちゃん?」 京太郎の隣を歩いていた咲が立ち止った。京太郎から何か感じたのか、心配そうに顔を覗き込む。 心の内を悟られないように、ごまかすように京太郎は咲に問いかけた 「なぁ、咲」 「なぁに、京ちゃん?」 「このままこうやって、必死に練習を続けて、毎日毎日頑張って勉強して、そうすれば……」 叫びだしたい気持ちを必死でこらえて、京太郎は言葉を続けた。 「俺も、強く、なれるか?」 「……えっ?」 唐突な問いかけに思わず言葉を失ったが、京太郎の何かこらえきれないような、必死な様相を見て意識を取り戻した。 咲は思考する。どう答えるべきなのか。 咲自身としてはきっと強くなれる、そう信じているが……京太郎の欲しい答えというのはそんな単純なものだろうか? 何を応えればいいのか、何が正解なのか咲の頭の中でぐるぐるとまわっていた。 それでも、しばしの沈黙ののち、咲は答えた。 「ごめんね、京ちゃん……京ちゃんが強くなれるかどうかは、わからないよ。絶対、なんで無責任なこと、言えないもん」 「……そうか」 「でもね、でも、私はいつも練習するときもっと強くなれる、もっといい牌が引けるようになる、そう信じてやってるよ」 「……」 「そうすれば、きっと牌も答えてくれる。だから京ちゃんも信じて頑張ってみて」 そういいながら咲は京太郎に微笑みかけた。釣られて、辛うじてといった形だが微笑み返す。 「一歩ずつ、少しずつでいいから、頑張ろう? ね?」 「……そっか」 京太郎はそれを聞いて理解した。 「そうだよな、咲。そうだったな……頑張るよ、俺」 咲の頭に生えている特徴的な癖っ毛をピンと指ではじきながら京太郎は歩き出した。 「あぅ、ちょっとやめてよー!」 「ははっ、わりぃわりぃ。ほら、帰るぞ」 足早に歩みを進めると咲が慌てて後を追いかけた。 京太郎はそんな咲をからかいつつ、ざわめく心とがりがりと暗い気持ちが自分の心を侵食していくのを感じていた。 (そうだよな、咲) (お前には昔からすごい力があって) (努力すれば報われる) (願えば叶う。そう言う人間なんだな) (まさに牌に愛された子ってやつか) (ははっ、なんだそれ) (……くそっ) (……ずりぃ) (ずりぃよ、咲。俺だって) (俺だって、そうありたかった) (お前みたいに、何かをもって、生まれてきたかったよ) 必死に暗い気持ちを振り払う。京太郎自身前に進むには努力しかないということは心情では理解していた。 だから咲の言うとおり明日から一歩一歩頑張ろう、無理やりそう自分の中で結論付けた。 芽生えたくらい感情に無理やり蓋をしたまま。 そんな生活を続けて1か月。決して物覚えのいいほうではなかったが、判断や押し引きは以前よりも優れてきた。 大きな落手を踏むようなことも少なくなってきた。だが、それでも。 「ツモ。ツモメンホンで満ガン。これでぴったりまくりじゃな」 「うわー! 最後の最後でまくられたじぇ!」 「あぅ、私のカン材が使い切られてる……」 「……」 それでも京太郎は1か月の間1度もトップを取ることができなかった。 棚ボタな2位が時たまあったぐらいでほぼ3位4位を占めていた。 「……くそっ」 オーラスの京太郎の手配はこのようになっていた。 『京太郎手牌』 13【5】56889s南西白撥撥 ドラ6s 焼き鳥で迎えたオーラス、着順を上げるには跳満をツモるか満ガンを直撃しなければいかなかった。 そのため染めに走ったがろくに面子ができず終わった。 かといって自分の捨て牌をかき集めても――鳴きが入る可能性があるので不毛な話だが――聴牌すらできていない。 卓の下で思わず拳を固めた。 「残念でしたね。最後の局、私が打ってもそうなってましたから気にしないでください」 今回抜け番だった和が後ろから声をかける。それに対して軽く礼を言いつつも溢れてくる暗い気持ちを押しとどめていた。 (お前だったらこうはならないよ、和。ちゃんとツモが来てくれるさ。それでかっこよく逆転……だな) 「京太郎、大丈夫か? 少し休憩するか?」 暗い表情の京太郎を見てまこが心配そうに声をかける。それに対して半ば意地のように答えた。 「いや、やります。まだいけます」 「無理はするな、大分堪えたじゃろう?」 「大丈夫です、行けます……ほら、和。入れよ」 話は終了とばかりに話題を変える。まこは不承不承といった形で和に席を譲った。 「おーし、まだまだやる気だな京太郎! 頑張るんだじぇ!」 「……おぅ!」 無理やり、といった感じて返事を返す京太郎。そして、サイコロが振られた。 「ツモ。三槓子ドラ4で3,100、6,100です」 (で、結局いつものパターンか) 南2局に咲が派手に上がったところで京太郎はひとり心の中で愚痴る。 相も変わらず焼き鳥の状況。なんでもいいからあがりたい、そう考えているがそもそも勝負になる牌がやってこない。 そんな苦しい状況で自分の最後の親番は空しく流れていった。 新たに山が積まれ配牌を取っていく。 南3局 咲 34,900 京太郎 16,400 和 29,200(親) 優希 19,500 そこまで絶望的な点差ではないが相も変わらずラスにいた。 こういった状況は今まで何度もあったが全くと言っていいほど逆転の手が入らなかった。 だが、この局においては違った。4トンずつ牌を取っていくたび、京太郎の心は激しく騒いだ。 『京太郎手牌』 6s112233588p東中中 ドラ中 配牌メンホンチートイシャンテン。順子のホンイツと考えてもリャンシャンテンである。 どちらにせよ跳満、うまくいけば倍満まで見える手配だった。後ろで手を見ているまこも思わず息を飲んだ。 3人の打牌が完了し、震える手で第一ツモに手を伸ばした。 『京太郎手牌』 6s112233688p東中中 ツモ6p (っっっっっ!) 思わず叫びだしそうだった。渾身の引き。考え付く限りで最高の引きだった。 リアルの麻雀ではダブリーは初めてであり、倍満確定のリーチを打つことも初めてだった。 震えを抑えながら6sを切り出し、宣言をした。 「リーチっ!」 「うげっ、ダブリー!?」 凹み続けていたところからの思わず伏兵を想定していなかった優希は思わず取り乱した。 次順、親の和がツモに手を伸ばし、相変わらず淀みの無い仕草で場に手出しで牌を捨てた。 東を。 「ロンッ!」 「えっ?」 勢いのいい発声に思わず驚きの声を漏らす和。 「ダブリー一発メンホンチートイドラドラ……裏2! 24,000だっ!」 京太郎以外の4人がぽかんと口をあけたのち優希が思わず声を荒げた。 「なんじゃそりゃっ!」 「うるせー! お前が言うな!」 即座に突っ込み返す京太郎。京太郎と優希は憎まれ口をたたき合うが、その顔には久方ぶりの笑みが浮かんでいた。 「……さすがに読めませんね」 「うん、これはね。和ちゃんが切らなきゃ私が切ってたし」 そういいながら咲は手の中にぽつんと浮いていた東をぱたりと倒した。 「やりおったのぅ、京太郎。初のトップが見えてきたぞ。きばりんしゃい」 まこのそんな嬉しそうな言葉に京太郎は気を引き締めた。 (そうだ、まだ終わったわけじゃない。オーラス何とか軽く流して終了するんだ) 南4局 咲 34,900 京太郎 40,400 和 5,200 優希 19,500(親) 高鳴る心臓を抑えながら配牌を取る。 『京太郎手牌』 34m45s1145688p北白 (悪くない! 何とか平和かタンヤオが作れれば、勝てる!) 北を切り出しながら、京太郎の初トップに向けての道のりが始まった。 その後、5萬を引き入れツモ切りが続いた7順目。 『京太郎手牌』 345m45s1145688p北 ツモ5p (っ! 良型変化への種!) 引いてきた5pを手に仕舞い込み打北とする。 そして次順 『京太郎手牌』 345m45s11455688p ツモ6p (よし! 来た!) 平和確定のツモ。それを見て京太郎は場を見渡す。 『咲捨牌』 1⑨白撥二⑧④ 『和捨牌』 四二西西⑧⑤② 『優希捨牌』 中1南東二九白 (咲は普通の平和系、和は……チャンタか、清一色かな。優希もタンピン系っぽいな) どちらにせよ、そこまで不穏な感じは受けないと判断し、京太郎は1筒に手をかけて場に切り出した。 その時、まこが思わず小さく息を吐いたが幸いにして誰も気づかなかった。 そして次順 『京太郎手牌』 345m45s14556688p ツモ3s (聴牌だっ! これをあがれば) 滑るように1筒に手をかけて場に切り出した。その瞬間、まこのうめき声を京太郎は聞いた。そして 「ロン」 和のよく通る声が響いた。その瞬間京太郎は理解した。 (和は4確や3確をするようなやつじゃない。つまり) 『和手牌』 19m9p19s東南南西北白撥中 ロン1p (逆転の手が入ってる、って……こと……だ……) 「国士無双。32,000です」 終局 咲 34,900 京太郎 8,400 和 37,200 優希 19,500 負け続けてきた京太郎を支えていたもの プライドか、意地か、仲間への思いなのかそれは本人にもわからない。 だが 京太郎を支えてきた「何か」が、ぽきり、と音を立てて折れた。 「うわー……すごいよ、和ちゃん」 呆然としている京太郎。その横で咲があまりにもドラマティックな展開に驚きの声を漏らす。 「まさかこんなにタイミングよく刺さってしまうとはのう」 京太郎と和の手牌を後ろから見ていたまこはそう言いながら天を仰いだ。 「少々出来すぎでしたがね」 和はそういいながら苦笑する。そして呆然とする京太郎に視線を向けた。 「あの、す、須賀君? 大丈夫ですか?」 心配そうに声をかける和だが京太郎は反応を示さない。そんな和を尻目に優希は京太郎の隣に立って背中を軽く叩いた。 「シャキッとしろ京太郎! まったく、どんな手恰好だったんだ?」 そう言いながら優希は京太郎の手配を倒した。 「ふんふん、なるほど……。京太郎、そこまで悪手ってわけじゃないがこの振り込みは防ごうと思えば防げたじぇ」 京太郎はピクリ、と体を反応させ、うつむいた姿勢のまま自分の手配に目をやった。 「お前が1筒対子落としの際は捨て牌はこうなっていたはずだじぇ」 『京太郎手牌』 345m45s11455688p ツモ6p 『咲捨牌』 1⑨白撥二⑧④ 『和捨牌』 四二西西⑧⑤② 『優希捨牌』 中1南東二九白 「確かに1筒ならチー聴も取れるけど、防御ってことを考えたら8筒のほうが圧倒的に安全だじぇ?」 「まぁ、無論私にあたる可能性が0ではないけど」 優希の指をぼんやりと見つめる京太郎。 「まぁ、とは言ってもそこまでの落手、とは言い切れないじぇ。というか国士とはだれも読めないじぇ」 「とは言えもうちょいっと防御のほうにも」 「やめてくれ」 絞り出すような京太郎の声が聞こえた。部室の中がしん、と静まり返った。 「もう、わかった。わかったから。俺が悪かった。俺が下手くそなのが悪かった。だから、もう勘弁してくれ」 ぼそぼそと、うつむいたまま呟く京太郎。それを聞いて何か腹を据えかねたのか優希が食って掛かる。 「なにをふて腐れてるんだじぇ! 敗北から学ばなくて一体どうやって成長するつもりなんだじぇ!?」 だが、その声にも反応せず京太郎は言葉をつづけた。 「もうダメだ。どんだけやってもお前らには勝てない」 「勝てないんだ。どんだけあがこうと」 「お前ら持ってるやつにはどんだけやっても勝てないんだ」 「っ! 京太郎!」 かっとなった優希がつかみかかろうとしたところに慌てて咲が押しとどめる。 「優希ちゃん待って! 落ち着いて!」 「離すんだじぇ咲ちゃん! 京太郎、お前はそんな奴だったのか!? 強くなりたいんじゃなかったのか!?」 余りの事態に和は動揺を隠せずにいた。まこは落ち着かせようと一喝するために息を吸い込んだ瞬間だった。 京太郎から押し殺すような、うめき声のような、鳴き声のような、そんな声が聞こえた。 「つらいんだ。もう、麻雀を打ってても」 「差を見せつけられるばかりで。何もできないまま終わっていくばかりで」 「だから」 「……もう、嫌だ」 弱弱しかったが、痛いほど意思が伝わってきた。 それは、京太郎からの麻雀に対する、メンバーに対する拒絶の言葉であった。 それを聞いて、憤っていた優希も、必死になだめようとしていた咲も、動揺していた和も、 如何に収めようか気を揉んでいたまこも言葉を失った。 静まり返る部室。優希が何か言いたげにするが結局何も言えずに視線を落とした。 「……今日はここまでにしよう。3人は先に帰っとれ」 まこが搾り出すように言った。苦渋の色が強く現れており、苦しげな声であった。 「わしは少し京太郎と話をしてから帰る」 「だ、だったら私も」 いてもたってもいられない、といった様相で咲がまこに食いつく。 だが、まこは頭を振り、3人に近づいて小さく言った。 「今後の……今後の、話じゃけん。3人がいると話にくかろう」 「!」 つまり、彼が今後、どうするのか。 辞めるのか、辞めないのか、そういった話になるまこはそう言っていた。 「京太郎、お前、麻雀部を……」 普段からは想像もつかない様な非常に寂しげな優希の声は最後まで紡がれることはなかった。 そして、それにも反応を示さず、京太郎は俯き続けた。 「……ゆーき、咲さん。行きましょう?」 「の、和ちゃん」 咲は何か言いたげに京太郎と和に視線をさまよせるが、後ろ髪引かれながらも部室を後にした。 優希もそれに続く。ぱたん、と扉が閉まる音が響いて部室には京太郎とまこが残された。 「……何か飲むか?」 しばしの沈黙の後に、まこは京太郎に声をかけるがそれに対して無言で首を振る。 ほうか、と呟いて京太郎の前に椅子を引き、座った。 「すまんかった。皆つい熱が入りすぎたようじゃ。あそこまで負けが込めば……嫌にもなろう」 そう言いながらまこは京太郎に頭を下げる。再び沈黙の時が流れる。 その間もまこは京太郎に頭を下げたままだった。そんな中、沈黙を破ったのは京太郎だった。 「すみません、気を使わせて。俺が悪いんです。俺が、耐えられないってだけで」 拳を強く握り締める。そんな京太郎の声を聞き、まこも顔を上げた。 「わかってるんです。皆、俺のためを思ってやってくれてる。俺のために言ってくれてる。だけど……だけど……」 京太郎の体が震える。今にも泣き出しそうな声で目の前にまこに言葉をぶつける。 「それがつらいんです。皆に、追いつける気がしなくて。自分がまるで強くなってる気がしなくて」 「確かに、ネト麻ならたまに勝つこともできます」 「この前、先輩の店に行って打たせてもらったときも、まぐれでしょうが1回トップを取ることができました」 何かを思い返すように天井を見上げる。その目頭は緩んでいた。 「でも、駄目なんです。このメンバーと打っているとお前の成長なんて大したもんじゃない」 「お前の実力なんて大したものじゃない。お前はいくらやっても絶対に勝てない。お前のやっていることは無駄だ」 「そう言われているみたいで……残酷な事実を突きつけられてるみたいで」 再び俯く京太郎。そして、こらえきれないように、涙がこぼれた。 「つらいんです。麻雀を打っていても嫌な苦しくて辛い気持ちばかりで……。だから」 若干の沈黙が入る。 まこは次に続く言葉をある程度想像できていたが、その想像が外れていることを強く願った。 「もう、麻雀部を辞めます」 無論、そのようなことはなかったが。 静まり返る部室。すっかり蝉の声も聞こえなくなった長野の夜は、静かな羽虫の声が聞こえていた。 京太郎は、何も言わない。俯いたまま時折鼻をすすっていた。 まこは京太郎のその姿を見て、自分の無力さ、愚かさに叫びだしたい気持ちであった。 唇をかみ締める。 (……アホか。そんなことしても、何の解決にもならんわ) 頭を振る。無理やりに頭を落ち着かせて立ち上がり、京太郎の傍らに立つと丸まった背中をそっと撫でた。 「すまんかった、すまんかったのう。こんなに追い詰めてしまっていたとは。部長として、先輩として気づいてやるべきだった」 びくり、と体を震わせる京太郎。 「京太郎の気持ちに気付いてやるべきだったな」 少し間をおいてありったけの気持ちを込めて言った。 「本当に、すまんかった」 京太郎の体が再び震えだす。泣くのを必死にこらえているようだった。 それをみて軽く微笑んで語りかける。 「泣きたかったらないてもええんじゃぞ?」 「……大丈夫です」 「ほうか」 まこは、それ以上何も言わずに京太郎の背中をさすり続けた。 しばらく経ち、京太郎が落ち着いてきた時を見計らってまこは口を開いた。 「京太郎の言いたことはわかった。じゃが……」 ぽん、と軽く頭を叩き、そのまましゃがみこんで京太郎の顔を覗き込む。 「もう少し、考えてみてくれんか? 1週間でいい。時間を置いて、それでも辞めたいというのなら……もう止めはせん」 「1週間……ですか」 「うむ。今の京太郎は心身ともに疲れきっとる」 「決断を咎めるつもりはないが、少し麻雀から離れてみてその上で結論を出しても遅くはなかろう?」 「でも、俺」 「お願いじゃ」 有無を言わせぬ、と言った体でまこが京太郎の顔をじっと見つめる。 その視線になにかいたたまれなさ、後ろめたさを感じた京太郎は思わずうなずいた。 「わかりました。少し、麻雀から離れて考えて見ます」 「ありがとうな。ともかく1週間、ゆっくり休んでくれ。部活漬けで疲れたじゃろ?」 「……うっす」 うなずきつつ、まこは時計を見た。すでに7時を過ぎており、外は真っ暗であった。 「さて、そろそろ帰るか。わしはちょっとやることがあるけぇ、先に帰るといい」 「……わかりました。それじゃあ、失礼します」 何か言いたげな京太郎だったが、結局立ち上がり、頭を下げて部室を扉を開けた。 「染谷先輩」 「ん? なんじゃ?」 扉に手をかけた京太郎は振り返らずに言った。 「たぶん、考えは変わらないと思います。わざわざ毎日辛い思いをしに来るのはもう、嫌です」 そう言い残して京太郎は扉を閉めて去っていった。 まこはしばしの間京太郎が出て行った後の扉を見つめていたが、徐々に体が震えだすのを止められなかった。 「わしは……わしはいったい何をやっているんじゃ」 麻雀卓に寄りかかるように座り込む。 「これから、これからだというのに、こんな、こんな……」 清澄高校麻雀部は名声は手に入れた。 来年になればきっとたくさんの部員が入ってくるだろう。 その時、京太郎が後輩に舐められぬよう、京太郎には地力をつけてほしかった。 沢山部に尽くしてくれた分、彼にも名声を手に入れてほしかった。 高望みかもしれないが、次の個人戦で活躍してほしかった。 そうすれば周りから揶揄されたり批判されることもないだろう。 彼自身が負い目を感じることもないだろう。 そうなってくれることを心から望んでいた (だが、全部、これでは全部、台無しではないか!) それからしばらくまこは一人、悔い続けていた。 次の日、京太郎は暗い顔で通学路を歩いていた。周りに人影は少ない。 もう朝練に出る必要はないのだが、染み付いた習慣は抜けず、結局先日と同じ時間に家を出ることとなった。 (どうするかな。授業が始まるまで予習でもするか? らしくねー) そう自嘲気味に笑って歩みを進める。 学校まであと少し、と言ったところで曲がり角を曲がるとそこには見覚えのある姿があった。 特徴のあるくせっ毛、小柄な体系、小動物系な顔立ち。 どう見ても全国の猛者と渡り合った人間には見えない。 「咲……」 「おはよ、京ちゃん」 「……何してんだ。こんなとこで」 訝しげに尋ねると、少し弱弱しく咲は笑いながら言った。 「京ちゃんを待ってたの」 「お前……俺がこの時間に家を出なかったらどうするつもりだったんだよ」 「でも、来てくれたよね。京ちゃん」 早朝の澄んだ空気の中、二人はしばらく立ち尽くした。 京太郎は何を言うか迷っていたが、先に口を開いたのは咲だった。 怯えと、期待が半々の表情で咲は京太郎に問いかける。 「朝練、一緒に行こう?」 「いや、俺は休む」 「そっか」 「……意外と冷静だな」 「うん、染谷先輩からメールで京ちゃんは1週間ぐらい麻雀から離れるって聞いてたから」 「知ってたのにわざわざ聞いたのか?」 「だって、もしかしたら、って、思って……」 顔を伏せる。その姿に京太郎は若干心が痛んだがそれを振り払うように歩き出した。 「じゃあ、俺は先に……」 「待って!」 京太郎は歩みを止める。だが振り返らなかった。 拒絶の意思が見えるようで、咲の心はチクチクと痛んだが、言葉を続けた。 「ちょっと、1週間だけ、お休みするだけだよね」 むしろそれは問いかけというより願望だったのだろう。言葉の端々が震えていた。 「麻雀部、辞めちゃわないよね?」 再び沈黙。咲は神に祈るかの表情で、京太郎の言葉を待った。 京太郎には咲の顔を見えていないがどれほど不安な顔をしているのか、なんとなく想像ができた。 「いや、辞める」 「……えっ?」 「辞めるよ、麻雀部。1週間後、退部届を持っていくつもりだ」 「嘘……」 「嘘じゃない」 「嘘だよね?」 「嘘じゃない」 「京ちゃん、また私のことからかってるとか、そういうことだよね」 奥歯をぎゅっと噛みしめる。今にも泣きだしそうな咲の声に心がざわめく。 京太郎は大きく息を吐いて、振り向いた。 京太郎の想定通り、やはり咲は今にも泣きそうな顔をしていた。 「嘘じゃない。からかってもいない。もう麻雀が嫌になった。だから、もう、辞める」 再びの沈黙。咲の悲しそうな顔を見て思わず京太郎は視線を逸らした。 「京ちゃんは、私たちと打つの、嫌なの? みんな嫌いになっちゃったの?」 京太郎は何も答えない。正直、京太郎はそれに対して何と答えればいいのかわからなかった。 咲は何も答えない京太郎を見てさらに言葉を続けた。 「私は、京ちゃんと一緒に打てて楽しいよ」 泣きそうな顔で、それでも無理やり微笑んで言った。 その言葉が、京太郎の何か、心の暗い部分に触れた。触れてしまった。 その感情を必死で抑えつけてた蓋が弾け飛び、もう自省は効かなかった。 体温が上がり、なにか、得体のしれない感情が体を支配していく。 それらを吐き出すように、京太郎は口を開いた。 「そりゃお前は楽しいだろうな、咲」 「……京ちゃん?」 京太郎の雰囲気が変わったことを感じる咲。 これまで向けられたことがないような視線を感じ、体を震わせた。 「あんな風に上がれて、欲しい牌がツモれてそりゃ楽しいだろうさ」 拳を強く握りすぎているせいか、京太郎の手が震えていた。 「長野大会の時の数え役満みたいなこと、できたら楽しいだろうな。うん、絶対楽しいよな」 ははは、と乾いた笑いが響いた。京太郎の態度に動揺が隠せず、咲は言葉が出ない。 その様子を見て京太郎は更に言葉をぶつける。 「でもよ、咲。お前、俺の立場に立った時、胸張って楽しいって言えるか?」 「逆転の手が欲しいときに手が入らない」 「軽い手が欲しいときに手が入らない」 「たまのラッキーパンチはそれ以上 パンチで叩き潰されて」 「1か月間、どれだけ打ってもトップが取れない……」 京太郎の頭の中で、そんなことを咲に言っても仕方ない。やめろ、傷つけるだけだ。そう訴えかけている。 だが、止まらない。京太郎の心の中にヘドロのように堆積した感情は止まらなかった。 「お前はさ、咲」 「お前は……」 「お前はそんな状況でも楽しいって言えるのかよ!」 人気のない、早朝の道に京太郎の叫び声が響いた。 咲は言葉を失っていた。 京太郎とは中学生のころの付き合いだがこのように怒鳴られるのは初めてだった。 そもそも、京太郎がこのような悪意、敵意といった負の感情を露わにしているのを見るのが初めてだった。 軽い口げんか程度はすることはあった。 だが、京太郎はいつも笑って、くだらないことを言って咲をからかっていた。 そのあまりのギャップに咲は現実を認識できないでいた。 「どうした? 答えろよ」 乱暴に急かされ、咲は我に返る。 そして京太郎の問いかけに対して思考を及ぼされるが、考えても考えても結論が出なかった。 「だよな。答えられないよな?」 咲は待って、と声を出したかった。だが、いくら考えても答えが出せずにいた。 いや、そもそも出せるはずがないのだ。当たり前の話であった。 「だってお前、そんな状況になったこと、ないもんな」 そう、彼女は考えうる限り、何もできない、といった状況になったことが殆どなかった。 ましてやそれほど長時間打ち続けて全くトップが取れないなど、全く記憶がなかった。 「当たり前だよな。お前は何かをもっていて、俺はもっていない」 京太郎の脳は必死に自分の感情を押しとどめようとする。 取り返しのつかない一言を言ってしまう前に。 「そんなお前が、俺みたいなやつに対して、楽しいか、だって?」 (やめろ) 「嫌みか? 馬鹿にしてるのか?」 (咲を見ろ。もう泣いてるだろ) 「そんなわけないだろ。麻雀はやっぱり、勝たなきゃ楽しくないんだよ」 (口を閉じて、謝るんだ。辞めるにしても咲を傷つける必要がある?) 「俺は」 (せっかく咲は麻雀を楽しく打てるようになったんだぞ!) 「俺は!」 (やめろ!) 「俺はお前らと打っても楽しくもなんともない!」 言い切った後で京太郎は我に返った。完全な拒絶の言葉を口にしてしまったことに驚く。 「京……ちゃん」 ぽろぽろと、涙をこぼす咲。 京太郎は激しく後悔する。決して咲を泣かせたいわけではなかった。 そう、別に咲が憎いわけではなかった。 「ごめん、ごめんね、京ちゃん。ごめんね、私、京ちゃんを苦しめていたんだね」 故に、目の前で泣きじゃくる咲を見て京太郎の心は引き裂かれたような痛みを感じた。 「ごめんね、私のせいで……ごめんね」 次々と咲の目から涙が零れ落ちる。京太郎は何か言おうとするが言葉にならなかった。 「わ、私、きょ、京ちゃんの気持ち、何も、何も考えて、なくて、ご、ごめんなさい」 しゃくりあげながら言葉を震わせながらも京太郎に謝罪の言葉を吐く。 零れ落ちる涙をポケットから取り出したハンカチでぬぐい、咲は顔を伏せた。 「ごめんなさい、ごめんなさい……」 咲が謝るたびに京太郎は自分の心が切り裂かれていくのを感じた。 何かを言わなければ、謝るか何か、言わなければと思って必死に口を開いた。 「……すまん、言い過ぎた」 そう、口にするのが精いっぱいだった。 咲はそれを聞いて最後に一言謝ると、そのまま京太郎のわきを通りぬけてまっすぐ学校に向けて駆け出して行った。 京太郎はその背中を追いかけることも言葉をかけることもできずに呆然と立ち尽くした。 早朝の清澄高校部室。 麻雀卓には和、優希、まこがすでに席に着いていた。 「京太郎、やっぱり来ないのかな」 優希はそう言いつつ、卓のふちに顎を乗せながら牌を手で弄る。 それを聞いて和は顔を伏せながら呟いた。 「……どうでしょう。いえ、多分、来ないと思います。来てほしいとは思いますが」 昨日の振り絞るような京太郎の声を聴いて和の思考はどうしても悲観的な方向に流れていく。 「どうじゃろうな……」 まこはそう相槌を打ちながら、昨日の去り際のセリフを思い出していた。 ――わざわざ毎日辛い思いをしに来るのは―― 部を預かる身として突き刺さる言葉であった。 「昨日ののどちゃんの国士、強烈だったからなー」 「……私もできすぎだとは思います。でも、あがらないのはそれはそれで、須賀君に対する冒涜です」 「そうだけどさー」 和と優希の間でそのような会話をしていると部室の扉が開いた。 3人が一斉に扉を開けるがそこにいたのは京太郎ではなく咲であった。 「おーう、咲ちゃん。おは……よ、う?」 優希がいつものように明るく挨拶しようとしたが、言葉を失った。 咲はハンカチを片手にボロボロと泣きながら部室に入ってきたからだ。 「咲さん、いったいどうしたんですか!?」 和が慌てて咲に駆け寄る。優希とまこもそれに続いた。 「和ちゃん……私、私」 「咲さん?」 「私、私、京ちゃんに酷いこと、酷いこと言っちゃった」 「咲、京太郎と、会ったのか!?」 まこが驚きの声を漏らす。 それからも何かを言おうとするが言葉にならない咲。その背中をさする和。 優希とまこもそれを心配そうに見つめた。 しばらくして、まだ泣いてはいるが咲から何かあったかを聞いた3人はそれぞれ言葉を失った。 京太郎がそれほど感情を露わにしたこと、それほど鬱屈した思いを抱えていた、そして 「楽しくない、か」 ぽつりと優希が呟いた。 3人それぞれ、この1か月京太郎の力になろうとしていた。 だが、それが京太郎を苦しめるだけに終わったという事実に打ちのめされていた。 昨日の様子を見て和も優希もなんとなく悟っていたことであったが、それでも心に響く。 (なぜこうなることを予期しておかなかった!) そしてまこは一人悔いていた。 京太郎は今不安定だからそっとしておいてやろう、その一言を連絡しなかった昨日の自分を悔いた。 (恐らく、京太郎が一番複雑な思いを抱えているのは咲だろう) (一番長い付き合いで、あいつが連れてきたんだからな) (それぐらい、わかっていたことじゃろうが!) まこの目の前では咲がまだ泣いている。優希がそれに釣られて涙をこぼしていた。 和は二人を必死になだめようとしているが、その本人も目に涙を浮かべていた。 (部長を引き継いで、たった1か月。それなのにもう部の崩壊の危機) 京太郎は部を去ろうとしている。咲はとても麻雀が打てる精神状態ではないだろう。 優希にも和にも心にしこりを残したはずだ。 (わしは、何をやっているんじゃ。本当に) 悔しくて、無念で、口惜しくて、必死にこぼれそうになる涙をまこは必死に堪えていた。 その時、唐突に部室の扉が開いた。 「おっはよー。元部長が久しぶりに様子を見に来たわよー……って、どうしたの、これ」 そこには8月をもって部を引退した元部長、竹井久が立っていた。 「この1か月精力的に活動してるって話は聞いてたけど、そんなことになってたのね」 あの後、とてもではないが朝連などできる状態でないと判断したまこは3人娘に朝連の中止を告げた。 しばらく泣きじゃくっていた咲は和や優希に慰められながらようやく落ち着きを取り戻し、2人とともに部室を出て行った。 咲の泣き声が聞こえなくなり、静かになった部室でまこは久にこれまでの経緯を話し、現在に至る。 「すまん、本当に。引き継いでたった1か月だというのに、こんなことになってしまった」 まこは顔を伏せ、罰を受ける子供のように頭を垂れた。 それを見てあわてて久は言葉をかける。 「ちょっと、やめて。別に誰が悪いなんて責めるつもりはないわ」 「しかし……あんたのときは、こんなことにはならなかったじゃろ?」 そうまこが言うと久は若干ばつが悪そうにため息をついて、苦笑した。 「それは私が部長の立場でいたときに、誰もが頭を悩ませる初心者の育成って言うことに対して先送りにしてたからよ」 後悔の念を感じさせるように、久は言葉を続ける。 「きっと、私がまこの立場でも同じ失敗をしていたと思う。私だって、須賀君には強くなってほしいしね」 (放置気味の方針をとってしまった私が言うのもなんだけどね、まったく) この事については久の心の中に若干のしこりとして残っていた。 最後の夏ということでなんとしても勝利を、とわき目も振らず突き進んでいったが、そのせいで京太郎を蔑ろにしてしまった。 (今考えると、本当にひどい話だわ。よく着いてきてくれたわね、彼) 小さくため息をつく久。 しばらく沈黙が続くが、とても頼りげのない声でまこが口を開いた。 「……正直、もうわしはどうしたらいいか。1週間考えてくれとはいったが、このままじゃ間違いなく辞めてしまうじゃろう」 嫌われてしまってだろうしな、と言葉を付け足して椅子にもたれかかった。 まこは部長という立場でなければ泣き出したい気持ちだった。 (これは、重症ね。皆) このままでは京太郎の退部とともに皆バラバラになってしまうだろう。 久はなんとなくそんな予感がした。 とは言え、それ以上に久には何かの確信があった。 (でも、取り戻せないわけじゃない。きっと) (きっかけはちょっとのすれ違いのはず。だから……) 久は佇まいを直してまこに向き直った。 「わかったわ。この件、ちょっと私に任せてみない?」 「えっ?」 「かわいい後輩たちが悩んでいるんだから、一肌脱ぎましょう。ね?」 「しかし、これはわしらが……」 「まこたちだけの責任じゃないわ」 わしらが悪い、そういいかけたまこの言葉をさえぎる久。 「彼の教育を丸投げしてしまったのは私だし、この状況の種を作ってしまったのは私の責任よ」 それは半分懺悔であったのだろう。辛そうに、とても辛そうに久は言葉を続けた。 「だから、お願い。私に任せてもらえないかしら?」 まこはそれを受けてしばらく黙るも、小さく頷いた。 「……すまんな」 「いいのよ。ただ、彼を絶対に連れ戻せるかどうかわからないけど」 そういって立ち上がり、大きく伸びをした。 「一度、話はしてみたいからね。彼がどう考えているか。須賀君の口から聞いてみたい」 「京太郎ー! 部活行かなくていいのー?」 「……今日は休みー」 土曜日。いつもだったらとっくの昔に部活のために学校に向かっている時間帯であったが、 京太郎は自室でゴロゴロとしていた。 階下から聞こえる母親の問いかけにも気だるげに返事をする。 咲とのあの一件から丸1日が経った。 あの後、クラスでも咲と目を合わせることができずそそくさと帰宅した。 メールや電話で謝ろうと思って何度も携帯を手にとったが、結局何もできずにいた。 「そう、ならいいけど。この前言っておいたけど、お父さんとお母さん、出かけてくるからね」 「あーい……」 「夜には戻るからね。昼は適当に済ませなさいねー!」 「あー……」 「もう、部活が休みならちゃんと勉強しなさいよー!」 そう言うと玄関の扉が閉まる音が聞こえて沈黙に包まれた。 「……どうするかなー」 京太郎は暇を持て余していた。ここ最近は空いた時間はすべて麻雀につぎ込んでいた。 単純な話、そんな生活から麻雀をなくせば暇になるのは当たり前の話である。 「勉強……って気分じゃねーよなー」 枕元の本棚に目線をやる。すべて読み終わった漫画の隣に何冊かの麻雀教本が置かれていた。 和が貸してくれたもの、勧められたて自分で買ったものが並んでいる。 京太郎は視線を外して体を起こした。 勉強机に視線をやる。咲がいろいろコメントをつけてくれた牌譜が重ねて置かれている。 部屋の隅に目をやる。まこがくれた麻雀牌とマットが置かれている。 視線を下げる。自分の手を見ると麻雀漬けのせいかすっかりと荒れた手が見える。 手を握り締めて、ざわめく心を振り払うように首を振り、顔を上げた。 目の前の壁に、写真が1枚貼られていた。全国大会後、東京を後にする前に撮った写真だった。 『最後にもう1枚だけみんなに写真を撮ろうじぇ! せっかくだから東京駅をバックに!』 『またかよ……ったく、ほら、カメラ貸せよ。撮ってやるから』 『? 何言ってるんだじぇ。お前も入らなくてどうするんだじぇ?』 『嫌、だって俺は……』 『あーもう! つべこべうっさいじぇ! そこのおねーさーん! 写真撮ってほしいのじぇ!』 『って、あいつ……』 『ふふっ、ほら、京ちゃんこっちこっち』 『須賀君は一番大きいんですからしゃがんでくださいね』 『あらあら両手に花どころじゃないわねー須賀君』 『うりうり、嬉しいかの京太郎』 『あーほら、京太郎! もっと詰めろ! 入れないじぇ!』 『だー! タコス押すな! 倒れる倒れる!』 ――それじゃ、撮りますよー!―― ――ハイ、チーズ!―― 写真の中では一番前でしゃがんだ京太郎の頭をみんなが撫でまわしたりつついたりしている。 写真の中の京太郎は困った顔をしつつも笑っていた。 皆が皆、とても楽しそうに、幸せそうに笑っていた。 とても、幸せそうに。 『京太郎、お前、麻雀部を……』 『須賀君……』 『すまんかったの、京太郎』 『ごめん、ごめんね、京ちゃん』 床に拳をたたきつけて立ち上がる。京太郎は壁の写真に向かって手を伸ばす。 コルクマットに留められた写真を手に取った。 力を入れようとする。決別をするかのように、それを引き裂こうとする。 「……なんで、できないんだ」 それでも、引き裂くことはできなかった。 嫌な思いをしたはずなのに、辛い思いをたくさんしたはずなのに。 もう部活はやめると決心したはずなのに。 京太郎はそれを引き裂くことができなかった 「くそっ」 写真をもう一度コルクマットに留めた。 そのまま踵を返して、ベッドに腰掛けた。 そのタイミングだった。 ピンポーン、とよく響く音が家の中に響いた。 「誰だ?」 恐らく郵便や宅配の類と考えたが、京太郎の部屋の窓からは玄関が見えないので1階に下りなければ確認できない。 「……別にいいか」 京太郎は居留守を使うことを選択した。 母親からは特に何も聞いていないので重要なものではないだろう、と判断した。 だが、10秒ほどしてもう一度インターフォンが鳴った。 無視をする。 更にもう1回。 無視をする。 更にもう一回。 無視をする。 そしてもう一回。 「あーもう! 誰だよ!」 根負けした京太郎は1階に下りリビングに備え付けられたインターフォンの受話器を手に取った。 「はーい?」 「あっ、宅配便でず。はんごいだだげまずが?」 ワザとらしいほど低い声だった。首をかしげながらもハンコを引出しから取り出し、玄関に向かった。 (腰の強い業者だな、しかし) そう思いながら、玄関の扉を開けた。 「はいはい、はん、こ……?」 「やっほー、久しぶり。お届け物です」 そこには元部長、竹井久が立っていた。 「部長、なに」 「私はもう部長じゃないわよ」 「……竹井先輩」 1か月近く会っていなかった先輩の登場に京太郎は事態が理解できないでいた。 「なんで俺の家……あーいや、元部長だから知ってるか。そりゃ」 「そういうこと。久しぶりね。元気してる?」 にやにやと、いつもの何かを企んでるような笑みを浮かべていた。 「いや、そうじゃなくて、なんで、俺の家に?」 「須賀君、暇でしょ?」 質問に質問でかぶせる久。思わず言葉を失う京太郎。 「ん? どうしたの? 暇じゃないの?」 「いや、あの質問の意図が……」 「そのままの意味よ? 暇なんでしょ?」 「まぁ、暇、ですけど」 染みついた下っ端根性からくるなにかなのか、反射的に答えてしまう京太郎。 それを聞いて満足そうに微笑むと久は言った。 「須賀君、デートしましょ?」 「……はっ?」 「暇なんでしょ、一緒にどこか遊びに行きましょ?」 「いや、でも」 あまりの内容に思考が追い付かず、あいまいな返事を返してしまう。 「ほらっ! さっさと着替えてきて! 5分以内ね!」 「はっ、はい!」 慌てて踵を返し、自分の部屋に戻ってジャージ姿から私服に着替え始める。 (っていうか何だこれ?) (何だこの状態?) (デートって、えっ?) 京太郎はそう思考しつつも久の言うとおりに身支度を整え、玄関に戻ったのはきっかり5分後だった。 「さーって、どこに行きましょうかねー」 「……」 楽しそうな久といまだに納得がいかない表情をしている京太郎が街中を連れ立って歩いていた。 京太郎は久の真意がつかみあぐねていた。 現在の部の状態を誰かから聞いたのだろう。それはわかる。 それを聞いて何かしらの目的をもって訪ねてきたのだろう。それもわかる。 だが、それとこのデートが結びつかない。問いただそうと京太郎は口を開いた。 「部ちょ……竹井先輩、いったい何を」 「あっ、須賀君! ゲーセン行きましょゲーセン!」 指差す方向にはこの辺りでは一番大きなゲームセンターがあった。 問い詰めようとした京太郎の言葉は遮られ、行き場を失った。 「須賀君、ゲーム得意?」 「あ、え、はい、まぁ、好きですけど」 「よし! じゃあ格ゲーやりましょ。最近はまってるのよねー」 「はまってるって……先輩、受験生じゃ」 「あーあー聞こえない。ほら、行くわよ!」 そういいながら久はゲームセンターに駆け出して行った。 何か腑に落ちないものを抱えつつも、京太郎は後を追った。 「……負けた」 ゲーセン内の隅にある休憩スペースで、口から魂が出てきそうな雰囲気を纏わせながら久はベンチに座っていた。 ゲーセンに着くなり最近盛り上がってる格闘ゲームを二人でやったがおおよそ9:1で京太郎が勝利を収めた。 「先輩。不利フレーム背負ってる状況で暴れすぎですって」 「あーその、私ってほら、ここぞって時で悪い待ちをしちゃうのよ。私それで」 「負けてますよ?」 「あぐっ」 「あとなんすか、リバサ投げとか。無敵ついてないですよあれ」 「いや、つい悪い待ちを」 「だから負けてますって」 「うぐっ」 完全にやり込められて言葉を失う久。 京太郎は久のこういう姿を見るのは初めてだったため、思わず笑みがこぼれた。 「ははは、さすがに格ゲーも麻雀のようにはいかないわね」 お手上げ、といった感じで久が笑う。京太郎は久の隣に座ってその言葉に頷いた。 「まぁ、格ゲーは悪い行動をすりゃ基本自分が不利になるだけですからね」 「いやー、難しいわねー」 久は軽く伸びをして立ち上がった。 「さて、ちょっと失礼するわねー」 どこへ、と聞きかけた京太郎は久が向かった方向――トイレがある――を見てあわてて口を閉じ、はい、と返事をした。 「やった! 見ろよほら! 大三元大三元!」 久が席を立ち少し経った後、そんな叫び声が聞こえた。 見れば中学生ぐらいの男子3人が麻雀ゲームの筐体に集まっていた。 「うおーすげー!」 「やるじゃん!」 「すげーだろすげーだろ!?」 アガった本人も友人もとても楽しそうにはしゃいでいた。 その笑顔は京太郎にはとても眩しく見えた。 「私もあんな頃があったわねー」 「あっ、ぶ……先輩、おかえりなさい」 ただいま、と返事して久はふたたび中学生達を見た。 「初めて役満あがった時とか興奮のあまり卓に足をぶつけちゃったぐらい」 「あ、俺もです。ネト麻ですけど……。深夜に叫んで親に怒られました」 「ふふ。みんな同じね。でも、だんだん、勝つことしか考えなくなってくるのよね」 当たり前の話だけど、そう結んで久は寂しげに笑った。 「最初は麻雀が打てるだけで楽しかったのにね」 京太郎はその言葉に返事を返せなかった。 最初のほうは三色や一通が上がれただけでうれしかった。 初めてメンチンをあがった時は何度も何度も待ちを確認して恐る恐るあがった。 役満を聴牌した時など、ひきつった顔をしてしまい、皆に笑われた。 負けても笑っていられた。勝てなくても笑っていられた。 少なくとも入部したころはそうであった。 いつから、そう思い始めていたのか。 思い返してみると、意外と最近なことが分かった。 (そっか、そうだったんだな) 長野県大会を優勝し、インターハイでも優秀な成績を残したメンバー。 表彰されインタビューを受けている5人を見て嫉妬の心がなかったと言えば嘘になる。 だが、京太郎はそれ以上に思った。 (自分もあそこで、あの横に並んで立ちたい) (舞台の上でで強豪たちと渡り合い、立ち向かっていく) (その一打で観客を魅了し、驚かせ、感動させる) (そんな存在になりたかった) (そして、仲間と、一緒に並んで立ちたい) (そう思ったんだった) (そこからだったんだな。勝ちたいと願い始めたのは) (強くなりたいと願い始めたのは) (皆がいて、俺にとって大好きで憧れの皆が居たから) (そう、思ったんだった) 「どうしたの、須賀君?」 ぼうっ考え込んでいた京太郎は久に声をかけられて我に返った。 気がつけば中学生たちも居なくなっていた。 「大丈夫です、すみません」 「ふーん……」 久はそれを聞いて何かを考えた後、いたずらを思いついた子供のように笑った。 「須賀君、あれ、やってみない?」 「えっ?」 久が指差す方向には先ほどまで中学生たちがプレイした麻雀ゲームの筐体があった。 全国のゲームセンターに設置されており、日本全国のプレイヤーと対戦できるそのゲームは なかなかの人気を誇っている。 麻雀の内容だけを見ればネット環境が整っていれば無料でできるネト麻とさほどさほど変わらないが、 ポイントをためてアバターを着飾らせたりチームを組んで対抗戦をしたりと多様な機能が揃っている。 京太郎も何度かプレイしており対応のカードも所持していた。 「考えてみればしばらく須賀君と打ってないしね。どれぐらい須賀君が上手くなったのか見てみたいわ」 「いや、でも」 今は麻雀から離れている、そう言って断ろうとしたが久に手を引かれて言葉が打ち切られる。 「いいからいいから。あれもネト麻みたいなものでしょ? だったら気楽なものじゃない。ねっ?」 そう言いながら京太郎の腕を掴み引っぱった。流されるように京太郎は立ち上がり、筐体に向けて歩き出した なぜか強く断れない自分に京太郎は首を傾げつつ筐体の椅子に座った。 「さっ、早く早く」 そう言いながら、久も隣に座る。 こういった筐体はに備え付けられた椅子は狭い。 詰めれば2人座れないことはないが、必然的にかなり近い距離で座ることになる。 少し身じろぎすれば肩が触れ合う距離。 京太郎は思いがけない事態に激しく動き出す心臓の音を感じていた。 (部長、やっぱいい匂いするなー……って、いやいや! なに考えてんだ!) 邪な考えを振り払いながら京太郎は筐体に100円を投入した。 そんな京太郎の心中を察しているのかしないのか、久は楽しそうに見ていた。 自分のカードを読み取らせ画面をタッチして対局メニューに進む。 10数秒ほど待つと程なくメンバーが揃い対局が始まった。 派手な演出とともに牌が配られる。2シャンテン、と小さく文字が表示されていた。 「さすがお金かけてるだけあって派手ねー。しかもシャンテン数まで出してくれるんだ」 「えぇ。というかこのシリーズ、演出がどんどん派手になってくんですよね。派手すぎて初めての人は大体驚きます」 そう言いながら手の中でポツリと浮いていた北を切り出す。 淡々と場が進み7順目。 『京太郎手牌』 456m34678s34p西西 ツモ5p ドラ9s 画面上ではリーチというアイコンが激しく点滅している。 特に悩みもせず京太郎はそのアイコンを押してリーチをかけた。 「……へぇ」 「え? 何かおかしかったですか?」 「いや、そういう手をリーチ出来る子だったのね、須賀君」 くすくすと笑いながら久は画面を指差す。 「てっきり、麻雀は三色だ、とか言いながら345の三色の手代わりを待つかと思ってたわ」 「ぶち……竹井先輩の中で俺はどういうイメージなんすか」 心外だ、と言いたげな表情をして画面を指差した。 「単純計算、手代わりの4枚とあがり牌の8枚じゃ確立が違いすぎます。確かに平和のみですけど、この麻雀赤がありますし」 そこまで言ったタイミングで画面が暗転し2索を引いてきて、手元のアガリボタンが激しく点滅した。 それを軽く叩きアガリを宣言する。 「平和手、特にこんな順子が被らない平和は」 画面の中で裏ドラがめくられる。表示された裏ドラ4萬だった。 「裏ドラの期待値が高いですからね」 メンピンツモ裏1で1,300-2,600のツモアガリ。なかなかの好スタートだった。 「はぁー、須賀君から期待値って言葉を聞くことになるとはねー」 「なんすかそれ。まぁ、和の受け売りですけど……」 そこまで言って軽く心がきしんだ。 その痛みを振り払うように画面に目を向ける。 ちょうど親番である東2局の配牌が配られたところだった。 『京太郎配牌』 12244689s45p西北北白 ドラ6p 少し手が止まった後、西を切り出す。すると隣でへぇ、久の呟きが聞こえた。 「染めに行かないのね。ぱっと見た目染め手の手配だけど?」 「一応、点数的にはリードしてますからね。確かに染めに走れば仕掛けられますけど」 場に北が打ち出される。それをスルーして話を続けた。 「北ポンしたところで形は苦しいですし、ドラの受け入れ切ってまで行くほど見込める点数が高いわけでもないですから」 だったら、といいながら画面に目をやる。3索をツモり、少し考え白を打つ。 「普通に平和なり何なり作ったほうがいいと思うんです」 これは染谷先輩の受け売りですが、と付け加えて画面を操作していく。 2順ほど端牌をツモ切り、赤5萬を引き当てた。 『京太郎配牌』 122344689s45p北北 ツモ【5】m ドラ6p 3秒間ほど考え、9索を切り出した。 「一通も見ないのね?」 「タコスにお前は一通という役を忘れろと言われましてね……」 次順で7萬を引き打2索として手配はこのように変わった。 『京太郎手牌』 【5】7m1234468s45p北北 ドラ6p 「あと一息ってところね」 「えぇ、愚形が残る可能性が高いですが……それでも」 次順、5索を引き打8索。 さらに2順ほど場に切れた字牌引きで空振るがついに聴牌となる牌を引き入れる。 『京太郎配牌』 【5】7m1234456s45p北北 ツモ3p ドラ6p 「残念。安めな上に愚形が残っちゃったわね」 「えぇ、でもこれは」 「即リーね」 「はい」 1索を場に打ち出してリーチ宣言をする。 「うん、よく捌ききったわね。偉い偉い」 まるで子供をあやすような声で京太郎を褒める久。若干むくれながらも、京太郎は口元をほころばせた。 その後、6萬を引きあがり、裏ドラも乗せて4,000オールをあがったのはそのすこし後であった。 「ほんと、大分練習したのね。かなり上手くなっていて驚いたわ」 ゲームセンターにほど近いファーストフード店で二人は向かい合って座っていた。 そんな久の言葉に京太郎はコーラをすすりながら気のない返事をする。 「そうですか?」 あのあと数回プレイしたが、結果すべて1~2位で終わることができた。 京太郎の段位が初段から2段に上がったタイミングでゲームセンターを出てこうして昼食をとっている。 「えぇ、前みたいに何でもかんでも押したり何でもかんでも下りたりってそんなこともなかったし」 久は手元のポテトを口にくわえて言葉をつづけた。 「手役を無理に追いかけることもなくて、素直に打っていたしね」 「そりゃ、まぁ、基本じゃないですか」 「その基本がちゃんとできていない人がいるのよ、意外と。きちんと自分の打牌に理由を持っている人なんてさらに少ないものよ」 それでも納得がいかなそうな京太郎は首をかしげた。 「でも、よかったわ。ほんと」 カップのふちを何気なく叩きながら久はどこか嬉しそうに言った。 「須賀君、麻雀のこと嫌いになったわけじゃなかったのね」 「えっ?」 その言葉に京太郎はぽかんと口を開けた。 「まこからいろいろ聞いたけど、須賀君が麻雀を嫌いになってしまったんじゃないかって、心配だったのよ?」 「……やっぱり染谷先輩から話を聞いてたんですね」 「えぇ、そうよ」 「じゃあ、今日俺を連れ出したのも……」 俺を引き留めに来たんですか、と続けようとしたところで久は言葉を遮った。 「それは違うわ。私は須賀君と話がしたかっただけ。ここの所会ってなかった後輩とね」 「……」 どこか訝しげな表情で京太郎は久を見る。 「あら? 信じてくれないの?」 「何か裏がなきゃ竹井先輩が俺をデートになんて誘ってくれるわけないですからね」 「ははーん、裏があると思って、本当のデートのお誘いじゃなくて拗ねてるのね?」 「違いますっ!」 (だめだ。やっぱりこの人には敵わない。どうしてもペースを乱されるし、なぜか言われたことに従っちゃうんだよなぁ) 心の中で京太郎はぼやいた。無論、実際に口に出すとさらにからかわれるので言わないが。 「ふふっ、でも話がしたかったっていうのは本当に本当よ」 佇まいを直し、笑みは浮かべたままだがどこか真剣な雰囲気で言った。 「ああいうことがあって、須賀君が麻雀を嫌いになってしまったらとても悲しいことだから、ね」 なんと返していいかわからず、京太郎は黙り込んだ。 「でも、さっき麻雀を打ってる姿を見て確信したわ。須賀君はまだ麻雀を嫌いになっていないって」 だって、と一拍おいて本当にうれしそうな笑みを浮かべていった。 「私に打牌の説明をするとき、裏目を引いちゃって悔しがっているとき、欲しいところを引いてきたとき」 ふふ、と久は小さく笑った。 「本当に、楽しそうだったわよ。須賀君」 (そう、だったのか?) (嫌いになった。いや、嫌いになったはずだ?) 京太郎は自問自答する。だが、霧がかかったように自分の本心が分からない。 「『何切る』な手になった時にいろいろ説明して切った後、想定通りに引いてこれた時とか、須賀君すごいドヤ顔してたわよ」 「ま、マジですか」 全く記憶のない衝撃の事実に京太郎は思わず顔が熱くなる。 そんな様子の京太郎を見つめて久は楽しそうに笑った後、さらに言葉を続けた。 「でもね、それ以上に嬉しかったのは」 「須賀君がみんなのことを嫌いになってないっていうこと」 「それが本当にね、本当に嬉しかった」 沈黙が二人の間に流れる。 京太郎はその言葉に対して言い返そうとした。 (嫌いだ。嫌いになったはずだ) だが、その言葉が出ない。言い返す言葉が見つからなかった。 その様子を見つめながら、久は言葉を続ける。 「須賀君が何かを説明するとき、誰々に教わったことって必ず付けていたの、気が付いた?」 「えっ?」 「ふふ、やっぱり無意識だったのね。その時、どこか誇らしげにしてたり、申し訳なさそうな顔、してたわよ」 「……そこまで、見てたんですか。俺が打ってるの見てるだけなのに妙に楽しそうだな、とは思いましたけど」 「それだけ表情がコロコロ変わってればね」 恥ずかしそうな、ばつが悪そうな顔をしながら京太郎は下を向いた。 「嫌いな人の名前をあんな風に言うはずないものね。ほんと、嬉しかったわ」 再び、沈黙。 久は京太郎の言葉を待っているようだ。 「でも……」 「うん?」 「それでもあいつらと麻雀打つのがつらいのは、事実です」 拳を握りしめる。あのときの無念さが京太郎の心に蘇ってきた。 「勝てなくて、どれだけ打っても勝てなくて」 「みんなも俺のために力を尽くしてくれて。それでも勝てなくて」 「差を、見せつけられてるみたいで、本当に、つらいんです」 絞り出すような京太郎の独白を久は黙って聞いていた。 黙りこくってうつむく京太郎を見て久は周りを見渡した。 「……混んできたみたいね。一旦出ましょ?」 「……はい」 京太郎は暗い顔のまま、久は何かを考え込むかのような顔で店を後にした。 店を出て久はどこかに向けて歩き出す。 京太郎は虚ろな表情で着いていく。 繁華街から離れて徐々に物静かになっていくが、2人とも何も言わずに歩き続けた。 しばらく歩いた後、久は手元の時計で時間を確認し、後ろを振り返った。 「……まだ少し時間あるし、ちょっと座りましょうか」 久が指し示すほうには公園があった。 「……何か予定でも、あるんですか?」 「いいからいいから」 暗い顔で尋ねる京太郎を押し切り久は公園に入って言った。 京太郎は少し立ち尽くしたのち、黙って後を追った。 「休みだっていうのにほとんど人がいないわねー。最近の小学生は外で遊ばないのかしら?」 久は公園に入るなりブランコに座って漕ぎだしながら言った。 京太郎は何も言わず隣のブランコに腰を掛けた。 「ねえ、須賀君。いくつか聞いてもいい?」 「……どうぞ?」 「麻雀って中国で生まれて日本に来て、それから世界的な競技になったけど、なんでそこまで世界的に広がったと思う?」 「なんでって、そりゃ、面白いから、とか、楽しいから、ですか?」 「ふふ、それが真理だと思うけどね」 久はブランコを小さく揺すった。きぃきぃと、金属のこすれる音が響いた。 「須賀君、貴方将棋やチェスはできる?」 「えっ? まぁ、駒の動かし方ぐらいは……」 いきなり質問の内容が変わり京太郎は動揺しながらも答えた。 「じゃあ、貴方今から今から羽生プロと将棋を指して勝てると思う?」 「何を……そんなの無理に決まってるじゃないですか」 「そうよね。私も将棋に関して駒の動かし方ぐらいだけど、8枚落ちでも絶対に勝てないわ」 久の質問の意図がつかめず京太郎は首をかしげた。 「でも、麻雀は違うわ。どんな強い人間でも初心者を負けることはある」 「……」 京太郎にとってはその言葉については納得しかねるものがあったが、口をつぐんだ。 「麻雀は運が絡むからね。そう、だからつまり」 ブランコを揺する手を止めて久は京太郎に向き直った。 「麻雀ってクソゲーなのよ」 「……えっ」 まさかの発言に京太郎は思わず声を漏らした。 「く、クソゲーって、そ、そんな」 「あら? 勝負の行方がある種運に左右されるなんてクソゲー以外の何物でもないじゃない?」 どこか楽しそうに久は言った。 「じゃあ、須賀君。さっきやった格闘ゲームなんだけど、私が振った攻撃が2分の1でガード不能になるって言ったらどう思う?」 「……クソですね」 「攻撃をガードされた時、2分の1で不利だけど2分の1で有利なら?」 「とってもクソですね」 「でしょ? まぁ、極端な例だけどね。将棋だってそうよ。最初にじゃんけんして負けたほうは飛車角落ちでやるとか、酷い話でしょ?」 「そりゃ、まぁ」 「でも、麻雀ではそれがまかり通っている。最初のスタート地点も違う。途中経過も違う」 「かといってカードゲームのように降りてゲームから離脱することもできない。クソゲーじゃない。これ?」 「いや、それを言っちゃうと……」 「でもね」 久はブランコから軽くジャンプして着地し、伸びをした。 そして笑みを浮かべながら京太郎に向かい合う。 「だから面白いのよね、麻雀て。クソゲーがつまらないとは限らないとはよく言ったものね」 楽しげに笑う久。京太郎は返事を返さず、そんな久を見つめた。 「麻雀って強い人が勝つとは限らない。そんな理不尽さがあるから楽しいと思うの」 「確率を超えた、計算を超えた何かがある。そこから生まれる何かがある」 そこまで言い切って、久は真剣みを増した表情で、続けた。 「その理不尽さ。それにはきっと誰にもかなわない。咲も、お姉さんの照さんも、天江衣も誰も彼も」 「……そうでしょうか? 正直、想像がつかないです」 咲が麻雀を打っていてツモが全く来なくて嘆いている、そんなシーンが想像できなくて京太郎は久に問いかけた。 「気持ちはわかるわ。彼女らのオカルトめいた『何か』はきっと人間がその理不尽に対抗するために生まれた『何か』なんだと思う」 「理不尽に、対抗する『何か』……」 「ある種の進化なのかしらね? だから通常では考えられないような手をあがる。勝ち続ける」 でもね、と一旦間を切ってどこか悲しそうに、どこか寂しそうに 「それでもきっと理不尽なそれに屈するときがある。もし、もし、強い人が必ず勝つ。そんなことがあれば」 ため息をついて、言った。 「それはもはや麻雀ではないわ」 「もちろん、技術や知識は必要よ。麻雀は確率のゲームでもあるから」 しばしの沈黙の後、久はそう言葉を続けた。 「だから強くなるためには勉強や訓練が必要なことも事実。だから」 久はブランコに座ったままの京太郎の前にしゃがみ込み、京太郎の顔を覗き込んだ。 「信じて戦い続ければ麻雀の理不尽さが味方してくれる時が、きっと来るわ」 「たとえ須賀君が対抗するための『何か』を持っていなかったとしても」 「『何か』をもっていなくても麻雀は勝てる。もたざるものでも、もつものには勝てる」 そう言って、久は京太郎の腕を優しく撫でた。 「私はそう信じているわ」 「……でも、それって、残酷な話じゃないですね」 俯いていた顔を上げ、久と目を合わせる。顔が近いが、なぜか照れはなかった。 「俺みたいにもってないやつは、もってるやつに1勝するまで、どれだけの敗北を差し出さなくちゃいけないんですか?」 「百か千か万か……俺は勝つためにそれだけ負け続けなきゃいけないんですか?」 「もってないやつってのは、それを受け入れなくちゃいけないんですか?」 「そんなの、俺には……耐えられない」 ブランコの鎖を強く握りしめる。がちゃり、と音が鳴った。 「……」 久は内心歯噛みした。久自身そうは思ってはいない。自分以上の化け物はウジャウジャいる。 そう思っていても、彼からすればもっている人間なのだろう。 心を悔しさに支配されつつも久はバッグから1枚の紙を取り出した。 「須賀君、ちょっと、これを見てもらえる?」 「……なんですか」 打ちひしがれた顔でその紙を取出し、広げた。 「牌譜……?」 そう、そこに書かれいたのは見覚えのない字で書かれた牌譜だった。 「これ、だれの牌譜ですか?」 「いいから、読んでみて」 意図がつかめないまま、言われるがままに目を通した。 「……酷いですね」 5分ほどその牌譜に目を通していた京太郎がポツリと言った。 「感想?」 「えぇ、ここ」 そう言いながら牌譜を指差した。 東1局南家 6順目 『???手牌』 123m22288s12278p ツモ9p ドラ2m 「聴牌しましたけど、打1筒でリーチしてません。個人的には即リーですけどまぁ、それはいいです。問題は次順ですよ」 『???手牌』 123m22288s22789p ツモ4p ドラ2m 「ここでなぜか2筒切りリーチしてます。だったらなんで6順目でリーチしないんですかね?」 「同じ3筒待ちなら6順目に2筒切りでリーチできるのに」 和に見せたら絶対に叱られますね、そう結んで牌譜を久に返した。 「ふふ、ありがとう。須賀君も言うようになったわね」 牌譜をしまいながら久は笑った。 「で、結局誰の牌譜なんですか?」 「これはね、これから会う人の2年前の牌譜よ」 そういいながら久は立ち上がった。京太郎の返事を聞かずに歩き始める。 「さっ、行きましょ?」 「へっ、行くって、会うって……」 その声には答えず久は先に進んでいく。状況が理解できないまま、京太郎は久の後を追った。 「先輩、いい加減にどこに行くか、誰に会うか教えてください」 公園を出て10分ほど歩いたところで痺れを切らした京太郎は久に尋ねる。 「もうそろそろよ……ほら、あそこ。もう待ってるわね」 久が指し示す所には古めかしい雀荘が立っていた。その前に一人の髪の長い女性が経っていた。 久はその女性に近づき声をかけた。 「お待たせ。今日はごめんなさいね、急に」 「何、ついでといえばついでだ。で、そっちの彼が?」 「えぇ、私の後輩の須賀京太郎君」 髪の長い女性が京太郎に向き直った。 京太郎はその女性に見覚えがあった。 (長野県大会決勝のあの舞台、咲と戦った) 「初めまして。須賀君。私は加治木ゆみ。よろしく」 (鶴賀学園の、団体戦大将!) 京太郎は、思わぬ出会いに言葉を失った。 「おじさーん、久しぶり!」 自己紹介もそこそこに、久に導かれる形で京太郎とゆみは雀荘内に入った。 店内は若干古めかしかったが落ち着いた内装であり、8卓ほどある卓のうち3卓がが埋まっていた。 「おぉ、久ちゃん、元気にしてたかい?」 店主と思われる初老の男性が笑みを浮かべながら久を出迎えた。 (相変わらず部長の人脈は謎だな) 店主と親しげに話す久を見て前々から思っていたことを再度認識した。 「1卓だね。そっちの卓を使ってね」 「ありがと、おじさん。さ、行きましょ」 そう言いながら、店主が指差した方向に歩き出す久。 ゆみと京太郎は顔を見合わせながらもその後に続き、卓に座った。 「……とりあえず、改めて挨拶させてもらう。私は加治木ゆみ。よろしく」 「どうも、須賀京太郎です。よろしくお願いします」 そう挨拶しながらも京太郎は目の前のゆみについて思考を及ばせる。 鶴賀の大将。咲や衣相手に苦戦しつつも一歩も譲らず喰らいついていたことは京太郎の記憶にも残っている。 特に咲に対してチャンカンの一撃を当てたとことは昨日のことのように思い出せる。 インターハイを通して、咲が放縦した数少ない機会であったからだ。 「しかし、何で加治木さんがここに?」 京太郎の質問を受けてゆみはチラリと久に視線を送った後京太郎に言った。 「何、以前の私と似たような悩みを抱えている後輩が居ると聞いてな。お節介かもしれないが少し話をさせてもらいにきた」 「同じ、悩みって……」 県大会決勝のあの立ち回りを見て自分と同じ人種だとは思えない。 そういう感情が顔に出ていたのか、ゆみは軽く笑った。 「牌譜は、見てくれたか?」 「はい、一応……」 「酷かっただろ? 意味の無いダマから謎の1順まわしてリーチ」 自分のことなのに、とても可笑しそうにゆみは笑う。 その様子に多少申し訳なさを感じつつも京太郎は頷いた。 「それがわかるだけ、2年前の私より君のほうが遥かに上手い。同じ立場なのに凄い違いだな」 「同じ、立場?」 「あぁ、私も麻雀を始めたのは高校生になってからだ。雀暦で言えば2年ちょっとしかない」 その言葉に絶句する。たった2年程度であの境地に辿り着いたというのが信じられなかった。 「まぁ、当時の部員は2人だけだったからな。指導者も居なければ教えてくれる先輩も居ない。いろいろ大変だったよ」 何かを思い出すかのように、遠い目をするゆみ。京太郎と久は何も言わずに言葉の続きを待った。 「その牌譜は私が当時の風越キャプテンと打ったときの牌譜だ。1年生のときに長野県下の麻雀部が集まる交流会があってな」 ため息をつく。苦い思い出なのだろうか、先ほどよりは多少口ぶりが重くなっていた。 「酷い負けっぷりだった。3日間ほどの交流会の中での出来事だったんだが、さすがは名門」 「キャプテン以外も一人一人が悪魔じみた強さだった」 そのタイミングで店主が3人にグラスに入った麦茶を持ってくる。 ゆみはそれを手に取り軽く口をつけると話を続けた。 「だが当時のキャプテンの強さは異常だった。何をしても聴牌できない、アガれない、トップが取れない」 「1局で箱を4つ被ったときは泣きたくなったよ」 京太郎の心がざわめく。似ていた。自分の心が折れた状況と。 「一時は麻雀が嫌になった。あんな化け物たちに勝てる気がしなかった。……辞めようとも、思った」 麦茶のグラスをサイドテーブルに置く。 グラスの中の氷がからん、と音を立てて鳴った。 「だが、後からその牌譜をもらってな。落ち着いて、ゆっくりと見直してみたんだが、まぁ、酷い」 「自分なりにはしっかり打てているつもりだったんだがな」 一呼吸を置いて、京太郎のほうを見た。 思わずどきりとして京太郎は体をすくめた。 「自分には、まだできることが残っている。まだ足りないところが沢山あるんだと」 まっすぐな瞳だった。 凛、という言葉が非常に似合う。 京太郎はそんなことを思った。 「それからは無我夢中だったよ」 そこでゆみは若干自嘲気味に笑った。 「お宅の宮永咲やうちのモモみたいなオカルトめいた『何か』は持ち合わせていないしな」 卓に置かれた牌を1つ取り、手の中でもてあそびながら言葉を続けた 「自分に足りないものは何か。考えて模索して、試行錯誤してそれでも負けてもう一度考えて」 「戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って」 「気が付いたら2年経っていた。まったく、高校生活というのは短すぎる」 はは、と軽く笑ってゆみはふたたび麦茶に口をつけた。 そこまでゆみの話を黙って聞いていた京太郎は初めて口を開いた。 「でも……」 「うん?」 「でも、そこまで足掻いても、咲や天江衣には勝てなかったですよね」 押し殺すような声。思わぬ発言に流石の久もぎょっと口を挟もうとするが、ゆみはそれを手で制した。 「ふふ、事実とは言え君はなかなかきついことを言うんだな」 ゆみが苦笑しながら京太郎に返事を返す。京太郎は頭を下げつつも、発言を取り消すことはなった。 「……すみません。でも俺思うんです。『何か』をもっている連中には何をしても勝てないんじゃないかって」 再び、京太郎の中に暗い感情が戻ってくる。あの苦しみ、あの悔しさが京太郎を苦しめる。 「竹井先輩は信じて進めばきっと勝てる日が来るって、言ってくれました。でも……でも!」 歯がきしみ、握りしめた拳からは血が出そうだった。 「いつ来るかわからないそのために、どれだけ負けて、どれだけ耐えればいいのか……俺には、そんなの無理です」 京太郎の絞り出すような独白をゆみは真剣な顔で、久はどこか辛そうに聞いていた。 「加治木さんは……耐えられるんですか? 」 「校3年間を費やしても結局持ってる連中には敵わなかった。嫌にならないんですか?」 京太郎はゆみの顔をまっすぐ見て訪ねる。その縋り付いたような視線に何かを感じ、ゆみは答えた。 「耐えられないと言ったらうそになる。やはりあの日は悔しさで眠れなかった」 やっぱり、そうなんですね。そう言おうとした京太郎の言葉にゆみの言葉が覆いかぶさった 「だが」 「私はだからと言って歩みを止めるつもりはない」 「高校での挑戦は終わってしまったが次は大学というステージでもう一度戦い続ける」 「な、何で」 よろり、と京太郎の体がよろめいた。 ゆみのその口ぶりに一切の嘘は感じられず、むしろ強い意志が感じられた。 「なんで、そんな」 もはや、後半は言葉になっていなかった。 「簡単な理由だ。須賀君流に言うなら『何か』を持っている連中。彼らは確かに強い。だが」 「進まねば、勝てない。闘わねば、勝てない。挑まねば、勝てない。」 「今の私がもう一度天江衣クラスの人間と打っても、勝つのは難しいかもしれない。それでも」 「挑まなければ、負けたままなんだ。私は、勝ちたい。『何か』を持っている連中に勝ちたい」 「私は私が望んだ勝利を手に入れたい。その勝利のために百や二百、千や万の敗北が必要ならくれてやろうと思う」 「この先、無念さに押しつぶされそうになるかもしれない」 「悔しさに泣いてしまうこともあるかもしれない。絶望のあまりに歩みを止めそうになるかもしれない」 「だが、一度自分が選んだ道、進んでみようと思った道だ。『何か』が無くとも戦って戦って、勝ってみせる」 「そのために、もっともっと足掻けるだけ足掻いて戦い抜こうと思う」 「それだけだ」 京太郎は言葉を失っていた。 目の前にいる女性が自分と同じ人間なのか、そうとまで思った。 余りにも凛としたその姿に京太郎の心はかき乱される。 ――挑まねば、勝てない―― なぜか、その一言が心に突き刺さった。 「ところで須賀君」 「は、はい」 唐突に話を振られ、京太郎はびくりとしながらも返事を返した。 「君は今、『何か』を持っていないのかもしれない。だが、それが未来永劫そうなのだと誰が決めたんだ?」 「……えっ?」 「もしかしたら、それは厳しい修練の先にあるのかもしれない。敗北に塗れ、辛酸を舐め尽くした上で手に入るものなのかもしれない」 「い、いや、それは」 それは、考えてもみなかった発想だった。 そういった連中は生まれた時から、気が付けばもっている類のもの。 一種の才能めいたものなのだと思っていた。 「どちらにせよそれは歩み続けなければ、前に進もうとする意志がなければわからないことだけどな」 「……」 京太郎は、それに対して反論できなかった。 「っと、すまない。若干責めるような言い方になってしまったな」 呆然とした様子の京太郎を見て慌てて小さく頭を下げるゆみ 「私の言ったことが正しいことなどというつもりは全くない。『何か』については完全に推測だしな」 京太郎は小さくいえ、と返すのが精いっぱいだった。 すると、ここまで黙って二人のやり取りを眺めていた久が口を開いた。 「そうね、須賀君。私は決して部に戻るように説得するために加治木さんを呼んだわけじゃないの」 どこか悲しそうな顔で久は顔を伏せながら言った。 「ただ、須賀君。あなたはこの先のことをどうするかきっと悩んでいると思ったから、貴方に近い人の話をしてもらおうと思ってね……」 (ただ、強烈過ぎたかもしれないわね。正直ここまでの人だとは思わなかったわ……) 久は若干後悔しつつも無理矢理笑みを浮かべて京太郎に向き直った。 「こう言い方はなんだけど……所詮は高校の部活よ」 「そこまでの苦しみを味わう必要はないと思う。嫌だからと言って辞めたとして、責めるつもりはないわ」 辞める、という言葉にびくりと体を震わせる京太郎。 「ただ麻雀を続けたいというのであれば、いくらでもやる環境はあるわ」 「なんだったらこの雀荘のアルバイトとしておじさんに紹介してあげる」 客と談笑する店主をちらりと見ながら久は話を続けた。 「もしくは、麻雀は趣味レベルに留めておいて、もっと打ち込める何かを見つけるっていうのもいいと思う」 「まだ1年生だもの、取り戻しは効くわ」 久は3つの選択肢を示した。 麻雀部に戻るか 麻雀部から離れ別の環境で麻雀を打つか 麻雀とは別の、打ち込める何かを探すか 京太郎の頭の中でその3つの選択肢がぐるぐるとぐるぐると回り続ける。 もはや自分でもいったい何を望んでいるのか、わからなくなってきていた。 ふさぎ込んだ京太郎を見て久は苦笑する。 「ごめんなさい、余計に惑わせちゃったわね。よし、じゃあ、せっかくだから打ちましょうか!」 明るい声で二人にそう宣言する久。 「私は構わないが……」 ゆみはその言葉を受けてちらりと京太郎を見る。 「いや、俺、麻雀は」 「1回だけ! 1回だけだから、ね?」 「でも……」 「ほら、私と加治木さんより順位が上になったらご褒美あげるから!」 「……ご褒美?」 「ふふっ」 途端に悪戯を思いついたような、とても似合う顔をして久は京太郎に顔を近づけて小さく耳打ちした。 「パンツ、見せてあげよっか?」 「!?!?!?!?!?!?」 基本京太郎は欲望に忠実な人間である。 先ほどまでの悩んでいた気持ちはまだ残っていたが煩悩というものが京太郎の中で鎌首をもたげてくる。 慌てた姿の京太郎を見て久は満足げに頷いた。 「よし、須賀君もやる気になったようだし、決まりね。おじさんに人を貸してもらえるか頼んでくるわ」 そう言いながら久は席を立ち、店主に話をしに行った。 「……一体何を言われたんだ?」 店主と何やら話している久を見ながらゆみは訝しげに尋ねた。 「い、いや、大したことじゃないですよ、は、はは」 空笑いをしながら動揺丸見えな姿で京太郎は言った。 ゆみはそれを訝しげに見つつも、話題を変えた。 「しかし、いい先輩を持ったな、須賀君」 「……えっ?」 いきなりの発言に京太郎はぽかんと口を開ける。 「先ほどはついでで来た、と言ったが実は違う。君の先輩に頼みこまれてきたんだ」 何が楽しいのか、笑みを浮かべながらゆみは言った。 「昨日いきなり電話がかかってきてな。私の後輩を助けてほしい。私の言葉では、届かないかもしれない、そう言いながら」 京太郎は黙って言葉の続きを持った。 「同じ長野県内とは言え、ここまではかなり距離があるし、いきなりだったからな。返事をしあぐねていたんだが……」 「何度も、何度も頼んできてな。ある種人を食ったようなところもある竹井があれほど必死になるとは正直想像もできなかった」 京太郎も想像ができなかった。 京太郎の中で久はいつも余裕があり、自分のペースに巻き込んでく。そんな人間だと思っていた。 「まぁ、もともと新生活に向けた下見なんかもあったしな。無理矢理予定をつけてやってきたというわけだ」 そこまで言い切ってゆみは笑いながら、どこか羨ましそうな顔をした。 「いい先輩を持ったな、須賀君。私には先輩がいなかったから、君が羨ましい」 京太郎はその言葉に返事ができなかった。 「お待たせー。メンバーの一人を貸してもらえたわー」 「よ、よろしくお願いします」 恐らく新人なのだろう、エプロンをしてどこか初々しい感じのある女性店員が久の後ろに続いた。 女性店員は全員の顔を眺めた後に、よろしくお願いします、と頭を下げた後、言った。 「全国レベルの人と比べちゃうと私の腕じゃ物足りないかもしれませんが……今日も3連続ラス引いた後ですし……」 「いいのいいの! 今日はうちの1年生も入ってるし、それに」 そこまで言って久は京太郎に向き直った。まるで、京太郎にも同意を求めるように。 「理不尽な何かが、味方してくれるかもしれないわよ」 そう、言った。 (『何か』を持っていなくても、理不尽が味方する……本当に) (本当にそんなこと、あるのか) 思い悩む京太郎を尻目に、起親決めのサイコロが振られた。 だが、京太郎はこの対局で『理不尽なそれ』を経験することになる。実際にあることだと、痛感することになる。 このタイミング、このたった1回の対局でそれが出たのは偶然か、それとも 神が京太郎を麻雀に引き留めようとしたのか。 店員 25000(親) 久 25000 京太郎 25000 ゆみ 25000 『京太郎配牌』 129m2466s68p東南南白 (萎える配牌だな……) 京太郎は内心ため息をつきながら自分の手をいかに進めるかを考え始める。 だが、しばらく考えていても親の第1打が切られず、ふと店員の顔を見た。 「あ、えーっと、うー? え? え?」 手恰好が難しいのか酷く落ち着かない様子で悩んでいた。 何度も何度も手の中を確認し、じっと見つめた後、震える手で9萬を切り出して牌を横に向けた。 「リーチ……」 震える声で宣言する。 (ダブリーだったのか。天和チャンスだったのかな?) 自分の手を見て即ベタ降りを決定する。とりあえず9萬を切り出し、そのあとは南の対子を落とそう。 そう、京太郎が思っていた時だった。 「ろ、ロンです!」 裏返った声で店員が発声する。驚いた顔で久は自分が捨てた北を見た。 「い、いかさまじゃ、ないです、からね?」 そう言いながら、店員はその手を、倒した。 『店員手牌』 111m333888s444p北 「四暗刻単騎……や、役満です!」 店員はそう発生したまま思わず飛び上がり、店長に向かって駆け寄っていった。 ――店長、役満、役満あがりました! 四暗刻あがりました!―― ――おぉ、そうか。やったねぇ―― ――はい! 麻雀初めて4年間、やっと役満があがれました! 麻雀やっててよかった―― そんな嬉しそうな声が背後から聞こえてくる。 それとは対照的に3人の間には沈黙が流れていた。 京太郎はぽかんと、ゆみは何か気まずそうに、そして久は動きが固まったままだった。 「あー、その、なんだ」 沈黙に耐えかねたのか、久の様子にいたたまれなくなったのか、ゆみが口を開く。 だが、先ほど京太郎と話してきたような流麗なしゃべり方とはかけ離れた、はっきりしないものだった。 「その、災難だったな」 京太郎も呆然としていた。ダブリーで四暗刻というのも驚いたが久が一発で振り込んだのにも驚きだった。 「あ、あの、竹井先輩」 京太郎も思わず心配そうに久に話しかける。 しばしの間呆然としていた久ははっ、と意識を取り戻し、無理矢理口に笑みを作って京太郎に向き直った。 「ど、どうだったかしら、須賀君」 「へっ?」 「り、理不尽さ、見れたでしょ。ほら、ね、私の言った通りでしょ?」 本人は余裕を持っているつもりだが、何やら震えている。取り繕ったような笑みを浮かべているが、とてもぎこちない。 最初は店とグルなのかと思った。だが、どう見ても目の前のいっぱいいっぱいな久の姿にとてもそれは感じられない。 いつもは余裕たっぷりで京太郎のことをからかう部長の姿に何やらおかしくなってきて京太郎は思わず口元を抑えて。 「ぷっ、くくくくく」 何故だか、笑いが込み上げてきて、思わず噴き出した。 「ちょ、何で笑うのよ。もう……はぁ、しかし、親役打ったのなんて、いつ振りかしら」 ぐったりと椅子にもたれかかるようにのけぞる久。 「ふむ、だったら二重の意味で貴重なものが見れなたな。これは」 「ぷ、くく。何とか余裕持って言おうとしたみたいでしたけど、いっぱいいっぱいすぎますよ、部長」 「ちょ、やめてよ、もう」 京太郎の言葉を訂正する余裕もないようで慌てる久。 久しぶりに笑った気がする。京太郎はそんなことを思った。 「はー、これは久しぶりに来たわねー。自分で言っておいてなんだけど、どうしようもないときってホント酷いわね」 「あるんですね、理不尽な何かって。役満打ち込んだところなんて初めて見ました」 「まさかこんな形で証明することになるとはね……。私は加治木さんと打ってもらうことで何か掴んで貰えればとおもったんだけど」 「私と須賀君は配牌取っただけで終わってしまったぞ」 ゆみが苦笑する。 「ほんとね」 それに対して久も苦笑で返す。 2人を見つつ、笑みを沈ませながら京太郎は言った。 「でも、これって実力って言えるんですか? こんな感じで理不尽を味方につけて勝っても……」 「それは、本当の勝利と呼べるんでしょうか?」 「勝利よ。間違いなく」 久は京太郎の問いに即答する。 「……えっ?」 「運だけで買ったとしても、それは紛れもなく勝利よ」 「でも、それって……」 「いいじゃない。『何か』を持ってる子たちってのは得体のしれない何かで勝ち続けてるんだから」 久は京太郎の眼を見る。まっすぐな目だった。 「貴方が理不尽を味方につけて勝ったとしてもケチを付けられる謂れも自分の実力じゃないなんて遜る必要もないわ」 「……でも」 それでも、納得がいかない、そんな様子の京太郎に久は続ける。 「だったら、その勝利を足掛かりに自分の納得できる勝利を目指してもう一度戦えばいいじゃない」 そう言いながら、ちらりとゆみを見る。 「そう、加治木さんのいう、自分が望んだ勝利に向けてね」 「一度も勝てない相手に挑むのと一度は勝った相手に挑むのじゃ、大違いじゃない」 にこり、と笑った。先ほどまでのぎこちなさはない。 「それに、1度の勝利が、何かを生み出すこともあるかもしれないわよ?」 そういって、京太郎の肩を優しく撫でた。 「さて、私は加治木さんを駅に送っていくからここで別れましょ?」 その後、店を出た3人はしばし歩いて駅への分かれ道で久がそう言った。 「いや、俺も行きますよ」 「須賀君の家は反対方向じゃない。大丈夫よ、まだ明るいし」 くすくすと笑いながら久は笑った。 渋々納得した京太郎はゆみに向き直り頭を下げた。 「今日は、ありがとうございました。いろいろ、本当に……」 「いや、こちらも初対面だというのに偉そうですまなかったな」 そういうとゆみは京太郎の肩をポンとたたいた。 「君がどういう結論を下すかはわからない。だが、後悔のない決断をすることを祈っているよ」 「後悔の、ない」 その言葉を反芻する京太郎。こくりと頷いてゆみは踵を返した。 「あぁ。それじゃあ、また機会があったらな」 「須賀君、さんざん貴方をいいように使った私が言っても白々しいかもしれないけど……貴方がしたいようにしてね」 「自分のために、したいことをして頂戴。……それじゃあね」 そう言い残して、久も踵を返して駅へと歩いていった。 京太郎はしばらく二人の姿を見送っていたが、やがて家に向けて歩き出した。 「今夜は、相当苦しむことになるぞ。彼は」 「えっ?」 駅へ続く道でゆみは唐突にそう切り出した。 「ただ、麻雀が好きなだけというのであれば麻雀部をやめるという結論に達するだろうがな」 「雀荘のアルバイトを喜んでするだろう。ただ……」 「……そうね。悲しいことにね」 ゆみの言いたいことがなんとなくわかった久はそれに頷いた。 「惜しむべきは清澄の麻雀部に彼と同じレベルで話をできる人間がいなかったことだな」 「でなければ彼はあそこまで悩むことはなかっただろう」 「そうね、結局彼はずっと心の底でずっと孤独感やわだかまりを抱えていたんでしょうね」 「多分な。無論、竹井たちが彼を除け者にしていたとか無視したことはないだろう」 「仲間として扱っていただろう。彼もそれはわかっているはずだ」 ただ、と繋げてゆみは何か悲しそうに言った。 「根っこのところで、どうしても割り切れないものっていうのはあるだろう。……仕方がないことだが、悲しい話だな」 それを聞いて、久は複雑そうな顔をして、ため息をついた後苦笑した。 「……あーあ、何か悔しいな」 「? どうした」 久の真意が読めないゆみが訪ねる。 「だって、初めて、今日初めて会ったのに加治木さんはもう須賀君の苦しみを分かっている」 「彼に言葉をかけられる。それに引き替え」 少し早足になり、久はゆみより少し前を歩きだす。まるで顔を見られたくないかのように。 「私はだめだった。私の言葉はほとんど届かなかった」 「竹井、お前……」 「わかってる。しなくちゃいけないことは須賀君の話を聞いて、少しでも手助けしてあげること」 「それはわかってる。烏滸がましいことだってのもわかってるんだけど」 立ち止まって、空を見上げる久。ゆみも立ち止まって言葉の続きを待った。 そして、久の口から漏れ出した言葉には悲しさと、寂しさが込められていた 「それでも、それでも先輩として、仲間として……私が彼を救ってあげたかった」 あれから帰宅し、夕食を取りながらも、風呂に入りながらも京太郎はぼうっと考えていた。 あまりにも意識が遠くに行っているため食卓で父と母から心配をされた。 それに対してなんでもない、と答えつつも京太郎はまたぼうっと考えだした。 両親は何か腑に落ちないものを感じつつも、京太郎の様子を見守った 京太郎は枕元の時計を見た。22時を過ぎている。 一日出歩いていた京太郎の両親は疲れからかもうすでに休んでおり、家の中は沈黙を保たれている。 布団に寝っころがりながら天井を見上げる。京太郎の意識は思考の海に沈んでいく。 深く、深く (どうするか? 今さらだろ、辞めるって決めたんだ) (俺には加治木先輩みたいに挑み続けるなんて無理だ。無理に決まってる) (竹井先輩のようにたった1回の勝利を目指して負け続けるなんて嫌だ) (俺はそんな強い人間じゃない) (でもやっぱり麻雀は好きだし、竹井先輩の言う雀荘でアルバイトをするっていうのもいいかもな) (それか、いっそのこともうやめちゃって他の何か……何か……) 何かをしよう、と考えるも、その何かが思いつかず京太郎は苛立つ。 (……麻雀以外の何を始めるっていうんだ。やっぱり雀荘のアルバイトかな) (あの店、雰囲気よさそうだし、店長さんも優しそうな人だったし、あの四暗刻のお姉さん結構かわいかったし) (そうしよう。それがいい) 壁の写真が目に入る。 『京太郎、タコス! 力が出ないじぇー』 『おっ、その切り出しはなかなかいいじぇ! よくやったじぇ、京太郎』 (そうと決まれば退部届、書かないとな) 枕元の教本が目に入る。 『須賀君。結果論で語ってはいけません、最善手を打ったのですから間違っていません』 『よくちゃんとオリきれましたね。無理に突っ張るかと思って心配しちゃいました。今の局には100点満点あげます』 (退部届か、どう書けばいいのかな) 隅に置かれた麻雀牌が目に入る。 『そこから鳴いて行くのは感心せんな。愚形が残る上に面子が足らんぞ? 仕掛けるならここか、ここだけじゃ』 『おぉ、その難しい待ちをよく即座に判断できた。よくやったぞ、京太郎』 何かを強く訴える思考に蓋をし、頭の中で蘇る声に耳を塞いで京太郎は立ち上がる。 勉強机にあるレポート用紙と筆記具を手に取ろうとして、それが目に入る。 「……咲」 ぽつりと呟く。 そこには咲がコメントを付けた牌譜がある。 それを無視して、レポート用紙に手を伸ばそうとする。 (俺はもう麻雀部をやめるんだ。だから牌譜を見る必要はもう、ない) 勉強机の上の本棚に置かれたレポート用紙を見つける。 (俺は、退部届を) そして、手を伸ばし、 (書かなくちゃいけない……ん、だ) ――牌譜を、手に取った。 牌譜は咲の丸っこい字で書かれており、それにプラスして咲のコメントがついていた。 ところどころ妙なイラストも描かれており思わず小さく笑みが漏れる。 『この5索切りはだめ! まずは8筒をきらなくちゃ! 最終形を考えていこうね』 『この6筒切りはすごいよ京ちゃん! 一番受け入れ多いところだよ!』 『京ちゃんよく見て! ドラ表示牌で1枚消えてるから、この中はラス牌だよ! 鳴かなくちゃ!」 『やったね京ちゃん! きれいな三色!』 『難しい待ちだよねー、これ。京ちゃんすぐにわかった?』 「……なんだよあいつ。後半はもはやアドバイスじゃねーじゃん」 牌譜を強く握りしめる。ぐしゃりと、音を立てて紙に皺が寄った。 その時、折れた拍子にちょうど見ていたページの裏側にも何かが書かれていることに気が付いた。 紙を裏返す。そこには4人分の筆跡での落書きがあった。 『大会目指して頑張ろうね、京ちゃん。 一緒に勝とう!』 『咲ちゃん甘いじぇ! 勝とうじゃなくて、勝つんだじぇ! 目指せ全国!』 『ゆーきもまだまだ甘いですね。目指すは全国優勝です。もちろん男子も女子もです』 『うむ。目標は高いほうがいいからな。清澄高校麻雀部一同、頑張っていこう』 「何で……」 牌譜が手からこぼれた。ばさり、と床に散らばる。 それを拾おうとせずに京太郎は立ち尽くした。 「何で……」 『でもね、それ以上に嬉しかったのは』 久に言われた言葉が蘇る。 「何で……!」 『須賀君がみんなのことを嫌いになってないっていうこと』 「何でだよっ!」 『それが本当にね、本当に嬉しかった』 「何で、俺を仲間として扱ってくれるんだよ……」 京太郎は思った。 無視されたほうがよかった。 見下されたほうがよかった。 見捨てられたほうがよかった。 弱いとなじられたほうがよかった。 居ないものとして扱われたほうがよかった。 ただの雑用係と思ってくれたほうがよかった。 体のいい便利屋として扱ってくれたほうがよかった。 だが、彼女らはそうはしなかった。 口では何と言おうとも、彼を対等の仲間として扱った。 どれだけ弱さを晒しても、どれだけ未熟さを露呈しても根気強く指導をした。 たとえ実力に天と地ほどの差があろうとも、彼女らは京太郎を見捨てなかった。 「くそっ、くそっ!」 京太郎は声を押し殺しながら床に膝をつく。 行き場のない感情が心の中を巡り、叫びだしたい気持ちだった。 牌譜に涙が零れる。一粒零れた後は止めどもなく零れ落ちていく。 「見捨てろよ、俺みたいに弱いやつ」 (でも) 「邪魔なだけだろ、ウザったいだけだろ」 (でも) 「大体おかしいだろ、女子の中で男子一人って。追い出せばいいじゃないか」 (そんな奴らだから) 「何で、あいつらは、俺なんかに……!」 (そんな奴らだから、俺も好きになった) 「弱いって笑えばいいじゃないか!」 (麻雀部の仲間が好きだった) 「弱いからって見捨ててしまえばいいじゃないか!」 (皆化け物じみて強いくせに、俺を仲間として扱ってくれた) 「なんで、なんで!」 (だから周りからなんて言われようと) 「なんで!」 (大会前になって打つ機会が減っても) 「なんでなんだよ……」 (皆が好きだったから、ここまで来れたんだった) そこまでの結論にたどり着いた後、京太郎は押し殺したように泣いた。 麻雀が好きだから、捨てられない。 麻雀部の仲間も大切だから、捨てられない。 麻雀部に戻れば、また負け続け苦しみを味わうことになる。 麻雀をする以上、やはり勝ちたい。 そうすると、ゆみの言うようにただ一つの勝利を目指して夥しい敗北を積み上げる必要がある。 それは平易な道ではなく、苦難の、試練の道。 それでも 「くそっ」 それでも京太郎は 「くそっ……」 その両方を、捨てることはできない。そう自覚した。 何が悲しいかはわからない。何が悔しいかはわからない。何故涙が出るのかはわからない。 「くそぉ……」 それでも、京太郎は部屋で一人、泣き続けた。 休日が終わりの月曜日の朝、麻雀部部室には麻雀を打つ4人の姿があった。 だが、雰囲気は心なしか重い。特に咲はひどく憔悴した顔をしていた。 その様子に和は心配そうに声をかける。 「咲さん……本当に大丈夫なんですか」 「ありがとう、和ちゃん。私は、大丈夫だから」 力のない笑みを浮かべながら咲はツモに手を伸ばす。 『咲手牌』 1112444m4567s中中 ツモ中 ドラ2m 手ごたえを感じる中引き。だが、咲の心は全くと言っていいほど弾まなかった。 ――お前らと打っていても―― その言葉が蘇ってきて、咲の心がずきりと痛んだ。 何とか点箱に手を伸ばし7索を切り出してリーチを宣言した。 その順は全員現物を切り、咲は一発目の牌をツモる。 『咲手牌』 1112444m456s中中中 ツモ4m 「……カン」 力のない発声だったが、宣言をする。 新ドラ中。だが、それでも咲の心は弾まない。 そして嶺上牌で2萬を引いてくる。 『咲手牌』 1112m456s中中中 暗カン4444 ツモ2m ドラ2m、中 裏1p、8s 「……ツモ。リーチ、ツモ、中、嶺上、ドラ4。4,000-8,000です」 「うげっ、親っ被りだじぇ」 優希が悲鳴を上げたところでまこが咲の上がり形を見た。 そして何やら難しい顔をして、咲に告げた。 「咲……残念じゃが、それはチョンボじゃ」 「えっ?」 咲のあっけにとられた声を聴きつつ、和もそれに続いた。 「咲さん、よく見てください。その形、2444の聴牌形にも、取れますよね?」 「あっ……」 麻雀の基本である、待ちの変わるカンはできないというルール。 確かに見落としやすい形ではあるが、咲がこのようなミスをするということは初めてであった。 「ご、ごめんなさい」 チョンボ料の満ガンの支払いをする咲を見つつ、まこは内心歯噛みしていた。 (やはりこうなったか) ミスはそれより、咲の全く楽しくなさそうな顔が気になった。 調子を崩すどころか、このままでは咲も麻雀部を離れてしまうのではないか。 咲に渡された2000点を点箱にしまい、そんな不安を必死に抑え込んだ。 「っと、親のやり直しかー」 重苦しい空気の中、優希が牌を落とそうとした、その時だった。 きぃという音を立てて、麻雀部の扉が、開いた。 「京……ちゃん」 一斉に開いた扉に視線をやり、真っ先に口を開いたのは咲であった。 皆が京太郎のほうを見ていた。 4人それぞれが、京太郎に対して言いたいことがあった。 謝りたいことがあった。聞いてほしいことがあった。 だが、誰も口を開けなかった。何かを言おうとしていたのに、言葉が出なかった。 しばらく無言の時が流れる。やがて、京太郎は歩き出し、咲の前に立った。 「咲」 「な、なぁに、京ちゃん?」 どこか、怯えが混じった混じった表情で咲は返事をする。 すると、京太郎は深く、とても深く頭を下げた。 「まず、お前に謝りたい。この前は言い過ぎた。別にお前が悪いわけでもないのに、責めるような言い方をしちまった」 頭を下げながら、押し殺したような声だった。 「本当に、すまなかった。ごめん」 「きょ、京ちゃん、やめて。私が無神経だったの。だから、ね、頭を上げて」 突然の言葉に慌てながらも京太郎に駆け寄り、肩を撫でた。 「……本当に、ごめんな、咲。許してほしい」 「いいの、京ちゃん。本当に、いいから」 涙を流しながら京太郎の言葉にこたえる咲。それを聞いて、ようやく頭を上げる。 そして、今度は全員に向き直ると、大きく息を吸って、何かを決意するように言った。 「この前は、すみませんでした。迷惑かけて、すみませんでした」 全員が、黙り込み京太郎の言葉の続きを待った。 「俺……弱いから、ずっと負け続けて嫌になって、麻雀も何もかも嫌になって、この部活やめようと思っていました」 重い空気が流れる。京太郎のむき出しの感情が込められた言葉に口をはさむことはできなかった。 「でも、でも……」 京太郎の眼尻に涙があふれる。それを必死に堪えようとする。 「やっぱり、俺、麻雀が好きだ。なにより」 だが、堪えられずに、ぽろりと涙がこぼれた。 「この部の、みんなが好きだ。引退した部長も、染谷先輩も、咲も優希も和も。皆のことが、大好きなんだ」 その言葉を聞いて、和が目を潤ませながら口元に手を当てて漏れそうになる声を必死で堪えていた。 「これからも頑張ります。弱い俺だけど、必死で強くなるように努力します」 「負け続けてまた逃げ出したくなるかもしれません。それでも前に進もうと足掻いて見せます」 「みんなに認めてもらえるように……頑張ります、だから、だから」 そこが限界だった。次々と零れてくる涙を隠すように京太郎はふたたび大きく頭を下げた。 「お願いします! 俺をここにいさせてください! お願いします!」 「散々迷惑かけて都合がいいってのはわかってます! でも、でも、俺……」 「俺は、皆と一緒に、麻雀がしたい……」 それ以上言葉にならなかった。そして何より、それを遮るようにして和が叫んだ。 「やめてください! 須賀君が悪かったとか迷惑をかけたとか、そんなことありません! 私たちが」 和は溢れてくる涙を拭いながら、必死に言葉を続けた。 「もっと貴方のことをわかろうと努力すべきだったんです!」 それだけ言って和は顔に手を当てて泣き出した。 その姿を見て優希は真っ赤な顔で、感情を爆発させた。 「何が居させてください、だ! お前はもともと麻雀部員だじぇ?」 「なんで、そんな頭を下げる必要があるんだじぇ! いさせてください、とか、そんな、そんな……!」 優希はそれ以上言わず、そういって京太郎にすがりついて泣き出した。 咲もボロボロと滝のように涙を流していた。泣きすぎていて、もはや言葉も出ないようだ。 「全く、優希の言う通りじゃ。麻雀部員の京太郎がなぜここにいることを願い出る必要がある?」 まこがそういいながら京太郎の頭を撫でた。 されるがままにしている京太郎は震えながらも言った。 「だって、俺、辞めるって、もういやだって……」 「ん? わしが聞いているのは京太郎は1週間休むっていう話だけじゃぞ?」 まこは何かとぼけたような口調で続けた。 「それに……和の言う通りじゃ。わし達はもっとお互い分かり合おうとするべきじゃった」 まこは眼鏡を取り、軽く涙をぬぐった後、再び眼鏡をかけて、言った。 「わしもまだまだ未熟な部長。京太郎にまたつらい思いをさせてしまうかもしれん。だが、わしも頑張る。だから」 すうと息を吸い、佇まいを直して京太郎に向き直った。 「もう一度、ついてきてくれるか、京太郎?」 それを聞いて、言葉にならない京太郎は涙声で、震えきった声で、はい、と言った。 麻雀部部室の扉の外。扉にもたれかかる形で久は中の会話を聞いていた。 皆が皆叫んでいるから会話は丸聞こえであった。 「よかったの、かしらね。これで」 (結局須賀君はある意味辛い道を選んだ) (これが彼にとって幸せなのかどうか) (彼が選んだ、それを免罪符にして、納得してしまっていいのかしら) 目じりに浮かんだ涙をぬぐいながら久は扉から離れた。 (あぁ、それでも) (やっぱり、須賀君が戻ってきてくれたことがうれしい) そう思いながら久は笑顔を浮かべた。 「酷い女ね、我ながら」 歩きながら軽く伸びをしてポケットから携帯電話を取り出した。 「さーて、加治木さんにお礼の電話を入れないとねー」 どこか楽しそうに久はその場を去っていった。 「あぁ、もう、目が腫れちゃったじぇ」 手鏡で自分の顔を見ながら優希がため息をつく あれからしばし、しばらく泣き続けていた1年生4人はようやく落ち着きを取り戻した。 とは言え、咲はあまりにも泣きすぎて顔が無残なことになっているため和とともにトイレに向かっていった。 「ははは、すまん」 こちらも目が真っ赤になっている京太郎が苦笑を浮かべた。 「全く、犬如きに泣かされるとは一生の不覚!」 「なーにが犬如きだこのタコス娘」 軽口をたたき合う。そういった後、二人で見つめ合った後笑いあった。 こうやって、憎まれ口をたたくのも久しぶりな気がした。 「さて、京太郎も戻ってきたことだし、また部活がんばるじぇ!」 「おう! そうだ、聞きたいことがあったんだが……間四ケンって――」 「読み筋の話か? 間四ケンとかよりまだ裏筋とかのほうが信憑性あるじぇ。というか読みっていう行為自体が――」 麻雀の話をし始める京太郎と優希。 その姿を見てまこは笑いながら決意した。 (もう二度と、こんなことは起こさせん。誰もが負い目を感ずに済むよう。……理想論、無謀な話かもしれんが) (それでもやってみせよう) 後に、京太郎は思った。 この時初めて麻雀打ちとしての自分が生まれたのだと。 それから一か月、再び京太郎は濃密な時間を過ごした。 新人戦に向け、ただひたすら麻雀を打ち続けた。 「京ちゃん、そこの急所は仕掛けたほうがいいと思うよ。ほら、ここ、ね?」 また、へこたれそうになった時もあった。 「須賀君、無駄な危険牌を引っ張りすぎです。聴牌効率が変わらないなら安牌を抱えるのも一つのテクニックです」 負けが込み、何かを呪いたくなる時もあった。 「京太郎、そこは食い延ばしに行くべきだじぇ……そう、そこだな。とっさに反応できるように頑張るんだじぇ」 それでも、それに耐え、歯を食いしばって京太郎は走り続けた。 「染め手に行くときは匂い消しなぞ考えんでええ。3枚切れの字牌でも抱え込んで染め牌以外はさっさと叩き切るんじゃ」 歯を食いしばり、耐えに耐え、泣き出しそうになりながらも必死に走り続け 「……よし、行くか!」 そして、新人戦の日を迎えた。
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768 名前: ◆RwzBVKdQPM[saga] 投稿日:2014/01/26(日) 22 47 59.78 ID tlCwCQNWo [11/18] 咲「あ、京ちゃん♪」トテトテ 京太郎「咲、どうだった?」 咲「うん。楽勝だったよー、ガント一発で引退だなんて」クスクス 京太郎「ま、所詮Cランクアイドルだしなー」ドサッ ガチャッ 血濡れの照(E:ナタ)「ただいまー」テクテク 京太郎「お、照。おかえり」ナデナデ 照「んふー♪ ちゃんと仕留めてきたよー」エヘヘ 京太郎「それ、誰の血?」 照「えとね。ちょ、待てよ! の人」 京太郎「ぶっ、似てねぇー!」アハハ 咲「あはは、顔は似てるかも!」アハハハ ガチャッ 優希(E:日本刀)「戻ったじぇー」トテトテ 京太郎「お、今日は焼いてきたのか? 前回の虚無はどうした?」 優希「あれは飽きたじょ。ただ消すだけなんてつまらーん!」トテトテ 京太郎「そっか。まぁ、お前は技が腐るほどあるし、好きにやれよ」ギュゥゥ 優希「え、えへへっ♪」 咲「もう、京ちゃんたら甘いんだから。私も今度は使い魔使っちゃおうかなぁ」ホンパラパラ ガチャッ 久(E:日本刀)「あー疲れたー」 優希「お、部長も獲物だじぇ!」 久「あら、かぶっちゃったの? つまらないわねー」 京太郎「相変わらず謎の格好ですね。そのジーンズにTシャツ」 久「これが一番やりやすいのよ。バッサバッサ切れるしね」ニッコリ 京太郎「あはは、そうなんですか?」 ガチャッ 透華「ふぅ、大罪武装は疲れますわ」 京太郎「よ、透華!」プニッ 透華「ひゃっ!?」 京太郎「相変わらず大きくならねぇなぁ」フニフニ 透華「もう、デリカシーがありませんわね」クスッ 772 名前: ◆RwzBVKdQPM[saga] 投稿日:2014/01/26(日) 22 56 46.69 ID tlCwCQNWo [12/18] 京太郎「そういや竜華は?」キョロキョロ 咲「事務所組はみんな海外制覇中じゃないの?」 京太郎「ああ、そういやそんなこと言ってたな」ポンッ 久「私だけ居残りなんて寂しいわー」ツンツン 京太郎「とてもそうは見えませんけど」プニプニ 久「ひゃんっ、もう……分かってるくせに」ギュッ 透華「あの、私も留守番でしてよ」ビキビキ 照「シャワー浴びなきゃ」 優希「血なまぐさいじぇ」 ガチャッ まこ「なんじゃ、まだ着替えとらんのか」 京太郎「まこさん!」 まこ「……京太郎、なぜわしだけいつもさん付けなんじゃ?」 京太郎「あ、え? えと、その……//」ポリポリ 透華「ホント、妬けますわねぇ」 久「とっととくっつけばいいのに」ハァ まこ「? とにかく、そろそろ準備せんか」ペチッ 京太郎「はいっ! たく、乾く暇もねぇなぁ」ブツブツ シュルッ パサッ ギュッ 京太郎「よし、いっちょやりますか!」スタスタ 久「今度の相手は強敵よ?」 咲「まぁ、京ちゃんが負けるわけないけどね!」 優希「当然だじょ」フンス 照「油断大敵、頑張って」 京太郎「ああ、行ってくる」スタスタ ガチャッ バタンッ 今思えば、俺がアイドルを目指そうとしてから数年以上が経った あの日、社長の提案を受け……俺達は力を求めた 誰にも邪魔されないチカラ、誰をも従えるチカラ 今この世界に、俺を認めない人間はいない だが、まだだ 京太郎「まだ俺は頂点に立っちゃいない」カツカツ まだ強く 今よりも、もっともっと強くなって―― もはや俺に逆らおうとする存在すら……いなくなるほどに強くならなければいけない 774 名前: ◆RwzBVKdQPM[saga] 投稿日:2014/01/26(日) 23 07 52.84 ID tlCwCQNWo [13/18] 恒子「それではいよいよメインイベントです!! 選手入場ォォォオ!!」 ~アイドル名【奪還 運び屋】~ 邪眼使い「さっさと終わらせんぞ」 雷帝「はーい♪」 ジャッカル「……」クス ~アイドル名【LEVEL5 With 幻想殺し】~ 白もやし「くだらねェ……」 冷蔵庫「なるほど、よほど愉快なアイドルになりてぇと見える」 ハチマキ「根性だぁぁぁ! うぉぉぉ!!」 ウニ頭「不幸だ」ズーン ~~アイドル名【吸血鬼とその愉快な戦争相手】~~ 旦那「楽しみだ、実に、実に楽しみだ……」 神父「エェェェイメェェェェン!!」 少佐「諸君、私はアイドルが好きだ」 ザワザワ 恒子「そして、皆さんお待ちかねのー!!!」 ドォォォンン!! \キャアアアアアア!!/ \スガサマァァァァ!!/ 京太郎「さぁ、始めようぜ!!」ニィッ .......ヽ/...............................| ,. ´ ̄ ̄ ` 、__ー‐´...................................ハ / , / /⌒Y、...................................../ ', / / , / ̄\ ヽ........................./ } / / | ハ . | | i 、 \__ }................../ \ . i / ..| | | | | |、 i {` ̄ ヽ__../ | ヽ | i | i | | | | ハ ハ _i!_ i ヽ | 、 | | |ィ弌示ミ{从 /-}/-ハ| i ヾ、ヽ ', | } !. r| i.|{ Vzり ∨ __、 ! l |\、i , 、 从从爻/////// | i、i、 ゙, 、  ̄`ヾ イ |、_ \ ', | ∨///////////////≧i ' ,' λ i.`ー-ヽ ' | \///////////////ア ,.-‐‐┐ ,'イilリ `、| , | }\////////////ハ ヽ { `V ., リレi ` , ! l ア////////////ーヽ `ー‐' .,' ヽ | ////////////////乙> . _ ////乙 \ ! 彡////////////////ア ///////////彡 \ | | {////////////// ̄', 从<////////>─ァ 、 \ | | ∨///////////{..........マー‐ヽ...........<///{ // ヽ__/⌒)、 ̄ ヽ | | ////////////ミ.........ト {.................///.ゝ { { (三( /´ )、 \ ヽ 彡////////////{..........|  ̄\.........//////> 匕 ` 斗 、 | )、 ィ 、 \ } //////////// {..........! ヽ_/////////Z、 { イし'し'! {三三ニ心 \ ノ ノイ八l////////∧.........|\ ヘ  ̄ ̄|//く ヽ ヽ ー' 弌ソ | ノ' ヽ////////∧......l \ ',.............l///ミ , \ } | 从///////∧....|\ \ 八...........|//爻 l、  ̄ヽ ̄ ̄ ̄/! | \//////∧.{ ヽ Y ヘ........|//ハ ヽ }ヽ / | | \/////∧ \ }.......l//从 \ ト、 Y / | ハ 从/////| \ | |........|//ミ ヽ ! / /、 ', / } 川////| \ ノ |........|从 __ >‐ |' /、 ヽ, 京太郎「俺達のステージを!」 782 名前: ◆RwzBVKdQPM[saga] 投稿日:2014/01/26(日) 23 14 43.80 ID tlCwCQNWo [14/18] ~~数日後 事務所~~ 竜華「全く、無茶しすぎやで」ナデナデ 京太郎「あ、あははっ……バケモンっているんだなぁ」ズキズキ 竜華「でもま、よく頑張ったやん」ギュゥー 京太郎「はい。でも、俺の戦いはこれからだから」 そう、俺の戦いは終わらない 例え日本で一番になっても 世界で一番になっても 宇宙で一番になっても まだまだ俺の戦いは続く 京太郎「でもまぁ、こうして竜華の膝枕で寝てると――」フアァァ 竜華「なんやの?」 京太郎「なんだか、どうでもよくなった」クスッ 竜華「……あほ」ペチッ 京太郎「あははっ」 だけど、こんな日常こそが俺の追い求めていたものなのかもしれ―― ~~現在~~ 京太郎「てなことになっちゃいますよ!!!」クワッ 社長「……えー?」 竜華「というかいきなりなんなん?」 京太郎「え?」 久「いきなり喚き出してどうしたのよ。まだ社長は何も行ってないのに」 京太郎「あ、あれ? でも今物理的にライバルを消すって……」アセアセ 一同「???」 煌「京太郎君、疲れてるのかな?」 京太郎「あ、あれ? え、えぇ?」オロオロ 社長「あー、続けてもいいかね?」 京太郎「あ、はい」 784 名前: ◆RwzBVKdQPM[saga] 投稿日:2014/01/26(日) 23 20 30.00 ID tlCwCQNWo [15/18] 京太郎「おっかしぃなぁ、ED回収……」ブツブツ 竜華「それで、いいアイデアってなんなん?」 社長「うむ。だが先程も言ったとおり、これは諸刃の剣だ」 久「諸刃の剣……」ゴクッ 京太郎「でも、それしか道はないんですよね?」 社長「……現状ではね」 京太郎「なら、やるしかないですよ!」 煌「そうですね。それしかないなら」 霞「……」 社長「分かった。では話そう」 一同「……」ゴクッ 社長「その方法とは――」 選択安価↓3 1 とにかく実力をつけまくる!! 2 他のアイドルに出来ない仕事をこなす!! 3 物理的に他アイドルを仕留める 790 名前: ◆RwzBVKdQPM[saga] 投稿日:2014/01/26(日) 23 29 01.59 ID tlCwCQNWo [16/18] 社長「とにかく実力をつけまくるんだよ、君ィ!!」バァァーン 京太郎「え?」 竜華「それってどういう……」 社長「つまりだね、他のアイドルの妨害を跳ね除ける強靭なステータスを身に付けるということだよ」 久「へぇ、いいじゃない」 霞「確かに、現状でこのポテンシャルならすぐにカンストできそうだわ」 はやり「でも、今よりレッスンを厳しくしたら仕事ができなくなっちゃうよ☆」 社長「うむ。私が心配していたのはそこなのだよ」 京太郎「え?」 社長「つまり、君はこれからステータスが一定を超えるまで仕事ができなくなるのだよ」 京太郎「!!」 竜華「つまり今レギュラーを持っとる、仮面ライダーとナンジャだけやな」 宥「ソルサキはもう終わるもんね」 社長「これらは妨害によって降ろされる心配の無い仕事だし、問題ないだろう」 久「だけどそれ以外は必ず入るでしょうね」 京太郎「……」 竜華「短くても数ヶ月、長くて数年は耐えることになるやろうなぁ」 透華「本当に大丈夫ですの?」 京太郎「お、俺は……」オロオロ 選択安価↓3 1 やります!!! 2 ちょ、ちょっと待って欲しかったり 795 名前: ◆RwzBVKdQPM[saga] 投稿日:2014/01/26(日) 23 37 04.26 ID tlCwCQNWo [17/18] 京太郎「やります!!」クワッ 一同「!?」 竜華「……本当にええの?」 京太郎「はい。元々、そんなに色々な仕事はできませんし」ポリポリ 透華「残念ですわ。色々と仕事を用意していましたのに」 京太郎「すいません! でも、絶対にすぐに実力を付けてみせますから!」 煌「うん。そしてそれは貴女達にかかっていますからね?」 菫「当然だ」キリッ 宥「頑張る!」 玄「私がいれば大丈夫!」 霞「ま、なんとかなるかしら」 明華「善処しますね」ニッコリ はやり「勿論、トップアイドルにしちゃうよ♪」 久「これでもう、引き返せないわよ」 京太郎「はい」 竜華「……(本当に大丈夫やろか)」ギュッ 美穂子「若ならきっと大丈夫です!」 久「そうね。頑張りなさいよ、京太郎君」ポンッ 京太郎「よぉーし! 燃えて来た!!」メラメラ こうして、俺はまた修行に身を置くことになる 真の実力を身に付けるその日まで…… 俺は戦い続ける ※ 仕事を選べなくなりました ※ レッスンを選べるようになりました 801 名前: ◆RwzBVKdQPM[saga] 投稿日:2014/01/26(日) 23 53 48.11 ID tlCwCQNWo [18/18] 顔、というものには好みがある 目が細い方がいい、目が大きい方がいい などなど、枚挙に暇がないほどの趣向が存在する しかし、それはあくまで低レベルでの争いの話だ ある次元――高みを超えた瞬間 美とは万物にとって平等のモノとなり そしてそれは薬にも―― 毒にもなりえる 【某所】 プレジデント「つまり、その日本の須賀京太郎が適任だと?」 部下「はい閣下。恐らく彼ほどの美貌、肉体を持つ者は世界に数人といないかと」カチッ パッ 京太郎の写真「」 プレジデント「ほぉ……これはいい」ニヤリ 部下「では、いかがしましょう?」 プレジデント「では、早速その少年を連れてきたまえ」 部下「ハッ!!」 プレジデント「……存分に役立って貰おうか。須賀京太郎」 その波紋は少しずつ……少しずつ 【北の国】 将軍「京太郎を拉致するのだ」 部下「ハッ!!」 【バチカン死国】 法王「連れてきなさい、その少年を」 部下「ハッ!!」 【窓のないビル】 ビーカー「ガボッガボボボボッ」ブクブクブク アロハサングラス「(何を言ってるか分からんぜよ……)」 【神聖ブリ●ニア帝国】 ロール頭「なんとぉ、あやつがぁ生きておったとはぁ……なぁぁぁんたる不覚!!」 お姉さま「くっ、なんとしてでも連れてこい!!」 部下「イエスユアハイネス!!」ビシッ 妹「生きていたんですね……」ホロリ 世界各地へと、響き渡っているのだった 807 名前: ◆RwzBVKdQPM[saga] 投稿日:2014/01/27(月) 00 06 30.89 ID BvIbE1Awo [1/12] 【会議室】 霞「……」ピッ プルルルルル 春『もしもし?』 霞「私よ、今大丈夫かしら?」 春『うん』ポリポリ 霞「……音、聞こえてるわよ」 春『知ってる』エヘヘ 霞「はぁ、まぁいいけど」 春『進展?』ポリポリ 霞「ええ、そうね。須賀京太郎は順調に育ってるわ」 春『……』ムフー! 霞「ふふっ、嬉しい?」 春『うん、嬉しい』ホクホク 霞「そうね、彼が成長すればするだけ嬉しいわよねぇ」 春『……?』 霞「あら、ごめんなさい。ちょっと、いえ、やっぱりなんでもないわ」 春『? どうかした?』 霞「……須賀京太郎は凄いわよね、非の打ち所がないくらい」 春『当然』フンス 霞「そうね、姫様にピッタリだわ。本当に」 春『勿論』フンス 霞「羨ましいわね。姫様はずっとずっと須賀君と一緒にいられるんですもの」 春『当たりま――』ズキッ 霞「……くすっ、どうかしたの?」 春『あ、えと……』 霞「姫様と結婚して、幸せな家庭を築いて、子供も出来て……」 春『あ……』ブルブル 霞「本当に幸せ者よねぇ、姫様は」 春『……』カタカタ 霞「私達は見てるだけ。ううん、二人が幸せでいられるようにずっと見守り続けなきゃ」 春『ぅぁ……』 霞「ねぇ、春ちゃん」 春『……』ドクンドクン 霞「本当にそれでいいの?」ニヤァ ~~~~~~~~~~~ 809 名前: ◆RwzBVKdQPM[saga] 投稿日:2014/01/27(月) 00 16 32.38 ID BvIbE1Awo [2/12] 【京太郎のアパート前】 姫子「ふんふ~ん、ふんふーん」テクテク そこに少女はいた 姫子「ど・こ・か・なー?」キョロキョロ 遠い地からやってきたその少女。 その少女は初めて通る道を、まるで通い慣れた道を歩くかのように進んていく 知っているのだ その道があの人の通い慣れた道だと 分かっているのだ この道の先に目当てのモノがあることを 姫子「あ、あったあった♪」ニコッ 彼女は理解していた 姫子「あはっ♪ ここが京太郎君の家だったとね!」 今から自分が、やろうとしていることを 姫子「じゃーまな妹はいらんとよー♪」チャキッ チャキチャキキキッ 姫子「ほんなこつ、邪魔やっと……」ギリギリッ トントントン ピーンポーン 淡「はーい?」 トトトッ ガチャッ 淡「新聞ならいらないよー」 姫子「……」 淡「え、あれ? あれ!?」ビクッ 姫子「……」ニコッ 淡「あー! 久しぶりじゃんしんどーじ。 私のお兄ちゃんに何か用?」 姫子「そげん大したことじゃなかよー」ニコニコ 淡「んー?」 姫子「ただ邪魔なハエを……」チャキッ 淡「え?」 姫子「落としに来たとよ♪」ヒュンッ 淡「!?」 ~~~~~~~~~~~~~~~ 813 名前: ◆RwzBVKdQPM[saga] 投稿日:2014/01/27(月) 00 24 46.35 ID BvIbE1Awo [3/12] 【長野 龍門渕】 ザワッ 衣「!?」バッ ハギヨシ「おや、いかがなさいました?」 衣「……」キョロキョロ ハギヨシ「衣様?」 衣「この感じ……なんなのだ?」 胸にまとわりついてくる、気持ち悪い感覚 これはまるで―― 衣「……」ギリッ ~~鹿児島~~ 巴「姫様ー、ご飯ですよー」 小蒔「Zzzzz……」スピー 巴「姫様?」ツンツン 小蒔「はわっ!?」ガバッ 巴「どうかしました?」 小蒔「えと、その……」 巴「?」 小蒔「何か、よくないモノが蠢いているような気がします」 ~~東京~~ 照「!!」ピーン 咲「お姉ちゃん?」 照「……」 咲「どうかしたの?」 照「京ちゃんの身に何かが起こってる」ギュッ 咲「え?」 照「……気のせいだといいんだけど」 ~~京太郎のアパート前~ 京太郎「……ふぅ、疲れたー」トテトテ 結局トレーニングを頑張ることになったし、頑張らないとなぁ これからますます忙しくなるだろう 京太郎「淡の奴がまた拗ねなきゃいいんだけど」 前回はかなり荒れてたし、やっぱり定期的に遊んでやらなきゃ 少しは兄離れしてほしいもんだ 京太郎「美穂子さんと煌さんは買い物に行ったし、帰ったら淡と遊んでやろうか」 それがいい かくいう俺もたまには淡とのんびりしたいしな 814 名前: ◆RwzBVKdQPM[saga] 投稿日:2014/01/27(月) 00 32 51.11 ID BvIbE1Awo [4/12] トントントン ガチャッ 京太郎「ただいまー……」 シーン 京太郎「あれ? 誰もいないのか?」 その割には鍵が開けっ放しだったけど…… もしかして淡が外に出たのか? 京太郎「いや、でも靴はある……ん? 誰のだ、これ」 見覚えのある淡の靴の横にある見慣れない靴 誰か客人でも来てるのか? 京太郎「おい、淡ー?」スタスタ どこか妙な胸騒ぎを感じながらも部屋を進む そして、居間への扉を開けようとして…… 淡「きゃあああああああああああああ!!!」 京太郎「!?」 耳をつんざくような悲鳴 それが、誰の口から発せられたものなのか そんなこと、一瞬して分かる 京太郎「淡!!」ダダダッ 動悸が激しくなる 嫌な予感が、最悪の事態が脳裏をよぎっちまう 京太郎「淡っ!! 大丈夫か!!」ガラガラ!! 淡「」 京太郎「!?」 扉を開けた先―― そこに広がっていた光景は…… 淡「あー、倒れちゃったー」バラバラ 姫子「淡は弱かねー。麻雀とはえらい違うばい」クスクス 淡「んむー! もっかい! もっかいおねーちゃん!」キャッキャ 姫子「じゃあ、組立てんとねー」ニコニコ カチャカチャ 京太郎「へっ?」 ジェンガで遊ぶ淡と…… 京太郎「……誰?」 姫子「……ふふっ」ニコッ 見知らぬ、女の子? 820 名前: ◆RwzBVKdQPM[saga] 投稿日:2014/01/27(月) 00 41 17.14 ID BvIbE1Awo [5/12] 淡「あ、お兄ちゃんおかえりー」カチャカチャ 京太郎「あ、ああ。ただいま……って! そうじゃねぇっての!!」 姫子「お久しぶり、京太郎君」スッ 京太郎「あ、え? え、えと?」ハテナ 姫子「あー、その顔は忘れてる顔たい!」 京太郎「はい!?」 淡「お兄ちゃんサイテー」ジトーッ 京太郎「ちょ、ちょっと待て! 落ち着かせてくれ!」 どうなってんだ!? 妹(同級生)の悲鳴を聞いて駆けつけたら、それはジェンガの悲鳴で そんでなぜか妹とジェンガしてた見知らぬ人は俺のことを知っていて? そもそも俺は会ったことがあるのか? いや、でも久しぶりって言ってるし…… 京太郎「」ボムッ 淡「ごめんねおねーちゃん」 姫子「よかよかー、淡は可愛い妹ばい」ナデナデ 淡「えへ、えへへっ」ギュゥウゥ 姫子「く、くすぐったいって」アハハ 淡「お義姉ちゃんいい匂いするー」スリスリ 姫子「んぁっ、ちょ、ちょっとこれ以上は……」ハァハァ 京太郎「……はっ!?」 いけない、気が付けば俺の妹(仮)が禁断の百合園に!? 京太郎「お、おい!!」 淡「こちょこちょー!」コチョコチョ 姫子「あ、あひっ、だ、ダメ!」プルプル 京太郎「俺の妹から……離れろ!!」 姫子「あはっ、あはははははっ!!」バタバタ 淡「これでもかー!」コチョコチョ 京太郎「(´;ω;`)聞いて……」シクシク 淡「もう、何泣いてんのー?」ヨシヨシ 京太郎「え、えへへ」ゴシゴシ 淡「しょうがないなーお兄ちゃんの甘えん坊♪」フフッ 姫子「くすくす」ニコニコ 824 名前: ◆RwzBVKdQPM[saga] 投稿日:2014/01/27(月) 00 49 45.97 ID BvIbE1Awo [6/12] ~~京太郎が戻る数十分前~~ 姫子「ただ邪魔なハエを……」チャキッ 淡「え?」 姫子「落としに来たとよ♪」ヒュンッ 淡「!?」 プゥゥゥン ワスピーターダブーン ハエ「」ザシュッ ヒュゥゥゥポトッ 姫子「……またつまらんものを切ったばい」ニヤリ 淡「す、すっごいじゃん!! しんどーじ!!」キラキラ 姫子「これくらい簡単、簡単」ブイッ 淡「ねーねー、今のもう一回見せて」キラキラ 姫子「ダメー、同じネタは何度も見せんけん」ガサゴソ 淡「ぶー、ケチ!」 姫子「そん代わり、いいのがあるとよ」ニコッ 淡「え?」 姫子「それっ!」バーン 淡「!?」 姫子「カメレオーン!」バーン つキャンディー 淡「あっ……」ドクン 姫子「ばってん、あんまり面白くなかかも……//」ポリポリ 淡「う、ううん! そんなことない!!」アセアセ 姫子「?」 淡「い、今のどうして……?」 姫子「……」ニヤリ 淡「今のは私とお兄ちゃんの……」ドキドキ 姫子「実はこれ、私の大事な人から……」 淡「……」ドクンドクン 姫子「教えて貰ったとよ」ニコッ 淡「!!」 828 名前: ◆RwzBVKdQPM[saga] 投稿日:2014/01/27(月) 00 57 32.55 ID BvIbE1Awo [7/12] 826 姫子好きやから……ま、多少はね? 淡「(まさか昔のお兄ちゃんに恋人がいたなんて――)」チラッ 京太郎「うーん?」 姫子「まだー?」チラチラ 淡「(お兄ちゃんはどうせ私の時と同じように忘れてるんだろうなぁ)」チラチラ 京太郎「えっとえっと……」ウゥーム 淡「お兄ちゃんのバーカ!」 京太郎「えぇ!?」ガーン 姫子「(効果アリ……単純やっと大星淡)」クスクス 当然ながら、淡は勘違いしている 姫子に京太郎との約束や、幼い頃の思い出など存在しない ただ、知っている 京太郎の過去を覗き、その奥底を見てきただけなのだ 淡と京太郎だけの……大切な思い出 それを姫子は利用した あたかも自分も京太郎と約束した仲間の一人であると 京太郎の恋人だったと淡に信じさせる為に そしてその作戦は―― 淡「(私が二人をくっつけなきゃ! 妹として!)」メラメラ 姫子「(散々使い果たして、ボロ雑巾のよう使って捨とたる)」ニコニコ 姫子の思惑通り、成功したのだった 京太郎「(全然思い出せん)」ガビーン 832 名前: ◆RwzBVKdQPM[saga] 投稿日:2014/01/27(月) 01 09 40.01 ID BvIbE1Awo [8/12] 京太郎「それで、その鶴田さんは……」 姫子「姫子」 京太郎「え?」 姫子「姫子でええたい」ニッコリ 京太郎「あ、じゃあ姫子さんは……」 姫子「ひ・め・こ! 呼び捨て!」 京太郎「え、えぇ!? で、でも俺より年上――」 姫子「それが?」ニコニコ 京太郎「でも、姫子さんはその……!」 姫子「ひーめーこー!」プクーッ 淡「ひーめーこー!」プクーッ 京太郎「(か、可愛い……//)」カァッ 姫子「……」ジッ 京太郎「うっ、え、えと……その、ひ、姫子?」 ,..ィ''" . . . . . . . . . . ``丶、 / . . . . . . ./ . . . . . . . . . . . . . .`ヽ、 / . . . . . . / . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . \ / . . . . . . 癶\. / . . . . . . . . .} . . . . . . . . . .ヽ / . ,;,;,;彡 . . . . . У . . . . . . . . . . ./ . . . . . . . . . . . . ゙、 x==ニ二 ̄ . . . . . . . . . . ./ . . . . . . . . . . / . . . . . . . . . .l . . . . .Y / / . . . / . . . . . . . . / . . . /メ、// ./ . . . . . . . . .} . .i. . . } ∥ / . . . ./ . . . . . . . . . ./ . // ./\ ./ . . . . . . . /. j . . !. . .i {{ // . / . . . . . . . . .// ./ __ ̄ //l . . . . . . ./. /l . . ! . . l \ / j/ . . . . . . . . . 癶{ . {/-=斧ミx メ / . . . . // / j . .j. . . l / ./. . . . . . ./ Ⅵ ∥( (,八∠ -‐''" //~`ト、j== ∥{ .{ . . . . . ./ヽ_ -气,,,少 _メ j ./ . . . ト、 { い . { . / . . . . 八 斧f,汽Xノ/ . . . . l .ヘ 乂从ト . . . . . . . } 〈(;;ン゙ ///. . . . . . lヽ ゙、 \∧ ./ r- ` `Y/ノ/ l. . . . . . l } .} / ̄>x \ 乂 _) / . . . / i. . . . . . l ノ ノ /-―-、 ` \ __ / ./ ./ i . . . . . l/ / ヽ メ、ノ . _ ./ノ } . .j . .l \/ Y O {/メ ̄ 、_ / .ノ }. j ∨ l\ノ\}  ̄ ノノ ∨ ヾ L / ∨ 〈 } ∨ / / ヾ┤ ∨ミx/ // ヾx、 姫子「うん!」パァァァッ 淡「よしっ!」グッ 京太郎「~~//」モジモジ くそ、和や咲の時にはこんなに緊張しないってのに! やっぱり年上だからか? それとも…… 姫子「……」クス 京太郎「と、とにかく! 俺は覚えてないんです!」ドゲザッ 淡「あー! サイテー! 信じられない!」プンプン 京太郎「うぅっ……」シクシク 姫子「……」 836 名前: ◆RwzBVKdQPM[saga] 投稿日:2014/01/27(月) 01 15 06.99 ID BvIbE1Awo [9/12] 姫子「……」シュン 京太郎「で、でもですね! 姫子!」 姫子「……?」 京太郎「俺、絶対思い出しますから」キッ 姫子「っ!」ドキッ 京太郎「だから、もう少しだけ待って貰っても……いいですか?」 姫子「……うん、待つ」ギュッ 京太郎「わわっ!?」カァァッ 姫子「ばってん……思い出さなかったら承知せんから」グスッ 京太郎「……はい」ナデナデ 姫子「……」ニィッ 淡「イイハナシダナー」エグエグ 京太郎「(なんとか思い出してやらねーと)」ギュッ 姫子「(夢にまで見た京太郎の匂い……んっ、はぁっ)」ビビクン こうして、出会ってしまった二人 果たして……姫子の目的とは? そして―― 【事務所】 霞「……いい返事が聞けて嬉しいわ」 春『……』 霞「それじゃあ、またね」 春『……うん』 プツッ ツーッツーッ 霞「さて、どう動こうかしら?」クスクス 京太郎の運命やいかに!? 842 名前: ◆RwzBVKdQPM[saga] 投稿日:2014/01/27(月) 01 22 53.77 ID BvIbE1Awo [10/12] 838 月島さんやめーやwwww 【次回予告】 それは、ゆっくりと……じっくりと 煌「元気そうで安心しました」ホッ まるで、内側から溶かしていく消化液のように 久「いい子じゃない♪」 透華「この事務所に欲しいくらいですわねー」 宥「わーい!」 玄「ずっといてほしいな♪」 菫「ああ、気に入った」ニッコリ 姫子「えへへ、嬉しかです♪」 京太郎の回りに染み渡っていく 竜華「うち、あの子は苦手や」ボソッ そしてその毒牙は…… 竜華「……なんやの?」ギリッ 美穂子「え?」 竜華「もう事務所には来んといて!!」ガッ! 姫子「えっ?」 竜華「何が目的なん!? 京太郎君に近づいて一体何を――!!」グイッ 姫子「きゃっ!? い、いたっ……!!」 京太郎「竜華さん!!」スッ パァンッ 竜華「……え?」 姫子「……」クスッ 最大のターゲットへと、迫ろうとしていた 次回 【感染拡大】 姫子「プロデューサーの座、奪ってもよかですか?」ニコッ 竜華「う、うぁっ……あぁぁ……」ポロポロ 次回もほのぼの! ほのぼのぉ!! 878 名前: ◆RwzBVKdQPM[saga] 投稿日:2014/01/28(火) 20 17 16.39 ID m7fgfVf2o [2/11] 【前回までのあらすじ】 大手事務所からの妨害により、思うように仕事を取れなくなる京太郎 その打開策として、今よりも高みを目指すレッスンを決意する これからのアイドル活動に暗雲が立ち込めそうな予感の中、 京太郎の前に現れたのは…… 姫子「……」クスッ 突如現れた彼女の目的とは? そして、その頃時を同じくして―― ~~修羅の国~~ コンコンッ 哩ママン「哩ー? ずっと部屋に篭って何やっとっとー?」 哩「……」ブツブツブツ 哩ママン「もう。ご飯ここに置いとくけん、後で食べときー」 トタタッ 哩「……」カチッ カチカチ PC「」ブゥゥゥゥン 哩「姫子……だいね? 私の姫子をたぶらかすん悪い奴は……」ブツブツブツブツブツ カチカチッ 哩「……」 哩の部屋の壁「姫子の写真」ビッシリ 哩「……」ニィ PC「(京太郎の)」 哩「……」クスクス 京太郎の運命やいかに!? 881 名前: ◆RwzBVKdQPM[saga] 投稿日:2014/01/28(火) 20 29 53.55 ID m7fgfVf2o [3/11] 【京太郎の部屋】 煌「もう、心配してたんだから!」プンプン 姫子「あ、あはは! 色々あったとよ」ポリポリ 煌「大体姫子は――!!」ガミガミガミ 姫子「ふぇぇ……」 京太郎「すげぇ剣幕だなぁ」 淡「すばらがあんなに怒るなんて珍しいかも」 美穂子「ふふっ、それだけ心配だったんですよ」クスクス 俺が部屋に戻ってから20分程が経ち、今は煌さんと美穂子さんも帰宅した後だ そして、帰ってくるなり煌さんと姫子が鉢合わせ 煌さんが急に泣き出したかと思うと、次の瞬間にはこうして怒り出したというわけだ 姫子「花田、ほんなこつ申し訳なか……」シュン 煌「……でもまぁ」 姫子「?」 煌「元気そうで安心しました」ホッ 姫子「花田……」ウルウル 煌「もう勝手にいなくなったらダメだからね」 姫子「花田ぁ!」ギュゥゥゥ 煌「ほぁぁぁぁ//」カァァァ 淡「いーなー! いーなー!」 京太郎「お前もすげぇ懐いてんな」ナデナデ 淡「えへへ、でもやっぱりお兄ちゃんが一番っ!」ギュゥゥ 京太郎「はいはい」クスクス 美穂子「……」ソワソワ 京太郎「どうかしました?」 美穂子「え、えと……//」カァァ スッ 美穂子「い、いぃなぁ、いぃなぁ……//」カァァァ 京太郎「」キュン 淡「」キュン 美穂子「////」ボシュゥゥゥ 京太郎「……」ナデナデ 美穂子「」バターンッ ドロドロドロ 淡「溶けてるぅー!?」ガビーン 京太郎「アイエエエエ!?」 885 名前: ◆RwzBVKdQPM[saga] 投稿日:2014/01/28(火) 20 40 24.79 ID m7fgfVf2o [4/11] ~~十数分後~~ 姫子「ほらーおいでー」パンパン ホロ「わぅっ♪」トタタタタ 姫子「あはっ、可愛い犬たい!」ナデナデ ホロ「くぅ~ん」ペロペロ 淡「ほらー、私にも懐けー!」 キャッキャッ 煌「全く、調子いいんだから」ハァ 京太郎「煌さん、何か知ってたんですか?」 煌「あ、いえ。大したことじゃないので」アハハ 京太郎「?」 煌「(一応部長にメールしておかなきゃ)」カチカチ 京太郎「大丈夫ですか? これで冷やしてください」スッ 美穂子(E:氷嚢)「も、申し訳ありません若……」フラフラ 京太郎「熱を測りますね」ピトッ 美穂子「」ドロドロドロドロ 京太郎「あつっ!? なんて熱だ……!?」 みほこ「ふぇぇ……あちゅいです」ドロドロドロ 煌「(なんてメールしたら心配しないかな?)」カチカチ コンマ安価↓3 00~19 姫子が京太郎に会いに来たことを事細かに書く + 添付写メ 20~39 姫子が東京にいる理由も説明する 40~69 姫子と東京で合流したと連絡する 70~89 姫子は自分に会いに来たと嘘を付く 90~99 姫子に電話させる ゾロ目 哩 襲来 890 名前: ◆RwzBVKdQPM[saga] 投稿日:2014/01/28(火) 20 49 23.82 ID m7fgfVf2o [5/11] 煌「(取り敢えず、理由は伏せておこう……)」カチカチ タイトル:姫子を見つけました! 本文 やっぱり東京に来てたみたいです 今は一緒に話して事情を聞いているので、落ち着いたらまた連絡します 姫子は元気で問題なさそうなので、心配はいりません ではまた後で 煌「こんな感じでいいかな?」ソウシン メルメルメル 京太郎「みほこさぁぁぁぁぁん!!」 みず「」ピチョンピチョン 淡「タロー、それ氷嚢の水だよ」 京太郎「おお、マジだ!」ハッ!? 美穂子「//」ゼーゼーッ 京太郎「(はだけた服がエロい)」ゴクッ ホロ「わぅーん♪」 姫子「また後で遊んであげるたい、今は大人しくしてて」ナデナデ ホロ「わうっ!」ハッハッハッ 姫子「(犬は簡単で助かるたい)」クスクス 淡「おねーちゃん、遊ぼー!」 姫子「淡も甘えっ子やっとねー」ナデナデ 淡「んふー♪」 姫子「(犬と同レベル……)」プルプル ~~一方その頃~~ メルメルメル 哩「……」カチカチ ブーッブーッ 哩「……」ギリッ 892 名前: ◆RwzBVKdQPM[saga] 投稿日:2014/01/28(火) 21 05 08.25 ID m7fgfVf2o [6/11] ~~一時間後~~ 煌「ご馳走様でした」カチャッ 姫子「はぁー、美味しかったー」 淡「うまうまー」 美穂子「あら、口についてるわ」フキフキ 淡「んむー」 京太郎「淡、お前最近甘えすぎだぞ」 淡「ぶー、いいじゃん別にー」グダグダ 京太郎「全く」ハァ 姫子「花田、あいがとね。ご飯まで……」 煌「そういうのはいいから、後でちゃんと部長に連絡しなさい」 姫子「うっ、分かっとるたい……」 煌「部長、凄く心配してたから」 姫子「……」 カチャカチャ 京太郎「片付けますね」 美穂子「あ、私が!」 京太郎「いえ。美穂子さんは休んでてください」ニコッ 美穂子「で、でも!」 京太郎「いいですからいいですから」 美穂子「ありがとうございます」ニコッ 姫子「(……よくもまぁ、下心無しで)」キュンッ 京太郎「(美穂子さんさっき辛そうだったからなぁ)」カチャカチャ 姫子「(本当に、京太郎はいい子……//)」 それなのに それだというのに 姫子「……(優しい京太郎を利用したあの女達だけは、絶対に許してはいけん)」ギリギリッ 清澄のメンバー、それは姫子にとって憎むべき存在だ あれだけのことをしておきながら、京太郎から深く愛され、慕われている清澄麻雀部 なぜのうのうと京太郎の前に姿を見せられるのか どうして京太郎はあんな連中を許しているのか だが、そんな清澄のメンバーよりももっともっと 姫子の怒りを買う人間がいた そう、それは…… 姫子「……(清水谷竜華)」ギリギリッ 姫子は知っている 京太郎から竜華への好意は一番ではない あの女よりも、原村和や花田煌の方が京太郎からの信頼が厚いからだ しかし、姫子は知っている いや、気づいているのだ 姫子「(あの女も……京太郎と繋がりかけてんのが気に食わん)」ギリギリギリッ 竜華と京太郎の間に存在する、奇妙な絆の存在に 894 名前: ◆RwzBVKdQPM[saga] 投稿日:2014/01/28(火) 21 16 46.50 ID m7fgfVf2o [7/11] 自分と同じように京太郎の心を読み、感覚をリンクさせる力 京太郎が力を付ける度に自分が行使できる能力 それを、あの清水谷竜華も手に入れようとしている その証拠に、京太郎が活躍すればするほど竜華のプロデューサーとしての能力も上がっている まるで呼応しているかのように、繋がっているかのように そして、姫子が竜華を憎む最大の原因 それは……自分とは決定的に違う部分があることだ 姫子「(一方通行じゃない……リンク)」イライラ そう、自分と決定的に違うもの それは京太郎も、竜華によって影響を受けていることなのだ 竜華が京太郎の気持ちを察すれば、逆に京太郎も竜華の気持ちを察する 竜華が京太郎によって成長すれば、京太郎も同じように成長する まるで、お互いがベストパートナーとでも言わんばかりに 少しずつ、少しずつ距離を詰めていっているのだ 姫子「(そげんこと、あってはいけん……ばってん、京太郎のパートナーは私だけ)」 姫子がこの東京に来た理由 それは三つある 一つ目は京太郎に会うこと 二つ目は竜華の観察をし、その力の秘密を探り自分のものにする そして三つ目は―― 煌「それで、今日は泊まる?」 姫子「え? あ、えと」 淡「いいじゃん泊まっていけばー!」 姫子「んー……じゃあ、そうさせて貰おうかなぁ」 淡「やったー!」 煌「すばらっ! 隣が私の部屋だから、後で移動ね」 美穂子「いいですね」フフフ 姫子「あ、あの……」 煌「何?」 姫子「もし、よければ……なんだけど」モジモジ 淡「?」 姫子「明日、京太郎の事務所に連れって貰っても……よか?」ニコッ 三つ目の目的 それは清水谷竜華を、京太郎の傍から引き剥がすこと 896 名前: ◆RwzBVKdQPM[saga] 投稿日:2014/01/28(火) 21 25 49.73 ID m7fgfVf2o [8/11] 【小ネタ】 侵略者 姫子!! ブゥゥゥン キキーッ バタンッ! ヒュンッ ドサッ 姫子「……!」サッ スチャッ 竜華「アンタが鶴田姫子やね?」 姫子「そういう貴方が清水谷竜華――」 クロ「おもちぃ」カサカサ 竜華「あ、紹介するで。これはうちの事務所で飼ってるクロって言うんやけどおもちが大好きで――」 クロ「おもちぃ!」カサカサ 姫子「!!」ザッ ボッギャアアアァァァン!! クロ「ぎゃいんっ!?」ズシャッ 竜華「く、クロ!?」 クロ「」ブクブクブク 竜華「な、何をするやァー!! 許さんで!!」グッ 姫子「……」サッ 京太郎「大丈夫ですか?」ナデナデ クロ「ウワヘヘ……」スリスリ つづかない 907 名前: ◆RwzBVKdQPM[saga] 投稿日:2014/01/28(火) 21 51 39.48 ID m7fgfVf2o [10/11] ~~姫子 侵略編~~ 【アクセル1事務所前】 竜華「ふぅ……やっぱり大阪との往復は堪えるなぁ」テクテク それでも、頑張らなければいけない うちを信じてトップアイドルを目指している京太郎君 その想いを、その願いを叶える為に自分ができることをやる 竜華「ふふ、そしたらきっと……」 ~~~妄想~~~ 京太郎「竜華さん、いつも俺の為にありがとうございます」キリッ 竜華「えっ?」ドキッ 京太郎「やっぱり俺には竜華さんがいなきゃ……」ギュッ 竜華「ふぁっ……//」カァァッ 京太郎「……竜華、俺のモノになれ」チュッ 竜華「」ボムッ ~~現実~~ 竜華「なぁんちゃって!! なんちゃってー!! ありえへんてー!」キャッキャ そもそも、今うちのこと呼び捨てに……! あかん、そんなん気が早いってホンマ……// 竜華「んふ……んふんふんふ♪」ニマニマ 通行人「」ビクッ 竜華「よし、今日も頑張るで!!」メラメラ うちと京太郎君の夢を叶える為に! トントントンッ ガチャッ! 竜華「みんな、今日もやるでー!!」バァァン ワイワイ 久「いい子じゃない♪」 透華「この事務所に欲しいくらいですわねー」 姫子「えへへ、嬉しかです♪」 キャッキャッウフフフ! ワイワイ 竜華「……え?」 909 名前: ◆RwzBVKdQPM[saga] 投稿日:2014/01/28(火) 22 09 19.95 ID m7fgfVf2o [11/11] 宥「それでねその時玄ちゃんが……」アハハ 姫子「えー!?」プークスクス 菫「それは驚きだな……」 玄「おねーちゃんの言うことは大げさなのです!」プンプン 宥「えー? そんなことないよぉ」 玄「いいや、あれはそんなことなかった筈だよ!」 宥「むぅ!」 姫子「あはは、どっちでも面白ければよか。ばってん、仲直りの明太子やね!」サッ 菫「ほぅ、これはいい色だ」マジマジ 姫子「自慢の逸品たい」ニッコリ 宥「わーい!」 玄「えへへ、姫子ちゃん大好き。ずっといてほしいな♪」 菫「ああ、気に入った」ニッコリ ワイワイ キャッキャ 竜華「……誰?」 京太郎「あ、竜華さん。こんにちは」ペコリ 竜華「京太郎君、あの子は?」 京太郎「ああ。煌さんと同じ新道寺の……」 竜華「新道寺……ああ、あの子や!」 思い出した 確か大将やった二年生、名前は確か…… 姫子「……あっ!」タタタッ 竜華「……」 姫子「鶴田姫子です」ニッコリ 竜華「清水谷竜華や」スッ ニギニギ 姫子「……」ニコニコ 竜華「……」 なんや、この子 なんだか凄く……やな感じがする 京太郎「もうみんなとは仲良くなりましたか?」 姫子「うん、みんな親切で嬉しかー」エヘヘ 京太郎「それはよかったです」ホッ 姫子「京太郎のお陰たい」ニッコリ 竜華「!?」 きょ、京太郎!? 呼び捨てしとる……!? 京太郎「いえ、姫子の力ですよ」 竜華「!?」 姫子「そげなこつある訳……//」カァァァ 914 名前: ◆RwzBVKdQPM[saga] 投稿日:2014/01/29(水) 00 35 26.27 ID xXQGI72Oo [1/12] 京太郎「~~~」アハハ 姫子「~~~♪」ニコニコ どういうことや? 京太郎君とやけに親しく話しとるし…… 竜華「あ、あの京太郎く――」 美穂子「皆さんお茶が出来ましたよ」コトッ 竜華「あっ……」 姫子「ありがとうございますっ」 美穂子「ふふっ、いいのよ」ニッコリ 煌「姫子、お茶菓子もあるからね」スッ 菫「なんなら、肩でも揉んでやろう」フフフ 宥「胴上げ!」 玄「どさくさにまぎれておもちを揉むのです」ワキワキ ワイワイガヤガヤ 姫子「あ、あははっ」 久「全く、少し浮かれすぎよ」ハァ 姫子「申し訳なかです」シュン 久「あら、いいのよ。普段からこんな感じだから」クスクス 姫子「へぇ……」 ガヤガヤガヤ 竜華「……むぅ」 なんやのこれ? ……みんなして、少し騒ぎ過ぎとちゃう? 竜華「はいはい、みんな!」パンパン 一同「……?」 竜華「遊ぶのもええけど、今日からレッスン強化やったの忘れてへん?」 煌「はい。分かってますよ」ニッコリ 久「ちゃんと頑張りなさいよー」ツンツン 京太郎「あはは、頑張ります」 宥「お茶飲んだら始めようね」 玄「結構疲れてるし、いい休憩なのですー」ポワーッ ホノボノー ワイワイ キャッキャ 竜華「なっ!?」ムカッ 何言うてんの? 分かってるならなんで遊び惚けて……!! 竜華「せやったらちゃんとレッスンせんと!!」バンッ 一同「っ!」ビクッ シーン 一同「……」ジィーッ 919 名前: ◆RwzBVKdQPM[saga] 投稿日:2014/01/29(水) 00 43 41.36 ID xXQGI72Oo [2/12] 竜華「あっ……」サァーッ あ、あかん ちょっと言いすぎてもうたかも…… 煌「……あちゃー」ポリポリ 久「あのね、清水谷さ――」 バッ 京太郎「あ、えと。その、竜華さん。実は……!」アセアセ 姫子「そ、そう! ちゃんとレッスンせんと!」アセアセ 竜華「え?」 菫「そう……だな」フゥ 宥「うん。始めようか」 玄「……」ムスッ 透華「……やれやれですわ」ボソッ 久「美穂子ごめんね。折角のお茶を」 美穂子「いえ、別にそれは……」 竜華「っ!」ズキンッ なんで……? なんでなん? うち、何か悪いこと言った? ちゃんとレッスンしようって、そう言っただけやのに…… 竜華「……(せや、うちは間違っとらん)」ググッ 京太郎「あ……えと」ソワソワ 姫子「あぅぅ……」 竜華「ほな、レッスン始めるで」 京太郎「あ、はい」 姫子「京太郎、大丈夫? 汗……」フキフキ 京太郎「もう大丈夫です。それよりも、早く始めましょう」 煌「……」 竜華「……」イライラ レッスン始めるっていうのに……まだおるつもりなん? 竜華「ちょっと、鶴田さんやった?」 姫子「あ、はい」 竜華「今からレッスン始めるし、少し外して貰えへん?」 姫子「えっ……あ、はい」シュン トテトテ 竜華「それじゃあ始めるで。そういえば石戸さんと明華さんは――」 菫「っ!! おい、ちょっと待ってくれないか……?」 竜華「……どうしたん?」 921 名前: ◆RwzBVKdQPM[saga] 投稿日:2014/01/29(水) 00 52 37.44 ID xXQGI72Oo [3/12] 久「何、今の言い方? 少しトゲがあるんじゃない?」 竜華「え?」 そう言われて……振り返る そこには、いつもと同じ見覚えのある仲間が揃っとる ただ、いつもとひとつだけ違うのは…… 一同「……」ジッ みんなして、うちを攻めるような目で見とること 竜華「ど、どないしたん……?」ビクッ 宥「あ、あの……姫子ちゃんも一緒にい、いて欲しいなって」オドオド 玄「私も……それがいいと思う」 竜華「は? なんで?」 まるで意味が分からない だって部外者なんやし、ここにおる意味なんてあらへん それなのに…… 透華「それは、彼女が……」 姫子「だ、ダメ!! それは!」バッ 竜華「!?」 久「でも、悔しくないの? こんな……」 姫子「い、いいんです。私は、その……!」 京太郎「姫子……」 姫子「えへへ。またレッスンが終わったら会えばよかっ」クルッ 煌「でも……!」 京太郎「竜華さん……」チラッ 竜華「……」ギュッ 京太郎君まで、この子にいて欲しいの? なんで……? どうしてうちじゃダメなん……? 久「……清水谷さん」 竜華「……好きにすればええやん」ボソッ 姫子「え?」 竜華「ただし、邪魔やと思ったら追い出すで」ジロッ 姫子「は、はいっ! やった!」パァァァァ 宥「よかったね」 玄「大勝利なのです」ドヤァ ワイワイ キャッキャ 竜華「……ふんっ」プイッ 京太郎「竜華さん、ありがとうございます」ペコリ 竜華「別に、うちも大人気なかったし……」 京太郎「いえ、竜華さんは立派ですって」ニカッ 竜華「……」 925 名前: ◆RwzBVKdQPM[saga] 投稿日:2014/01/29(水) 01 01 36.34 ID xXQGI72Oo [4/12] 京太郎「それじゃあ、今日も頑張りましょう」 竜華「うん」 姫子「京太郎、あいがとっ!」 京太郎「いやいや、俺は何もしてないですって」アハハ ワイノワイノ 竜華「うち、あの子は苦手や」ボソッ できることなら、もうここにいて欲しくない でも、そんなことを口に出せば……きっと嫌われる 竜華「(我慢や我慢。今日はレッスンなんやから)」グッ ただおるだけやったら問題ないやろうし、もし邪魔になれば追い出せばええ 竜華「ほな、レッスンルームに移動や」テクテク うちは京太郎君のプロいデューサー たったひとりのプロデューサーなんや! 竜華「(うちだけは京太郎君のことをちゃんと考えたる!)」グッ 姫子「追い出されないように、頑張らんと」ペチペチ 久「……果たして、追い出されるのは」チラッ 竜華「……やったる!」メラメラ 久「どっちなのかしら?」 透華「本当にもう……やれやれですわ」ハァァ 【レッスンルーム】 はやり「それでねー」 霞「あら、それは知りませんでした」 明華「今度試してみましょうか」クスクス ガチャッ 竜華「お、ここにおったん?」 ゾロゾロゾロ 霞「あら、早いわね」 竜華「? もう予定より20分も経っとるで?」 霞「は?」 明華「いえ、そういう意味では――」 姫子「あ、あー!! あー!!」バタバタ 竜華「!?」 姫子「早く練習! 練習始めんば!」 京太郎「姫子……」 竜華「……」イライラ やっぱり邪魔しとる けどまぁ、これくらいは我慢や、我慢 926 名前: ◆RwzBVKdQPM[saga] 投稿日:2014/01/29(水) 01 11 47.29 ID xXQGI72Oo [5/12] 竜華「それじゃあ、今日のレッスンやけど」ペラペラ 霞「……ねぇ、もしかして話していないの?」コソコソ 京太郎「あ、えと」オロオロ 久「馬鹿ね。言ったらどうなるか分かるでしょ?」ヒソヒソ 菫「確実に荒れる」 明華「なるほど……」 はやり「確かに傷つくだろうねー」ヤレヤレ 霞「ふーん……哀れねぇ」クスッ 竜華「そこ! ちゃんと聞いといてや!」ビシッ 一同「……はーい」 竜華「そんでな、今日はあと少しで伸びきる歌唱力を上げようかと思うんやけど」ペラペラ 明華「えと、それはもう既に……」 姫子「あわわっ!」 明華「あっ、すみません」サッ 竜華「? 何か言うた?」 明華「……いえ」 竜華「しっかりしてや、歌の指導は明華さんに頼りきりなんやし」 透華「だからそれが問題だと……」ハァ 竜華「何?」 透華「いいえ、なんでもないですわ」ツイッ 竜華「……」ギリッ またや どうして今日はみんな、こうも反抗的なん? 竜華「……」ギロッ 姫子「?」 あの子や あの子が来てから何もかもがおかしくなっとる 竜華「……」イライラ 煌「あの、清水谷P」 竜華「何?」 煌「……まずは、京太郎君の現状をチェックしては?」 竜華「え?」 煌「あ、いえ! 京太郎君も普段から頑張ってますし、ここいらで少し実力テストを……」 竜華「そないなのいる? うちかて京太郎君の実力把握しとるつもりやけど」キョトン 煌「……」 久「……」ガックリ 透華「涙が出てきましたわ」ゴシゴシ 竜華「??」 花田さんまでおかしなこと言うとる 昨日まで、ずっとレッスン見てきたんやから、京太郎君の実力は理解しとるに決まっとるやん 930 名前: ◆RwzBVKdQPM[saga] 投稿日:2014/01/29(水) 01 24 07.79 ID xXQGI72Oo [6/12] 嫌な感じ どうしてこんな…… 京太郎「……」 美穂子「あ、あの。ダメ元で一度見てみるというのは?」 宥「う、うん!」 玄「ちょっと見てみたいのです!」アセアセ なにこれ? これでやらんかったらうちが悪者や もう……今日は本当になんなん? 竜華「……分かった。じゃあ、やる」 久「え? いいの?」 竜華「……」コクッ 菫「やったな」ポン 京太郎「あ、はい」 霞「……」 竜華「そこまで言うからには、変わっとるのを期待してええの?」 京太郎「……はい」 竜華「じゃあ、見せて……」 京太郎「分かりました」スタスタ そう言って京太郎君が準備を始める みんなして一体何が言いたいのか分からんけど…… これでみんなが満足するなら―― 932 名前: ◆RwzBVKdQPM[saga] 投稿日:2014/01/29(水) 01 26 32.69 ID xXQGI72Oo [7/12] 京太郎「お願いします」 宥「うんっ!」ニコッ 玄「お任せあれ!」ニッ パフパフ キセカエッ!! 京太郎「よしっ!」シャキィーン!! キラキラ 一同「はぁぁ~ん♪」ドキドキ 竜華「えっ」ドキッ 京太郎「歌います」サッ 明華「ミュージック、スタート♪」カチッ ~~♪ 京太郎「Gonna shake it up! You,keep your love!」 竜華「!?」 京太郎「Gonna shake it up! Just stay your pace~♪」 霞「アクションスタート!」カッ 京太郎「橘さん!? な、なぜ見てるんです!? ぐあぁっ!?」ズシャアッ 壁)M0) 京太郎「本当に!? 本当に裏切ったんですかぁっ!? うわぁっ!?」ゴロゴロ 竜華「」 菫「対局開始!!!」 京太郎「ツモ、8000オールです」パタパタパタ 久「あちゃー」カチャカチャ 透華「やりますわね」カチャカチャ 竜華「え? えっ?」 【測定結果】 <アイドルランク>(ファン人数) Cランクアイドル(100000~300000) <容姿> S(75) <雀力> C(45) <歌唱力> B(52) <演技力> B(55) <特技> タコス作り |. G | F | E | . D |. C | . B |. A | . S | SS |SSS―――┼―――――――――――――――――――――――――容姿 |lllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllll雀力 |lllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllll歌唱力|lllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllll演技力|lllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllll 竜華「なんやの……これ?」ブルブル 937 名前: ◆RwzBVKdQPM[saga] 投稿日:2014/01/29(水) 01 40 06.11 ID xXQGI72Oo [9/12] 京太郎「……」ゼーゼー 竜華「……」プルプルプルプルッ 京太郎「あ、えと、これはですね! 竜華さん、実は――!」 . / . | ヽ .. / . / /| V . .′ / / | V | , ′| / | | | | | \ / \ | | | | | 八 |_ \{\ \ | | |.八 Λf笊心、 イ笊心rァ | ハ| |. \{\ . Vり V/タ j/ ヽ | | ハ , ,,. / | | r-イ | | \ マ ノ / | | | | >.. イ | | | | | |三三=千 /=| | | r| |三ニニ/ | /三| |=\ | /| | ムニニ| /ニ三| |ニニ 、|. / V /三三ニ|――- /=ニニ/ /ニ三三 / / /三三ニニ| /==ニ/ /三三/ |. / / /三三ニニ| /ニ三/ /=三/ / | 竜華「凄いやん京太郎君!」 京太郎「あ、ありがとうございます……」 竜華「男子三日会わずばなんとやらって奴やなぁ♪」ナデナデ 京太郎「はい。どんどん成長してますから」 姫子「……」クスッ 竜華「うんうん。この調子で今日も頑張らんと!」 京太郎「はいっ」 久「……気づかないものね」 透華「まぁ……レッスンは今までまる投げでしたし」 煌「でも、清水谷さんも頑張ってますから」 菫「それは分かるが、いかんせん周りが見えていない」 霞「灯台下暗し。先ばかり照らそうとして、足元が見えていないのよ」 竜華「ジャ●ーズ打倒も近くなってきたで!」 この時、うちはまだ知らんかった 久「まぁ、プロデューサーに向いてないのかもしれないわ」 美穂子「そんなことはないと思いますが」オロオロ 気が付けば、片足が底なし沼に沈み込み…… 透華「というより、あの子にプロデューサーの才能がありすぎですのよ」チラッ もはや、抜け出れんほどに…… 菫「まさに、京太郎君のプロデューサーになる為に産まれたような奴だ」フッ 姫子「えへへ、カッコよかったばい♪」ダキッ 京太郎「そ、そうですか?」デレッ 竜華「……」 追い詰められているのだということを 939 名前: ◆RwzBVKdQPM[saga] 投稿日:2014/01/29(水) 01 48 34.27 ID xXQGI72Oo [10/12] 【次回予告】 竜華「なんで、なんでうちが……」ジワァッ その少女が到着する数時間前 姫子「へぇー、今日はレッスンの日?」ニコニコ その悪魔の策略は…… 姫子「じゃあ、少し早めに行ってもよか?」ニッコリ 京太郎「え?」 動き出していた 姫子「私もレッスン見てみたかったんよ」フフッ その毒はただ染み渡るだけではなく 姫子「京太郎君には、こういうのが合うと思うばい!」 周りを歪め 一同「へぇ……なるほど!」 姫子「えへへ、今だけプロデューサーやっても、よか?」 やがて、毒では無くなり 久「(この子、清水谷さんよりも京太郎君のことを!?)」ゾクッ 生きる上で必要なモノと、変わっていく―― 次回 【悪性変異】 社長「竜華ちゃん。……しばらく休みなさい」 竜華「えっ……おじ、さん?」 もはや、血縁すらも……例外ではない
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第一章【小悪魔テク! 文学少女の逆襲】 アフター ファミレスの帰り道 京太郎「……なぁ、咲」 咲「うん、なぁに?」 京太郎「携帯、いつ買いに行く?」 咲「あ、えっとね。いつでもいいよ」ニコニコ 京太郎「そっか。じゃあ、新しいのが出たら買おうな」 咲「うんっ!」 京太郎「(こうしてると普通なのに……くそっ)」 咲「あ、そうだ!」 京太郎「ん?」 咲「今度ね。お父さんが京ちゃんとお話したいんだって」 京太郎「おじさんが?」 咲「うん。なんだか相談があるって」 京太郎「(まさか、家でもあんなことを!?)」ブルブル 咲「なんだろうね」 京太郎「さ、さぁな」ガクガク 咲「?」 京太郎「俺が、俺が守ってやるからな咲」 咲「ふぇっ!? 本当?!」 京太郎「あ、あぁ」ブルブル 咲「(えへへっ! やっぱりアラサー嬢さんは流石だなぁ!)」 京太郎「……大丈夫、まだ咲は元に戻れる。俺が戻すんだ」ブツブツブツ 結局、その日以来 咲の前だと萎縮してしまう京ちゃんなのでした
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バレンタイン数日前……宮永家 咲「うーん、バレンタインの日にどんなチョコあげたら喜んでくれるのかな、京ちゃん……」 宮永父「おーい咲ー、ご飯できたぞー」 咲「去年と同じじゃ味気ないし、かといってインパクト優先して気持ちが伝わらなかったら意味ないし……ムムム」 宮永父「おーい、ご飯ー……」 咲「もうド直球の一色染め手戦法で、この間読んだ本のヒロインみたいに、自分にリボンでも巻いちゃおっかなー」 宮永父「ヤダ、この子なんて本読んでるの……」 咲「たまたまだよー、たまたま。だいたい、そんなことできるわけないでしょ、恥ずかしいし………………ん?」 宮永父「お、妄想世界からご帰還ですか。ご飯できたから早く食いにこいよー」 咲「キャーーー!?なんでお父さん、勝手に私の部屋に入ってるの!?」 宮永父「いや、ノックしたぞ五十二回ぐらい」 咲「それは別の意味で気持ち悪いんだけど!?」 宮永父「娘に気持ち悪いって言われた……これが世に聞く反抗期って奴か……」 咲「ぁ、ゴ、ゴメン、気持ち悪いは言い過ぎだったよ……」 宮永父「いや、父さんの方も配慮が足りなかったよ……」 咲「ま、まあ、次から気をつけてくれればいいよ……」 宮永父「ああ、わかった。それでな咲、なんか困ってるようだから父さんからアドバイスな」 咲「ん……なーに?」 宮永父「年頃の男の子っていうのはな、なんていうか、こう……『初物』に弱いから、それ使って既成事じ――」 咲「娘になに吹き込もうとしてるの!?っていうか、言わんとしてることが本気で気持ち悪いよ、お父さん!」 宮永父「ケッ、今のうちから男の悲しい性を知っておけば幻滅せずに済むぞー?どうせお前の京ちゃんも、夜な夜な右手を忙しなく動かしてるに決まってるんだー」 咲「私の京ちゃんはそんなことしなっ――――い……んじゃないかな、うん、たぶんしてない」 宮永父「えらく微っ妙な信頼度だな……」 咲「いや、まあ、手は動かしてるんじゃないかな……」 同刻、須賀家…… 京太郎「右7で山割って配牌して―――――ツモ、切り、ツモ、切り、ツモ、切り……」(チャッチャカチャッチャカ カーたん(カピバラ)「キュー?」 京太郎「うん、たぶんこっから萬子、萬子、索子、筒子、筒子……オッケー、エンジンかかってきた――――おー、カーたんお腹空いたのかー?この自主練終わったら、一緒に飯食いにリビングいこうなー」(カチャチャチャチャチャ… カーたん「クワー♪」 京太郎「さて、いい感じに温まってきたから……今日は赤木さんと僧我さんに見せてもらった『拾い』と『もどし』と……原田さんのカンドラすり替えも試してみるか。なんかみんなして、できるようになってて損はしないって言ってたし」(ゴキゴキ… カーたん「くわーっ」(プンスカ 京太郎「ハハ、心配すんなってカーたん。例えどんなに劣勢でも、俺は絶対に裏技なんか使わないから。太陽みたいに熱く、正々堂々やってこその俺の麻雀さ!」 カーたん「くわわ♪」 京太郎「……そういうや、やり方知ってたら対処もできるって天さんやヒロさんも言ってたけど、こんなの使う人と対局する機会なんてないだろ、普通」(カチャカチャ… Prrrrr… 京太郎「あ、メール……原田さんからだ。なになに、『ちょっとバイトせえへんか』……?」 カーたん「…………」 京太郎「んー、どうしよっかな……赤木さんたちも来るならオッケーですよ、と」 カーたん「くわー……」(ヤレヤレだぜ そんなこんなでバレンタイン当日…… 京太郎「―――――」(ざわ…ざわ… モブA「あ、あの、須賀君、これ貰って―――ヒィ!?」 京太郎「あ、ゴメン、ちょっとバイトの影響で顔が戻らなくて……」 モブA「へ、へー、ここ何日か顔見なかったのはアルバイトしてたからなんだ!どんなアルバイトしてたの?」 京太郎「…………麻雀してただけだよ、うん。フツーの麻雀だよ、フツーの」(ざわ…ざわ… モブA(ぜ、絶対に嘘だ……) 京太郎「それで、なんか言いかけてたけど、なんか用?」 モブA「あ、え、えっとね、今日が何の日か知ってる?」 京太郎「――――――――ゴメン、今日って何日だっけ……?ずっと料亭に缶詰で打ってたからわっかんねー……」(ゲッソリ モブA(ホントにどんなアルバイトしてたんだろ、須賀君……) モブA「ま、まあいいや、聞かないでおこ……。えっとね、今日はバレンタ――――」 咲「――――京ちゃん!」 モブA「あ……」 京太郎「おー、咲、どした?」 咲「え、えっと、お……お昼!今日、食堂のレディースセット、美味しそうだったから、またお願いしにくるだろうなーって……!」(アタフタ 京太郎「おー、レディースセットか。丁度よかった、ここ何日か、目が飛び出るような値段の料理ばっかだったしなー」 咲「ホントになにやってたの、顔見なかった数日の間!?」 京太郎「聞いてくれるな……」 咲「う、うん、わかった……」 京太郎「えーっと、俺ちょっと咲と飯食ってくるから。用事は後でいいかな?」 モブA「う、うん、いいよいいよー、ホントはちょっと勉強教えてほしかっただけだしー」 京太郎「そうなのかー。んじゃ咲、食堂行こうぜー。今宵の虎鉄はレディースランチに餓えておるわ」 咲「う、うんっ!――――ゴメンね、邪魔しちゃった……」 モブA「ううん、いいよ。なんとなく、渡せない予感はしてたし。えっと……ガンバッて!」(ニッコリ 咲「――――ありがとね……」 清澄高校食堂―――― 咲「――というわけで、ハイ!レディースランチ」 京太郎「おぉー、さすが咲が誘いに来るだけあって、今日は格別ウマそうだぜー」 咲「ちゃんと味わって食べてねー」 京太郎「わかってるわかってるって。んでさ、咲ー」 咲「ん、なに京ちゃん?」 京太郎「俺になんか用事あんだろ?咲があんな風に人と話してる時に割り込んでくるとか、普通はないし」 咲「――――な、なんでこういう時だけ勘が冴えるのかなぁ」 京太郎「バカ、麻雀でエンジンかかった時の勘の冴えに比べれば、これくらいフツーだぜ、フツー」 咲「普段は朴念仁じゃん」(ブスー 京太郎「バンナソカナ」 咲「いいえ、朴念仁ですー」 京太郎「その辺については後でじっくり、腹を割って話し合うとして……本日のご用事なーに?」 咲「あ、うん、そうだね、えっと……そ、そのレディースランチ食べ終わったら言うよ!」 京太郎「もう食ったけど?」 咲「早っ!?ちゃんと噛んで食べてるの?そんなんじゃ、体に悪いよ……」 京太郎「いいじゃん、別に。ほれ、聞いてやるから何でも言ってみなー」 咲「むー、聞く姿勢が不真面目すぎるよ……」 京太郎「咲相手だかんなー。もうちょっと喜んでいいんだぜ?」 咲「そーいう特別感はいりません!」 京太郎「なんだよ、今日はやけにツンツンしてんのな」 咲「べ、別にツンツンはしてないよ。ちょっと緊張してるというか……」 京太郎「?」 咲「きょ、京ちゃん、今日はなんの日か知ってる?っていうか、覚えてる?」 京太郎「なんだよ、妙に引っかかる言い方するのな……」 咲「うー……ハァ、もういいよ、京ちゃん相手に緊張なんかする私が悪いんだから」(ジトー 京太郎「だからなんなんだよ、そのオオバカヤローを見るような目は」 咲「あ~ぁ、もう少し前の京ちゃんなら、まだ私の気持ちに気付いてくれたんだろーけど」(ハァ… 京太郎「??」 咲「京ちゃん、ご飯の後のデザート欲しくない?」 京太郎「お、そういえば今日のレディースランチにはデザート突いてなかったな。いつもはプリンとかゼリー付いてくるのに」 咲「あ、それは私が持ってくる途中で食べちゃったからだよ」 京太郎「なにやってんの?なにやっちゃってんの?ランチセットのデザート食べるとか、死刑ものだぜ?」 咲「い、いいじゃん、ちゃんとレディースランチのものとは別にデザート用意してあげてるんだから!」 京太郎「うーむ、納得いかないけど、まあそれなら許してやらんでもない……」 咲「なんでそんなに偉そうかなー。まあいいや、京ちゃん、口開けて」 京太郎「ん……こうか?」(アー 咲「はい、あ~ん」(ヒョイ 京太郎「んがぐぐ……ムグムグ――――これ、チョコか?」 咲「そーです。今日はバレンタインデーだから、今年もちゃんと用意してあげたんだよ、感謝してね」(エッヘン 京太郎「おー…………そうか、今日は二月十四日だったのか」 咲「……ホント、いろんなトコで麻雀するのはいいけど、最低限一般社会の行事とか忘れないレベルでやってよね」 京太郎「気をつけるぜー。にしても美味しいな、このチョコ」 咲「え、えへへ、そりゃもちろん、咲ちゃんお手製のチョコレートだもん、当然じゃない!」 京太郎「そういや毎年、咲って手作りのチョコくれてたよなー。うん、ありがたい話だぜ」 咲「感謝してよねー……。チョコ、まだあるから食べてね。ハイ京ちゃん、ア~ン」 京太郎「アーン」 咲「ウン、素直でよろしい♪どうかな、それはちょこっとだけ香り付けでブランデーを利かせてみたんだけど」 京太郎「うん、美味しい美味しい。ちょこっと癖はあるけど……まあ、そこは咲さん作ってことで」 咲「あ、ヒドイ、そんなこと言うんだ」 京太郎「アハハ、冗談冗談」 咲「も~……ハイ、じゃあ次はコレね。コレは自信作なんだから!」 京太郎「おお、チョコが麻雀牌……しかも一索模様!すばらだぜっ、咲!」 咲「フフーン、どうだ驚いたか。ハイ、アーン」 京太郎「モグ――――いやぁ、ウマイ。サンキューな、咲」 咲「どういたしまして♪」 久「なにやってんのかしらねー、あの二人」 まこ「お互い、周りの状況をガン無視で二人の世界に浸っとるのー」 久「あれでまだ二人とも中学の頃からの友達のつもりなのかしら……?」 まこ「いやぁ?ありゃわかってないだけで、どっから見てもバカップルじゃろ」 久「よねー……対局で跳ばしてやろうかしら、二人とも」 まこ「――――無理じゃろ、もう……」 久「…………色々とメゲるわ」 まこ「そうじゃのー」 咲編……カン!
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京太郎「そしたらですね、部屋の中にとんでもない格好した一さんがいて驚いたわけです」 智紀「一の私服は大胆だから」 京太郎「いやいや、アレは大胆なんてものじゃなくて、犯罪?ですって」 智紀「あれぐらい、イベントに行けばよく見かける」 京太郎「イベントって……ああ、なんとかケットとかいう?」 智紀「そこでよく、コスプレした人がいる。こんなのとか」(検索結果見せ 京太郎「どれどれ――――ぶふっ!?」 智紀「?」 京太郎「ちょ、ちょっと待ってください、智紀さんこれホントにみんなやってるんですか!?は、肌色じゃないとこの方が少ないんですけど!!」 智紀「顔、真っ赤」(クスッ 京太郎「あ、赤くもなりますよ!!」 智紀「私もちょっとだけしたこと、ある」 京太郎「なん……だと……」(食い付き 智紀「見たい?」(笑み 京太郎(智紀さんのコスプレ姿?ここの画像みたいな、ハダイロメインの?和に匹敵しそうな大きなオッパイを持った智紀さんの、ちょっとイケナイ写真を見たいか見たくないか?考えるまでもなく見たい!ここで見たくないなんて言うような男に、俺はなりたくない!!)(ざわ・・・ざわ・・・ 京太郎(しかし待つんだ須賀京太郎。智紀さんはまだ、どんなコスプレを、とは言っていない。つまり、メイド……は普通にやってるか、じゃあ巫女さんとかナースとか、そーいうものの可能性だってある……)(ざわ・・・ざわ・・・ 京太郎(しかしさらに待て、それはそれでアリ……じゃあないのか?清楚な巫女コスにしろ、ちょっとエッチな印象のナース服にしろ、智紀さんにはよく似合うこと間違いなしだ)(ざわ・・・ざわ・・・ 京太郎(そう、ただ肌色が多いからといってエロに結び付くわけじゃない!見えないからこそエロいものもある、そこは忘れちゃいけない!だからまず俺がすべきは――――見たいという意思表示!!)(ざわ・・・ざわわ・・・!! 京太郎(とりあえず平静を装って……がっついた感じにならないように……) 京太郎「ゴホンッ……い、一応聞いておきますけど、そのコスプレの格好っていうのは――」 智紀「……ビキニアーマー、とか」 京太郎「是非とも拝見させていただけませんでしょうか!?」(直角90度 透華「なにが是非ともですの?」(キョトン 京太郎「え?」 透華「もう……部室に来て早々、訳のわからない叫びを聞かせるのは止めていただけません?」 京太郎「りゅ、龍門渕さん、いついらしてたん、ですか……」 透華「だから、ついさっき来たばかりだと」 透華「とこらで、ずいぶんと興奮していたようですが、一体なんの話をしてましたの?面白そうですし、私も聞かせてほしいですわ」(興味津々 京太郎「え、いや、それは、その…………と、智紀さん!」 智紀「うん」(コクリ 京太郎(よし、うまいこと誤魔化してくださいよ――!) 智紀「京太郎の……えっち」(モジ…… 京太郎「す、すばらっ!……じゃなくて!」 智紀「違った?」 京太郎「限りなく違います!」 智紀「じゃあ――――続きは二人きりの時に、ね?」(耳元で囁き 京太郎「ふおぅ、み、耳が幸せ!?こッ、これはイロイロ期待してしまう……って、それも違いますからね!?」 透華「……京太郎?智紀とナニをしてたのか、詳しく教えていただけますわよね?」(キコーン 京太郎(あ、龍門渕さんの頭頂部に角が……) ハギヨシ「透華お嬢様、お茶の用意が――――おや」 京太郎「…………」(正座中 ハギヨシ「このような場所に正座で……どうされたのですか、須賀様?」 京太郎「俺は……なにも間違ったことは言ってないはずなんです」(真摯な瞳 ハギヨシ「間違ったこと?一体なにを仰られたのですか」 京太郎「やっぱり観賞するなら、小さいお餅よりも、より大きなお餅の方がいい!です」(キリッ ハギヨシ「お餅……?」(チラリ 透華「フン、レディをオッパ……バストのサイズだけで比較するなんて、ひたすら不愉快ですわ!」(プンスコ 智紀「やりすぎた、反省」 ハギヨシ「…………ああ、なるほど」 京太郎「うう、足が痛くなってきた……」 一「ゴメーン、遅くなっちゃったー……って、なにこの状況?」 純「んだー?また何か腹立ててんのか、透華。最近、多くねえ?」 透華「…………私は悪くありませんわ!!」 京太郎「お、俺だって間違ったことは言ってないですよ!」(クワッ 透華「ま、麻雀している時よりも真剣な顔で……」(愕然 透華「貧……慎ましいことがステータス、希少価値だという言葉だってありますわよ!?」 一「透華、そーいうこと主張すればするほど虚しくなるからやめよーよ……」 智紀「あんまり大きくても……運動する時、邪魔になったりする」(大三元 透華「…………」(門前20符1飜 透華「――――――――」(´;ω;`)ウッ… 京太郎「ちょ、ちょっと、なにも涙浮かべることないじゃないですか!?」 一「いやあ、女の子からすると胸の大きい小さいは死活問題だからねー」 純「そーかー?」 一「純くんはそーいうの気にならないだろうけどさ」 透華「私だって、もうちょっとぐらい大きければって考えたことぐらい……!!」(グスグスッ 京太郎(――――あ……なんかキュンときた……?そ、そんな馬鹿な、俺は大きなお餅派のはず……!!) 〈ケース2・智紀〉貧乳はステータスだ、希少価値……なのか?END
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新人戦、会場。 会場内は沢山の高校生でごった返していた。 1年生だけの参加者でこの人数であり、麻雀人口の多さが伺えた。 そんな中、会場の隅の小さな控室で京太郎は自分の出番を待っていた。 女子は強豪として名を知られるようになったが規模的には非常に小規模であり、 男子は無名である清澄高校にはあまり広い部屋が割り振られず、5人が入れば多少手狭だった そんな控室の中を咲は落ち着かない様子で立ったり座ったりしていた。 「ののの、和ちゃん。お、おトイレ、行っておいたほうがいいかな?」 「落ち着いてください、咲さん。そうです、落ち着くにはまず茄子にカボチャという字を書いて人を呑み込めば」 「のどちゃんこそテンパりまくりだじぇ。とりあえずタコスでも食べておちつくじぇ」 優希はそう言いながらタコスを食べるが具がぼとぼとと横から零れていた。 「ええかげんにせい、全く。昨日は3人とも落ち着いておったじゃろう?」 そんな3人の様子をまこがたしなめた。 女子の部の新人戦は先日に行われ上位3人が全国に行けるという枠をすべて清澄が占めるという快挙を成し遂げた。 その時の3人は実に堂々としたものであり、これから3年は清澄の時代、と地方のローカル新聞に書かれたぐらいだった。 「そ、そうなんですけど、なぜか、落ち着かなくて」 「お前らがそんなんじゃ、京太郎にうつるじゃろう。まったく」 ちらり、と京太郎を見る。 何を考えているかわからないが、目をつぶって何かを考えているようだった。 それを見てまこは少し考えて京太郎に呼びかけた。 「京太郎、わしらは少し外す。試合前になったら、また戻ってくるけぇ」 まこがそう言うと目を開けて軽く笑った。 「すみません、染谷先輩。ありがとうございます」 「うむ。ではまた後でな」 そう言うと、挙動不審な3人娘を引っ張ってまこは控室を出て行った。 控室が沈黙に包まれる。耳を澄ませば会場内の喧騒が聞こえるぐらい、部屋の中は静かだった。 (……俺の相手) 手元の対戦表を見る。 京太郎のほか2名は無名の選手であったが、残り1名の名前を見て和が驚きの声を上げた。 ――――――― 『この陽皐(ひさわ)って人……去年のインターミドル3位の人です。特徴的な苗字ですから、覚えてます』 和がそういった瞬間、控室は重苦しい空気が流れた。 『そ、その人、強いの?』 咲はある種当たり前の質問が飛ぶ。 『えぇ、かなり。直接対局した数はあまりありませんが……』 そして、何かを思い出すように少し考え込んでから言った 『かなり面前思考だった記憶があります。平均打点はかなり高めだったかと』 あまり役に立たない情報でごめんなさい、そうやって和は京太郎に謝罪する。 『いや、いいさ。そもそも新人戦なんて誰が出てくるかほとんどわからないんだから、対策なんて立てようがなかったしな』 京太郎は苦笑しながら、和にそう返した。 『それにこの予選は2位までに入ればまだ次に命がつながる。だから、まだ終わったわけじゃない』 ――――――― それからは、3人娘はあの有様であった。 苦笑しながら京太郎は対戦表を脇に置き、再び目を閉じた。 (まったく、くじ運までないとか……呪われてるのか、俺?) (いや、持ってないからこそ、選ばれたのか?) (もってるやつの引き立て役、噛ませ犬として選ばれたのか?) (……やめよう、こんなこと考えても、不毛なだけだ) そうしていると控室の扉からノックの音が聞こえた。 京太郎は首をかしげた。 出番にはまだ早いし、まこたちは出て行ったばかりだった。 疑問に思いながらもどうぞ、と答えた。 「やぁ、須賀君。試合前にすまないな」 「加治木、さん?」 そこに立っていたのはゆみだった。 思いがけない来訪者に京太郎はあっけにとられた。 そんな京太郎を見ながらゆみは京太郎に問いかけた。 「今、少しいいか?」 「あっ、はい、どうぞ」 「ありがとう」 そう言うと、ゆみは控室の扉を閉めた。 「ど、どうしてここに?」 予期せぬ来訪者に京太郎は思わず動揺した。 「いや、昨日の女子新人戦の応援に来てたんだ。うちのモモの応援にな。まぁ、一歩及ばなかったが」 どう声をかけていいのかわからず、京太郎は黙り込んだ。 その様子を見て慌ててた様子で続けた。 「いや、すまない。決して嫌みを言いに来たわけじゃないんだ。本当は須賀君の試合も見てから帰りたかったんだが」 そう言うと、ゆみはどこか残念そうな顔をした。 「今日はどうしても外せない用事があってな。もう戻らなくちゃいけない。だから、帰る前に少し激励に、な」 ゆみは京太郎に向かい合う形で座り、軽く微笑んだ。 「どうだった、あれからの1か月は?」 「はは……授業と睡眠と食事と部活以外でしたことってほかに何かあったっけって思うぐらいには麻雀漬けの1か月でした」 「そうか。……それで、どうだ? 宮永たちには」 若干聞きにくかったのか、多少言葉を濁しつつも弓は答えた。 京太郎はその問いに対して軽く首を横に振った。 「いいところまでは行くことは何回かあったんですがね、やっぱりトップは取れなかったです」 「そうか……。それで、その、大丈夫、なのか?」 まだ倒れずにいられたのか、そうゆみは尋ねた。 「そりゃ、何度か苦しい思いはしましたよ。あまりにも負けすぎて頭が痛くなったことがありました」 1か月中の出来事を思い出して、苦笑しながらも京太郎は続けた。 「でも、やっぱり、麻雀も、あいつらも捨てられないってわかったんです」 「だから苦しいときも歯を食いしばって、何とか頑張りました」 「ストレスたまった時は叫びながらグランドを走ったりして……ははっ、この1か月でなんだか体力着いた気がします」 「それに、咲たちだっていろいろ考えてくれてるみたいで」 「俺が行き詰まってるときとか、苦しんでるときとか……あいつらなりに俺を気遣おうとしてくれてるんです」 ――京ちゃん。ふふ、肩でも揉んであげるよ。少し休憩しようね―― ――須賀君、お茶でもいかがですか? 淹れてきますよ。なかなか集中しているようですが、ほどほどで力を抜かないと―― ――京太郎! 新作のタコスだじぇ! ほらほら、口を開けろ!―― ――ほれ京太郎。皆でつまめるようにと卵焼きを作ってきてやったけぇ。ほれ、あーんじゃ―― 「多分、もってる奴にはもってない奴の苦しみってを理解するってのは難しいと思います」 「逆に、もってない奴がもってる奴の悩みや苦しみっていうのを理解することも難しいと思います」 ネット麻雀を初めてした咲が「これは麻雀なのか」と言って半べそをかいていたことを思い出す。 京太郎はその時、彼女が何に苦しんでいるかということは全く理解できなかった。 「多分、どうしても、埋めようのない溝っていうのはあると思います」 「でも……それでも」 「お互いがお互いを理解しようとするっていう気持ちがあれば、相手を想ってるっていう気持ちがあるんだったら」 「多分、やっていけるんじゃないかなって、そう思います」 「やっぱり皆と麻雀をやってると苦しいことも多いですけど、そう言うお互いの気持ちがあるってわかったから」 「何とか、耐えられました。多分、これからも……何とか、やっていけると思うんです」 「向こうが俺のことを考えてくれるだけじゃなくて、俺も向こうのことを考えて、思っていけば」 「やっていけるとおもうんです。この先も」 そこまで言って、京太郎は目じりに浮かびそうになる涙堪えて、軽く笑った 「麻雀が好きだからこそ、みんなに勝ちたいと思いますし、そのせいで苦しみ続けることになると思います」 「皆に勝つまでに、これから沢山負けると思いますけど、多分耐えられると思うんです」 「……すみません、『多分』とか『思う』ばっかりで」 「やっぱり、正直なところを言うと自分がこの先本当に耐えられるかっていうのはわかりません」 「でも、それでも、確かなことがあって」 「みんなが好きだってこと、それだけは確かなことなんです。だからこの先も頑張り続けようって、思うんです」 そこまで一気に言い切って、京太郎は息を吐いた。 そこまで京太郎の独白を黙って聞いていたゆみは何かを考えた後、軽く笑った。 「全く、15歳にしてずいぶんと悟ったな……」 「ほんと、いろいろありましたから。この2か月で」 「麻雀か、皆か。どっちかしか好きじゃなければ話は簡単だったんですけどね」 ふと天井を見上げ、何かを思い返すように京太郎は言った。 「麻雀しか好きじゃなかったら部をやめればいい。皆しか好きじゃなかったら麻雀をやめてマネージャーにでもなればいい」 でも、とため息を吐いて、もう一度苦笑をしながらゆみに向き直った。 「両方好きだから、麻雀部にいて、皆に勝ちたいって思うっちゃうんです。ままならないですね、ほんと」 「……そうだな、本当、ままならないものだ」 ゆみはそう言って席を立った。 「邪魔をした。しっかりと、悔いの無いようにな。勝利を、祈ってる」 「はい、ありがとうございます」 「これから苦しいこともあるとは思うが……お互いにな」 「えぇ、頑張りましょう」 ゆみは拳を握り、京太郎の前に差し出した。 それを見て一瞬戸惑うも理解した京太郎は同じように拳を差し出した。 そして二人はこつりと拳を合わせた。 すると、ゆみは満足そうに笑った後踵を返した。 だが、ドアノブに手をかけたタイミングで京太郎のほうに振り返った。 「ひとつ、言い忘れていた」 「なんですか?」 「私も負けたとはいえ、君みたいに毎日毎日全国レベルの人間に叩きのめされ続けたというわけではない」 「絶望の度合いは君のほうが深かったかもしれない。だが、それでも君は立ち上がり苦難の道を選んだ」 「大切なものを捨てられないという理由があったにしろ、君は選んだ」 「だから、だからこそ」 「私は君のことを尊敬するよ、須賀君。……それじゃあ、またな」 そう言ってゆみは控室を出て京太郎一人が残された。 京太郎はその後ろ姿を見送った後、再び目を閉じて、自分の出番を待った。 それからしばらくして、京太郎の出番がやってくる。 京太郎は緊張した面持ちで対局室に入る。すでに3人は待っていた。 そしてすでに席に座っている一人の男を見た。 (こいつが……インターミドル3位の……) 陽皐は京太郎のほうに特に興味を示すこともなく、ただ目を瞑っていた。 対局室に京太郎が感じたことのない独特の緊張感が流れた。 陽皐のほかの二人も落ち着かないように深呼吸をしたり、手を握ったり開いたりしている。 やがて、審判員に声をかけられ、場決めの後、親決めが行われる。 (俺は、ラス親か) 京太郎は上家に座った陽皐を見つつ、激しくなる心臓の鼓動を感じながら必死に呼吸を整えた。 「それでは、初めてください」 審判員にそう声をかけられ、卓に座った4人はお願いします、と声を出し合う。 (ここまで来たら……やることをやるだけだ) そう言いながら配牌を取っていった。 京太郎は自分の配牌を見た。 『京太郎配牌』 14m24689s3499p西西 ドラ7m いい配牌とはとても言えなかったが唇をかみしめ自分の第1ツモを取る。 5萬を引き、1萬切り出す。一歩前進したことに小さく喜び、気持ちを切り替えた。 その後、特に仕掛けも入らず場は進み7順目 『京太郎手配』 45m24678s3499p西西 ツモ3m 面子オーバーの形。とは言え、京太郎は場を見て西が切られてしまっていることを すでに確認しており迷うことなく西を切り出した。 その次の順目だった。 「リーチ」 陽皐からリーチが入る。 (来たか……) 自分の手を見て、役もない待ちも悪いこの手に行く価値なしと即座に判断する。 一発目には対子落としの片割れの西を切り出し、次順は現物の9筒を切り出したが、 その次の順目に陽皐はツモりあがった。 「ツモ」 『陽皐手牌』 678m23456s56788 ツモ1s ドラ7m 裏9m 「リーチツモ平和ドラ1。1,300-2,600」 淡々とした声で自分の点数を告げた。 京太郎は小さくはい、と返事をして1,300点を払った。 不安になる気持ちを振り払い、京太郎は自分の心に喝を入れた。 (まだ、始まったばかりだ。これからだ) 「京ちゃん、頑張って……」 清澄高校控室。 あまり広くない控室に4人は居た。 1,300点を支払う京太郎を見ながら咲はそんなことを呟いた。 「とりあえず安めでよかったと考えるじぇ」 「えぇ、まだ始まったばかりです。まだまだ、わかりません」 優希と和も食い入るようにモニターを眺めた。 そして、まこもモニターを見ながら内心では何かに祈っていた。 (頼む、初心者とは言え京太郎は凄まじい努力をした) (負け続け、勝てなくても京太郎は頑張った) (だから、頼む。京太郎に、証となるようなものをくれてやってくれ) その心に悲痛な願いを抱えながら、まこは京太郎の闘牌を見守った。 「ごめんなさい遅くなって! バスが事故を起こしちゃって」 そう叫びながら久が清澄高校の控室に駆け込んでくる。 「状況は、どうなっているの?」 息を切らせながら、椅子に座ってモニターを眺めた。 久の問いに、扉の一番近くに座っていた和が手元のメモ翌用紙を見せながら言った。 「今ちょうど、南1局が終わったところです。点差はこうなっています」 『南2局開始時』 上田 32,700 松本 15,200(親) 陽皐 35,700 京太郎 16,400 「少し離されているわね……」 「はい、ただ。まだ親は残っています。まだ、まだ終わったわけではありません」 「そうね」 そう言って久と和はモニターに目を向けた。 モニターの中では京太郎が配牌を取っていた。 『京太郎配牌』 34m34667s【5】678p白中 ドラ4m (来たっ!) 手の中にドラが2枚。タンヤオも見え、跳満まで見える手恰好。 内心の動揺を顔に出さないように第1ツモを取った。 『京太郎手牌』 34m34667s【5】678p白中 ドラ5s 絶好の引き。2度受けの微妙な部分を解消し、好形が残った。 白を切り出し、2シャンテン。 高鳴る心臓を抑えようと京太郎は必死になった。 2順目に西引き。場に1枚切れていることを確認して中を先切りする。 3順目とは9萬引きと空振りだったが、4順目に8筒を引き、絶好の一向聴。 『京太郎手牌』 34m345667s【5】678p西 ツモ8p ドラ4m 西を切り出し、何を引いてもリーチを打ことを考える。 どうしようもなく、期待が高まった。 だが、そこから京太郎の手は動かなかった5順、6順、7順と空振りが続く。 そして8順目。 『京太郎手牌』 34m345667s【5】6788p ツモ南 ドラ4m (なんでこの形で引けないんだ……!) 歯ぎしりしながら引いてきた南を見つめる。 生牌。もう中盤ということもあり、若干の怖さもあったが京太郎はその南を切り出した。 発声はかからず、ほっと胸をなでおろす。 そして次順。 『京太郎手牌』 34m345667s【5】6788p ツモ南 ドラ4m (なんだよこの南!) 即座にツモ切りする。そして、その直後だった。 「リーチ」 陽皐がそう宣言する。 感情が全く見えないその姿にその声に歯噛みした。 (くそ、この手で先制されるのかよ!) 内心の苛立ちを隠しながら、陽皐の捨て牌を見る。 『陽皐捨て牌』 二五三⑨西9 北67r 独特の捨て牌であったが、自分が聴牌したときに出る牌は全て現物だった。 (聴牌したら追っかける!) そう強く願いながらツモ牌に手を伸ばした。 『京太郎手牌』 34m345667s【5】6788p ツモ南 ドラ4m (っ!) まさかの南連続3枚引き。頭がかっと熱くなるのを京太郎は感じた。 多少強打気味になってしまいながらも、南を切り出した。 「ロン」 だが、その打牌を咎めるように。 「リーチ一発混一色七対子ドラ2」 陽皐は手を倒した。 『陽皐手牌』 11225588s東東中中南 ドラ4m 裏ドラ2p 「16,000」 上田 32,700 松本 15,200 陽皐 51,700(+16,000) 京太郎 400(-16,000) ぐにゃりと、京太郎の視界がゆがむ。 その場に倒れこみたかった。逃げ出したかった。 「は……い……」 それを何とかこらえ、返事を返し、震える手で点箱から点棒を差し出した。 それを淡々と自分の点箱に仕舞い込み、牌を落としていった。 京太郎も牌を落とす直前に自分の手牌を見た。 『京太郎手牌』 34m345667s【5】6788p 成就しなかった跳満手。 受け入れも広く、どうしようもなく期待は高かった。 (くそっ!) 苦しい何かを振り払うように、京太郎も牌を卓に落としていった。 「インターミドル3位の成績では伊達ではない! 山を読み切っていたのか? ここで陽皐の倍満が炸裂です!」 実況席では男性アナウンサーが興奮気味に叫んだ。 沢山の高校生が打っているこの会場だが、有名選手の卓と会って実況対象をなっていた。 「この上ないタイミングだったな。これはある種試合を決定づけたか」 アナウンサーの隣で解説としているプロ、藤田靖子も感心したような声を上げた。 「しかし、これは清澄高校の彼の精神が心配だな」 「えぇ。……あぁ、手が震えています。南を暗刻被りしての倍満打ち込みですからね。これは、心が折れても無理はありません」 「あぁ。だが、折れてしまっては未来がない。最後まで戦い抜く意志を持ったやつじゃなければ……まくることはできない」 そう言いながら、必死で震えを抑えながら南3局の配牌を取っている京太郎を見ながら言った。 「ここから、彼がどう立ち回るのか。個人的にはそれにも注目してみたい」 腕を組み何かを考え込んでいるかのような口ぶりだった。 「ピンチの時、逆境の時こそ雀士の質が問われる。私はそう思っている」 京太郎の精神状態は混乱の極みにあった。 (なんだよ、なんだよあの待ち。っていうかタイミング良すぎだろ。倍満って) (やばい、400点しかない。リーチも打てない。どうする、どうする) (親、親は残ってる。次が親だ。そこで、なんとか、何とかしなくちゃ) 牌を取るときにポロリと1枚落としてしまう。幸い見えることはなかったが呼吸を整え、その牌を拾った。 (落ち着け、落ち着け、まだ、まだだ。終わったわけじゃない) 配牌を取り終わる。京太郎の手元には伏せられた13枚の牌があった。 (頼む。高い手じゃなくてもいい。何とか、上がれる配牌で……) 京太郎は何かに祈りながら、牌を起こしていく。 (頼むよ……) 手牌が見えてくる。手の震えから崩してしまいそうになるのを必死で堪える。 (頼む!) もはや悲痛な叫びのような願いだった。 これほど強く願ったのは京太郎の人生で初めてだった。 だが、その願いが届くことは 『京太郎配牌』 27m336s149p東北北白中 なかった。 時間は少し戻り、南二局。 京太郎がなかなか聴牌を入れられず焦れているとき、控室でも落ち着かない様子で京太郎の手を見守っていた。 8順目、生牌の南を引いてきた京太郎を見ながら咲が苦しそうに言った。 「欲しい牌はまだ山に残ってるのに……お願い、引いてきて」 咲が苦しそうな理由は陽皐にあった。彼は先ほど字牌を重ね混一色七対子の聴牌を入れていた。 『陽皐手牌』 112255688s東東中中 「大丈夫、大丈夫です。単純な確率から言って須賀君のアガリのほうが……」 和のそんな言葉は尻すぼみになって消えていった。 モニタ上では陽皐が7索を引いてきて、6索と待ちを入れ替えていた。 京太郎は南をもう一枚引いてきてそれをツモ切る。 「正直……呪われてるとしか思えないぐらい、手が入らないわね」 2枚並べて切られた南を見て久は苦しそうに言った。 優希はその言葉を振り払うように、だがそれでもどこか、不安を隠すように言った。 「大丈夫だじぇ! 京太郎だって、あんなに頑張ったんだじぇ。きっと……」 モニタの中で陽皐が南を引いてきた。ここで、彼の手が止まった。 そして、何かを考えた後、陽皐は7索を切り出してリーチを打った。 「……地獄待ち? だったら、何故北でリーチを打たなかったんですか」 8順目に切られた陽皐の北。それはすでに2枚切られており、地獄待ちを避けたのかその時は6索待ちを選択した。 「あまりにも一貫性がありません。何を考えているんでしょうか」 だが、それでも控室の中では嫌な予感、嫌な空気が流れていた。 京太郎がリーチの発声に若干体をびくりと反応させた後、山に手を伸ばしていく。 京太郎の闘牌をみていた全員、何かの予感があった。 だが、全員、それが起こるまではありえないと一蹴し、こう思っていた。 ――まさか、引くはずがない―― だが、それでも、それでも京太郎は引いてきた。 連続で、3枚の南を。 「嘘じゃろ……」 まこが絶句する。他のメンバーもありえない引きに言葉を失っていた。 「だめ、京ちゃん、だめだよ」 うわごとのように咲が画面に向かって呟く。 画面の中の京太郎はいら立った様子で南を河に叩きつけようとしていた。 「だめっ! 京ちゃん、やめてっ!」 咲のその声はもはや悲鳴だった。 だが、隔離された対局室にはそれは届くことなく、南は場に打ち出された。 そして、投げられた牌に対して当然のようにアガリを宣言し、無情にも点数を告げた。 モニタの中の京太郎は、震えながらもなんとか倍満の支払いをしていた。 「酷い、酷いよ……京ちゃんが、京ちゃんが何をしたっていうの。あんなに、あんなに頑張って……」 咲の眼から涙がこぼれる。 「ありえないです、こんな、こんなオカルト……こんな」 和も悲しそうに、悔しそうに顔を伏せた。 「ま、待つんだじぇ。親は、オーラスの親はまだ残ってる。この、この南3局を乗り越えれば……」 虚勢が丸わかりの声だったが、優希は必死にそうやって二人に言葉をかけた。 「そうじゃ、まだ、まだ終っとらん」 「えぇ。この一局を何とかしのいで、できればリー棒を作って、オーラスの親に臨めれば……」 まこと久も何か祈るような視線でモニタを見つめ続けた。 和は小さく頷きつつも手元のメモに記入した。 『南三局開始時』 上田 32,700 松本 15,200 陽皐 51,700(親) 京太郎 400 京太郎が配牌を取っていくのを5人も固唾を飲んで見守った。 京太郎が、配牌を取り終り、恐る恐る配牌を見た。 そして、モニタにも京太郎の配牌が映し出された。 『京太郎配牌』 27m336s149p東北北白中 「あぁ……」 何かが折れたような、普段からは想像もできないような声が優希の口から漏れた。 「和ちゃん、これって……」 先は目の前の現実を信じられないかのように、和に問いかけた。 「……最速で七対子の四向聴です。普通の面子手もしくは国士無双として見るのであれば」 そこで顔を伏せ何かに耐えるかのように、苦しそうに続けた。 「六向聴です。私だったら、状況が許すのであればこの時点でオリを検討します」 ですが、と言葉を置いて和は過酷な現実を告げた。 「須賀君には、点数がありません。流局したときノーテンで、誰か一人でも聴牌を宣言したら、ノー聴罰符でトビです」 「そんな、そんな……」 「だから、須賀君は何が何でも聴牌を取りにいかなくちゃいけません。でなければ、最後の親をする前に……」 自分が口にしている現実があまりにも絶望的すぎて和の眼にも涙が浮かびそうだった。 咲は、堪えきれないように顔を手で覆って鳴き声を漏らした。 「酷いよ、何で、何でこんな、京ちゃんばっかり。何で京ちゃんだけが苦しまなくちゃいけないの」 咲のすすり泣きの声が部屋の中に響く。和も優希も顔を伏せて何かに耐えているようだった。 そんな3人の様子を見て久が何かを言おうと息を吸ったが、その前に凛としたまこの言葉が響いた。 「顔を上げぇ!」 普段はほとんど聞けない、まこの大きな、鋭い声に3人はびくりと体を震わせた。 「苦しいのはわし等か? 違うじゃろ。あそこで、あそこで……」 まこも、必死で何かに耐えながら、息を吸い込み3人を見渡して言った。 「あそこで何も、何もない状態で必死に戦っている京太郎じゃ!」 モニタの京太郎を指差した。京太郎は震えながら自分の配牌を見つめていた。 「その姿を、わし等が、仲間のわし等が見届けてやらないでどうする! 応援してやらないでどうする!」 それを聞いて、和と優希ははっとした様子で顔を上げる。 咲も涙をぬぐいながらモニタを見つめた。 そして、手を祈るようにくみ、祈るように言った。 「京ちゃん、京ちゃん……頑張って、頑張って」 その言葉に優希と和も続いた。 「京太郎、大丈夫。まだやれるじぇ! 頑張れ!」 「須賀君。そんな絶望的な状況から勝ち上がった例なんていくらでもあります。だから、だからあきらめないでください!」 遠い対局室にその言葉は届かないだろう。 だが、それでも3人は京太郎の勝利を願い、祈り、応援の言葉を口にした。 「京太郎、わし等が見守ってるけぇ。頑張るんじゃ」 そんな言葉を口にするまこを見ながら、嬉しさと、ほんの少しの嫉妬心を抱えながら久は思った。 (貴方は私をすごい部長ってもてはやしてくれるけど……。そんなことない。立派な部長よ、まこ。私より、ずっと、ずっと) 息を吐いて天井を見上げた後、モニタに向き直った。 「頑張って、須賀君。皆、応援してるわ。だから、だから……」 (自分に、負けないで) 久は最後の言葉は口に出さず、心の中で願った。 京太郎の心にパキパキとひびが入っていく。 理不尽なツモ、理不尽な振込み、理不尽な配牌。 大切な何かが壊れようとしている、折れようとしている。 そんな中、親の陽皐が第1打に1筒を切り出す。 京太郎はそれにつられるように漫然とツモに手を伸ばした。 『京太郎配牌』 27m336s149p東北北白中 ツモ5m ドラ西 (六向聴が五向聴になったけど、どうするんだよ、これ……) (国士? 6種7牌で? ありえない。何が何でも聴牌取らなくちゃいけないんだぞ) (七対子か? いや、そんなもん聴牌欲しいときに狙うもんじゃない……) (あぁ……何も、わからなく、なって) 実況席の2人はそんな京太郎の姿を見ながら話していた。 「清澄高校須賀、第1打から長考に入ります」 「どちらかというと、これからどうすればいいのか途方に暮れているんだろうな」 「確かに、聴牌欲しい状況でこの配牌は……」 「五向聴。面前で行くには苦しすぎるが鳴くには役がない。リーチも打てないという何もかもが悪すぎる状況だが」 モニタ上で青い顔をしている京太郎をこつこつ、と指でたたいた。 「だが、もう牌は配られた。これで何とか勝負をするしかない。さぁ、どうする?」 (まだだ、落ち着け。とにかく、受け入れを、広く。広くするんだ) 京太郎は長考の末、1筒を切り出した。 (真ん中を、集めるんだ) 朦朧とする意識、折れそうになる心。 それらを必死に繋ぎ止める。 【2巡目】 『京太郎手牌』 257m336s49p東北北白中 ツモ5s 打東 (これで、向聴数アップ……っていうかこの手恰好じゃ向聴数が上がらない引きのほうが少ないか) そういったことを考えていると、対面から北が出た。 その北を鳴くか京太郎は考えるが、この巡目で役無しには受けられず、それをスルーした。 そして、場は続く。 【3巡目】 『京太郎手牌』 257m3356s49p北北白中 ツモ9s ツモ切り 【4巡目】 『京太郎手牌』 257m3356s49p北北白中 ツモ6p 打中 (役牌……出来たら重ねたい) 場に2枚出てしまった中をみて京太郎もそれに倣い中を切り出す。 この苦しい手恰好では役牌は是非とも欲しいところであった。 【5巡目】 『京太郎手牌』 257m3356s469p北北白 ツモ6s 打9p 【6巡目】 『京太郎手牌』 257m33566s46p北北白 ツモ3p 打2m 6巡目の打牌が終わったタイミングで京太郎は自分の手を見つめなおす。 『京太郎手牌』 57m33566s346p北北白 (駄目だ……大分ましな形にはなったけど、面子ができない) ぴしりと心のヒビが大きくなった音が聞こえる。 京太郎はその音を聞かないようにして、もう一度場を見た。 ちょうどそのタイミングで、親の陽皐から場に2枚目となる白が切りだされる。 (くそ、この白も、駄目か) とりあえずこの白は安牌として抱えることに決め、自分のツモ牌を引いた。 【7巡目】 『京太郎手牌』 57m33566s346p北北白 ツモ1m ツモ切り 【8巡目】 『京太郎手牌』 57m33566s346p北北白 ツモ撥 ツモ切り 【9巡目】 『京太郎手牌』 57m33566s346p北北白 ツモ1p ツモ切り (この忙しいときに……!) 3連続無駄ヅモ。1筒を河に捨てながら京太郎は心の中で焦りを感じていた。 あと8順。単純に考えてあと8順の間に3枚の有効牌を引いて来なければならない。 (頼む……来てくれ) その9巡目、現在3着目の北家、松本は力を込めてツモを取った。 『松本手牌』 【5】6m45567788s567p ツモ7m ドラ西 (持ってこれたっ!) リーチをかければ出上がり跳満ツモり倍満確定。理想的なタンピン三色であった。 松本は手元の点数を確認しながら思案した。 (もう親はない。さすがにこの点差でトップを取りに行くのは無理だ) (そもそも、次があるかどうかわかんねーな……清澄が飛んじまう。ならっ!) 力強く発生して、松本は7索を場に切り出した。 (リーチかけてツモなら2着だ。ここは当然っ!) 「リーチっ!」 (マジかよ……) 先制される。この手恰好から考えれば当たり前の話なのだが、余りにも苦しい状況であった。 そのリーチを受けて陽皐は手出しでリーチ宣言牌の7索を切り出す。 そして、京太郎のツモ番 【10巡目】 『京太郎手牌』 57m33566s346p北北白 ツモ西 ドラ西 (ド……ラ?) 場を見渡す、どこをどう見ても西は切られていなかった。 超がつくほどの危険牌。吐きそうになりながらもその西を手に仕舞い込み、確保していた白を切り出した。 とりあえず1順しのぐが、あくまで問題を先送りにしたにすぎなかった。 そして、次なる試練が京太郎を襲った。 その10巡目、現在2着目の西家、上田はそのツモを見て長考に入った。 『上田手牌』 234m4【5】78s5567p西西 ツモ6s ドラ西 絶好の聴牌。ただ、親の現物は7索しかなく、それを切るということはほぼアガリを失う1打であった。 (つーか、そうした所で他の現物はないしな) (まぁ、何とか頭を下げて清澄が飛んでくれるか松本が届かないツモをしてくれることを願うっていう手もあるけど) 上田はその思考を笑い飛ばした。 (ねーよな、そんなの。役無しドラ3だけど、それにこの待ちなら戦える。ならば) 「リーチだっ!」 (勝負しかねーだろ! 2位は渡さねぇ!) その意思の元、5筒を卓に叩きつけ、1,000点棒を場に出した。 その二件リーチを受けて陽皐は自分の手を見た。 (何とか間に合ったか、やれやれ) 『陽皐手牌』 6789m33s999s8p西撥東 陽皐は途中で西をつかみ、その時点でこの局を諦めた。 2着目の風でドラ。生牌とあっては切れるものではない。 何事もなければ点数的にほぼ2着以上は確定している状況。 方向を修正して、安牌を抱え込んだのが正解であった。 撥も東も場に切られており、最低2順は稼げる。 ちらり、と京太郎を見る。 そこには必死に押し隠そうとしているが苦渋の色が漏れている京太郎の姿があった。 恐らく、前局の倍満振り込みが尾を引いているのだろう。 (精神状態はもう限界って感じだな。残り400点じゃ無理もないけど) 前局の南地獄単騎リーチに深い意味はなかった。 ただ、彼の中の第六感的なもの、感覚的なものが南でリーチを打てと告げていたから、打ったにすぎなかった。 デジタルとはかけ離れたカンの世界だが、陽皐はそれで勝ち続けてきた。 誰に何と言われようと譲る気はない自分のスタイルであった。 (女子チャンプの原村和がいるあの清澄高校だからどれほどの選手かと思ったけど、まぁ、全員が全員強いわけじゃないよな) そう思いながら、撥を切り出した。 それを受けて幽鬼のような表情で牌をツモる京太郎の姿を見て、彼の第六感的なものが告げていた。 ――こいつ、飛ぶな―― 【11巡目】 『京太郎手牌』 57m33566s346p北北西 ツモ5m ドラ西 (が……ふ……) 危険牌じゃない牌を探すほうが難しい状態。 あまりの状況に涙が出そうになる。 京太郎はもう一度場を見渡した。 『上田捨牌』 一中撥白八⑨ 撥九四5r 『松本捨牌』 南北中東⑨東 六27r一 『陽皐捨牌』 ①③⑨八南二 白三27撥 (なんだよ、この状況) 共通的に通りそうなのは北の対子のみ。 ただ、これを切れば当然向聴数は下がる。 もう11巡目、北を落としたところで間に合うかどうかは非常に疑問であった。 「絶望」の2文字が京太郎の頭によぎった。 (なんで、俺ばっかり……) (無理、だったのか。やっぱり) (もってやるやつに勝ちたいっていうのは) 北に、手をかける。それを河に投げようとする。 (そう、無理だったのか……不相応な、願いだったのか) ひびの入った彼の心がそれを後押しする。 (北を切ってとりあえず回って、聴牌とれたらいいな) (そうだよ、しょうがない、これはしょうがない) (しょうがないんだ) 指に力を込めて、北を持ち上げる。 (もう諦め……) 心が、今にも折れそうだった。 そして、その北を―― (……違う!) だが、それでも京太郎は北を切らなかった。 すんでのところで、踏みとどまった。 ヒビだらけ、傷だらけの心であったが、それでも踏みとどまった。 (闘うって、決めたんだ。最後の最後まで。諦めずに、前に進むって決めただろ!) 西に指を向ける。超危険牌だがもう迷いはなかった。 (そうだ、格好にこだわるな。みっともなくてもいい、鼻水やら鼻血垂らしながら、泣きながら、這いつくばりながらでもいい) そして、西を河に、投げた。 (どんな姿でもいい。だから、最後まで、諦めるな!) 場に、打ち出される西。 (通ってくれっ、頼むっ!) 発声は、かからなかった。 「これは、手を膨らませたの仇になったか! 手の中が危険牌だらけの状態。これは、厳しい!」 アナウンサーがあまりの悲惨さに悲痛な声を上げた。 「藤田さん、幸い今の西を通すことはできますけど、この状況は……」 「あぁ、かなり厳しいな。面子がないのには変わりないしな」 何か面白いものを見つけたように、まくりの女王と呼ばれているプロはにぃ、と笑った。 「しかし、一瞬北の対子を落とすか悩んだようだが……腹、括ったみたいだね」 笑みが崩れない。何かを楽しむかのように、モニタを見続ける。 「うん、いいまくりが、見られる気がする。なんとなくだがね」 1枚の牌を切っただけで、京太郎の精神は大きく削れた。 通ったことが確定したのだとわかっても、動悸が激しい。 (とにかく、通ったんだ) (まだ、行ける。まだ、戦えるんだ) 涙がこぼれそうになる。叫びだしたかった。それでも必死に歯を食いしばった。 呼吸を整え、場を見る。下家も対面もアガリ牌は引けなかった。 陽皐は対面がツモ切った6萬に合わせて手出しで6萬を切った。 そして、その6萬に反射的に飛びついた。 「チーッ!」 【12巡目】 『京太郎手牌』 5m33566s346p北北 チー567 打5m 「そこからチー? で、でも役が」 普段自分が目にしないものを見て、驚いた様子で咲が声を漏らす。 そんな咲に幾分かは落ち着いた様子で和が言った。 「もう終盤です。須賀君は形式聴牌をとりに行ったんです。さっきも言ったようにように、聴牌を取らねばトビですからね」 画面の中では京太郎が本当に苦しそうな顔をしながら危険牌である5萬を切り出していた。 「じゃが、この形は……」 まこは京太郎の手恰好を見て唸るように言った。 直後、対面が北を切る。それにも飛びつく京太郎。 「ポンッ!」 モニタの中で必死の形相で北を仕掛ける。 【13巡目】 『京太郎手牌』 33566s346p ポン北北北 チー567 打6p 6筒も超危険牌だが京太郎は何とか切った。 「あ、あぁ、この形は」 優希も気づいたようにうめき声をあげた。 『京太郎手牌』 33566s34p ポン北北北 チー567 『松本手牌』 【5】67m45567788s567p 『上田手牌』 234m4【5】678s567p西西 「聴牌したら、当たり牌が出ちゃうじぇ……」 暗い顔で和が頷いた。 「……9索はもう全枯れですから考えなくていいとして、3索も6索も全員の手で使い切っています」 酷な現実を告げるように、和は続けた。その表情は非常に重苦しいものだった。 「つまり、3索や6索を暗刻らせて放銃を防ぐのは無理……ですね」 「えぇ。願わくば須賀君が2筒か5筒を先に引いて5索切りのシャボ受けにしてくれることを祈るのみね」 「でも、それって、4索か7索を先に引いちゃったら……」 最後に咲が言ったその言葉に返事を返すものは誰もいなかった。 【14巡目】 『京太郎手牌』 33566s34p ポン北北北 チー567 ツモ7m (また危険牌っ!) のたうちまわりたくなるほど苦しい状況だったが、そのままツモ切りしていく。 発声はかからなかったが、先ほどから京太郎が危険牌を切るたびに心臓が削り取られていくよう感覚だった。 京太郎はこの4枚連続の危険牌切りで心臓がなくなってしまったのではと思うぐらいであった。 (もう、時間がない。そんなにツモがない。そろそろ引かないと、マズイ) そして、何も発声がかからないまま再び京太郎のツモ番が回ってきた。 そこに書かれた絵柄を見た瞬間、京太郎の心臓は跳ねた。 【15巡目】 『京太郎手牌』 33566s34p ポン北北北 チー567 ツモ4s (……来たっ! ようやく聴牌!) 京太郎にとって、待ち焦がれていた聴牌となる牌だった。 (よし、この牌が通せればっ!) そう思いながら、京太郎は3索に手をかけた。 清澄高校控室では京太郎は4索を引いた瞬間に悲鳴が上がった。 「そっちを、引いてしまったか……」 まこが天を仰いだ。画面の中の京太郎は3索に手をかけていた。 「あとちょっと、あとちょっとだったのに!」 咲が悔しそうに拳を握りしめた。 実況席の2人も思わず声を漏らした。 「あー、引いてしまいました。これで聴牌ですが、当たり牌が出る形」 「あぁ……本当に、頑張ったんだがな」 そう、その対局を見ていた会場の誰もが京太郎の振り込みを確信していた。 そして、京太郎本人も3索を切ろうとしていた。 牌を持ち上げ、河に切り出そうとした瞬間、それが目についた。 『上田捨牌』 一中撥白八⑨ 撥九四5r【5】九 ⑧中 『松本捨牌』 南北中東⑨東 六27r一六2 ⑥ 『陽皐捨牌』 ①③⑨八南二 白三27撥西 ⑧ 『京太郎捨牌』 ①東9中⑨二 一撥①白西五 ⑥七 京太郎はそれに気づいた。気づいてしまった。 (……いやいやありえないだろ。仮に一人に通用してももう一人には通用しないぞ) (それに、切らないとしてもどうするんだよ。もう順目は残ってないぞ?) (大体、止めたとしてもどっちにしろ危険牌切らなくちゃいけないんだぞ? ありえない) 京太郎は頭では必死に3索を切れと訴えかけた。 だが、体が反応しない。 気付いてしまったから、体が動かない。 (……わかったよ) (そうだよな。最後くらい、自分のそれを、信じてみたいもんな) (行こうか、信じたほうへ) 長考であった。そして、京太郎は散々迷い、苦しみぬいて牌を抜いた。 33566s34p ポン北北北 チー567 ツモ4s 打4p その打牌を見た瞬間、清澄高校部室では悲鳴とはまた違う驚きの声が漏れた。 「す、4筒!? なんで!?」 優希が驚きの声を上げる。 「ど、どうして? どうして?」 放銃を回避したはずなのだが、余りに不可解な打牌に咲も喜びより驚きが出ていた。 「わ、わかりません。3筒4筒が安牌というわけでもありませんし……」 「……不可解だけど、何かに気づいて、3索6索が危ないってわかったのかしら。というか、そうとしか考えられないわね」 和の動揺した声に久も自分の言っていることに疑問を感じながらそう予想した。 「た、確かに3索6索を止めると考えれば3筒4筒を払うのが一番広い、な?」 「え、えぇ。9索以外の索子を引けば聴牌ですが……」 一同は呆然としながらもモニタを見ながら京太郎の手牌の行く末を見守った。 その驚きは実況席でも同じであった。 「ふ、藤田さん。私はてっきり3索か6索を切ると思ったんですが、これは、どういうことでしょうか?」 アナウンサーが戸惑いながら靖子に助けを求めるが、考え込んだ後首を振った。 「正直、わからん。私も3索を切ると思っていた。まぁ、確かに場に索子は高いが、筒子が通る保証は全くないしな」 むしろ危険だ、そういって言葉を締めくくった。 「そうですよね……清澄高校、須賀。いったい何を考えているんでしょうか?」 「何を考えたのか、もしくは何かを感じたのか……やっぱり何か、起こりそうだな」 (通った、か) 京太郎は吐き気を堪えながら切った自分の4筒を見つめていた。 か細い理論、直感とある種の感情に任せて切った牌だったが、通った。 (だがこれからが問題だ) 余りツモは残っていない。その数少ないツモで聴牌を入れなくてはいけなかった。 心臓だけじゃなくて全身の血管が破裂しそうなほどの何かを京太郎は感じていた。 ツモ牌に手を伸ばす。 【16巡目】 『京太郎手牌』 334566s3p ポン北北北 チー567 ツモ4p 打3p (お前じゃない!) 【17巡目】 『京太郎手牌』 334566s4p ポン北北北 チー567 ツモ3m ツモ切り (お前じゃないんだ!) 内心のその声はほとんど悲鳴であった。 残すツモはたった1枚。ここで引けなければ終りであった。 京太郎の番が、回ってくる。 (頼む) ツモ山に震える手を伸ばす。 (引かせてくれ) 最後の1枚に手を触れる。 (ここで、終わりたくない) そしてゆっくりと (まだ) 牌を、ツモった。 (麻雀がしたい!) その後、3人とも最後の1枚をツモり、流局となった。 「ノーテン」 親の陽皐が手を伏せる。そして南家の京太郎に3人の注目が集まった。 だが、京太郎の体は動かない。 「君、宣言を」 審判員に注意を受け、その時漸く流局になったことに気づいた京太郎はびくりと体を震わせた。 そして、カラカラに乾いた口を開き、ゆっくりと牌を……倒した。 「聴牌」 『京太郎手牌』 3345668s ポン北北北 チー567m 京太郎はリーチ者2人の聴牌形をみて、内心ほくそ笑んだ。 (まさか本当に3索6索がアタりとはなぁ……麻雀の神様ってのは俺のことが嫌いなのか好きなんだか) そう思いながら、京太郎はアガれずに若干悔しそうなリーチ者2人と、 何やら京太郎の手を驚愕の顔で見ている陽皐を見渡して、内心うそぶいた。 (どうだ、止めてやったぜ? ざまあみろ!) 上田 32,700(+-0) 松本 15,200(+-0) 陽皐 48,700(-3,000) 京太郎 1,400(+1,000) (供託2,000点) その聴牌形を見て陽皐は愕然としていた。 牌はもうすでに落とされており、オーラスの山が積まれていたが、それは陽皐の脳にはっきりと焼き付いていた。 (形式聴牌なのは想定通り。待ちが愚形なのはどうだっていい) (だが、何故。何故その3-6索が止められたんだ!?) 自分の勘が外れたこと、ありえないブロックに陽皐の精神は激しく混乱していた。 まるで前局の京太郎のように若干の震えを伴いながら陽皐は配牌を取った。 (全ツッパだったはずだ。オリなど考えていなかったはずだ) (なのに、何故そこが1点で止められるんだ!? 止めたことで切った3筒、4筒だって相当な危険牌だろ!?) 配牌を取り終わる。陽皐にとってはあるはずのないオーラス。 『陽皐配牌』 223m99s356p東西白白白 ドラ7p 面子候補は足りていないが好形。 役牌もあり、流すにはもってこいの形だった。 (とにかく、とにかくだ。さっさと蹴って終わらせる) そう思いながら第1ツモを手に取る。4索を引き、さらに形がよくなる。 西を切り飛ばし、2巡ほど空振り4巡目。 【4巡目】 『陽皐手牌』 223m99s3456p東白白白 ツモ5p ドラ7p 磐石の形。ポンにもチーにも行ける理想的な形だった。 東を切り飛ばす。だが、1巡空振りして次の6巡目だった。 「リーチっ!」 3着目、松本からの早いリーチが入った。 捨牌を確認する。 『松本捨牌』 628北九⑧r (また妙な捨て牌だな……) そう思いながら自分のツモに手を伸ばす。 【6巡目】 『陽皐手牌』 223m99s34556p白白白 ツモ4m ドラ7p ストレートな聴牌。だが2萬という危険牌を切ってまで聴牌を取る気はなかった。 何も考えず、ノータイムで9索の対子を手に取り場に打ち出した。 精神的な動揺があったのかもしれない。 万全の状態であれば勘が働き何かを察知できたのかもしれない。 だが、それはすでに場に打ち出され 「ロン!」 アガリを、宣言された。 『松本手牌』 111789m1119s111p ドラ7p 「リーチ、一発、純チャン、三色、三暗刻」 松本はゆっくりと役を数えた。 そしてゆっくりと裏ドラに手を伸ばし、めくった。 裏ドラは、9索。今ちょうど、陽皐が切った牌であった。 「……裏2! 三倍満で24,000は24,300!」 まくられた。陽皐がその現実を認識するのに多少の時間がかかった。 長かった対局が、終わった。 『終局』 上田 32,700 松本 41,500(+26,300) 陽皐 24,400(-24,300) 京太郎 1,400 それが決まったとき、実況席は一瞬の沈黙に包まれた。 「まさか、まさかの……インターミドル3位、陽皐がここで敗退です!」 あまりにドラマティックな展開にアナウンサーも最初言葉を失った。 「素晴らしいまくりだ、いい物を見れた」 隣でまくりの女王が満足そうな顔をして微笑んだ。 「藤田プロの言うとおりになりましたね……ここまで劇的な大まくりが出るとは……」 「そうだな。まず3着目の松本、南3局で大物手を潰されたのにもかかわらず、腐らずオーラスに望んだ」 「その執念をまずは褒め称えたい」 そして、と前置きしつつモニタの中でうなだれた表情をする京太郎をみた。 「自身は及ばなかったが、このまくりが出たのは南3局で清澄の彼が土俵際であきらめず踏ん張ったからだな」 「えぇ。普通であれば彼が飛んでこの局はなかったわけですからね」 「あぁ。無論彼は悔しいだろうが……。まだ若い」 モニタをこつりと指で軽く叩いて微笑みながら言った。 「この先もあのように諦めなければ、きっといい雀士になるな」 「ありがとうございました!」 対局後、挨拶の後喜びを隠せないように1位と2位は弾かれたように対局室を飛び出していった。 京太郎はそれを気にもせず、目の前の牌をぼんやりと眺めた。 『京太郎手牌』 456m224789s57p東東 東が鳴ければ、勝負になっていた。 だが、東は山に深く、場に打ち出されることはなかった。 結局京太郎の新人戦は一度もアガることなく、終わった。 「少し、いいかな?」 そうやって京太郎が自分の手を見続けていると声がかけられた。 京太郎ほどではないが、暗い顔をした陽皐だった。 「……なんすか?」 「いや、すまん。俺と話なんかしたくないとは思う。だけど、教えてほしいことがある」 陽皐は京太郎の返事を聞かないまま、殆どめくられることがなかった山を返し、京太郎の前に牌を並べた。 「南3局で2軒リーチが入ったてから、途中でこんな手格好があったと思うんだが?」 『京太郎手牌』 33566s34p ツモ4s ポン北北北 チー567 「あぁ、はい……」 京太郎はその手牌を見ながらあの時の状況を思い出し、頷いた。 「教えてほしい。何でここから、3筒と4筒を切り出していったんだ? 何故聴牌を取らなかったんだ?」 納得がいかないと言った顔をして陽皐は続けた。 「確かに、3索と6索は危険牌だった。だが、それまでも無筋を切り続けていたし、3筒と4筒だって安全じゃない。むしろ危険牌だ」 拳を握る陽皐。敗北の悔しさが徐々にこみ上げてきたのか、その言葉には有無を言わせない何かがあった。 「教えてくれ、頼む」 沈黙が流れる、陽皐は話すまで梃子でも動かないと言った空気が感じられた。 京太郎はそれを受けて若干悩んだ後、口を開いた。 「あの時、対面さんの捨牌……リーチの直前、確かこんな感じだったはず。全部は覚えてないけど」 『松本捨牌抜粋』 六27r一 「……確かに、そんな感じだったな」 「ほらこれ、ここ」 そういってリーチ宣言牌とその直前に切られた2索と7索を指差した。 「間四ケン。だから、危険だと思ってどうしても切れなかった」 「……はぁ!?」 陽皐は思わず間抜けな声が聞こえた。 間四ケン。今回のように2と7や3と8のように牌が切られた際に間のスジが危ないと言う読み筋である。 だが、読み筋の中では当てにならないと言われる物のひとつであった。 「あ、間四ケンって、それだけ? しかももう一人の立直にはまったく意味をなさないだろ!?」 陽皐の語気が荒くなった。 あれほどの1点読みをしたのだから何かしらのすさまじい理論か自分と同じ勘の打ち手だと考えていた。 だが、蓋を開けてみればそのどちらかでもなく、誰でも知っているか細い理論であった。 「わかってる。俺だって、馬鹿だなと思う。その証拠に切るとき、結構、迷ってただろ?」 「……あぁ、確かに」 京太郎の苦しそうに悩み、今にも死んでしまいそうな顔で4筒を打ったこととを思い出す陽皐。 それでも納得がいかなそうな陽皐をみて京太郎は天井を見上げながら、何かを思い出すように言った。 「でも、さ。間四ケンって言う知識は……」 あの日の部室での出来事を思い出す。 お互いに泣きながら、気持ちをぶつけ合ったあの日。 優希と笑いながら、話したあの日と出来事を思い出していた。 ――そうだ、聞きたいことがあったんだが……間四ケンって―― ――読み筋の話か? 間四ケンとかよりまだ―― 「雀士としての俺が、初めて覚えたこと」 「俺が、もってなくても、勝てなくても、それでもやっていこうって決意して、初めて覚えたことなんだ」 「だから、どうしてもそれを信じてみたくなった」 それだけ、と言って京太郎は黙り込んだ。 陽皐は何かを言い返したかった。だが、何も言葉が出なかった。 (人のこと、言えないよな。俺だってありえない打牌して周りからいろいろ言われてきたってのに) (自分が今までしてきたのに、自分が不条理な打牌をされて相手を咎めると言うのも、ないよな) 「わかった、ありがとう。また、機会があったら打とう」 軽くため息をつき、陽皐はそうやって京太郎に軽く礼を言った。 「……あぁ」 京太郎は、そう返すのが精一杯だった。 心の中に吹き荒れる激情を抑えるのが精一杯でそれ以上話すことが出来なかった。 陽皐はそれを見て何も言わず、対局室を出て行った。 京太郎もそれから少しして、ふらつきながら対局室を出た。 頭には霞がかかったようだった。 控え室に向かい、会場内の通路を歩く。 京太郎は周りは相変わらず人が多いがその喧騒が遠くから聞こえるように感じた。 すれ違う人にぶつかりそうになりながらも、京太郎は歩く。 (何も) 次のステージへの進出を決めたのか、一人の高校生が周りから撫で回されたり小突かれたり、手荒い祝福を受けていた。 (何も、できなかった) このステージで敗退したのだろうか、一人の高校生が涙を流していて、顧問と思われる壮年の男性が何も言わずに頭を撫でていた。 (終わっちゃったんだ、な) 周りから自分はどう映っているのか、京太郎はそんなことを考えるがわかりったことだ、と即座に切り捨てた。 (俺の、新人戦) ぼんやりとする頭の中で京太郎は自分の置かれている状況を少しずつ理解していく。 そんな時、目の前に見知った顔が居た。通路に立っている5人の顔。 まこ、優希、和、咲、久。皆それぞれ、痛ましい顔で京太郎を見ていた。 「京、ちゃん」 咲が京太郎の名を呼ぶが、その後が続かなかった。 咲は必死に慰めの言葉、励ましの言葉をかけようと頭を巡らせるが、何を言えばいいのかわからなかった。 それも至極当然のことであり、麻雀において常に強者で居た咲に、 敗者に対して何を言えばいいのかわからないのは自明の理だった。 だが、ほかのメンバーも何を言えばいいのか、わからなかった。 あまりにも、一方的な敗北。善戦であれば何かが言えただろう。 だが、ここまで言い訳も出来ないほど完膚なきまでに叩きのめされれば言葉に迷うのも無理はなかった。 最後の形式聴牌で踏みとどまったことは驚きだったが、それが大した慰めにもならないことも、彼女たちは理解していた。 (なんだよ、まったく) そんな5人の様子を見ながら、京太郎は苦笑した。 (俺以上に、つらい顔しやがって) 何か湧き出そうになる、どうしようもない感情に蓋をして、京太郎は笑った。 「すいません、負けてしまいました」 そう言って頭を下げる。 それを口に出した瞬間、感情が爆発しそうになったが、それでも京太郎は耐えて、頭を上げた。 「はは、俺なりに必死にやったんですけど、ほんと、すみません、み、みんな、一生懸命、お、俺の、た、ために」 言葉が震えてくる。笑顔が崩れそうになる。 そんな状況を必死でこらえながら、京太郎は続けた。 「そ、そうだ。な、なんか飲み物でも、買ってきましょうか。ほら、ほら、その、えっと、皆、喉でも渇いたでしょ?」 誰が見ても、無理をしているというのがわかる顔であった。 優希が顔を伏せる。和が口に手を当てて声を押し殺す。 そして、咲が泣きそうな顔で京太郎に駆け寄ろうとした。 だが、その手をまこが握り、そして、京太郎に向き直って言った。 「じゃあ、適当に頼む。金は、後で渡すけぇ」 「わ、わかりました。じゃあ、いって、きます」 もう限界だとばかりに、京太郎は顔を伏せてきびすを返した。 そして、走り出す直前の京太郎にまこがもう一度声をかけた。 「京太郎!」 「……はい」 振り返らず、押し殺した声でまこの呼びかけに反応する。 まこは、京太郎が見てはいないとはわかっていても、その背中に笑いかけた。 「会場は広いけぇ、迷うかもしれん。……ゆっくりでええからな」 「……ありがとうございます」 そう言って軽く頷くと、京太郎は駆け出して行った。 「染谷先輩、京ちゃんを、その……」 控え室に帰る道すがら、咲はそんなことを言った。 何かを言いたかったようだが言葉にはならなかった。 「京太郎も男じゃけぇ。プライドっちゅうもんがある。今は、一人にさせてやるんじゃ」 「……はい」 咲は不承不承、と言う感じで頷いた。 その様子を見て、3人を見渡しながらまこは続けた。 「なにより、今回の新人戦で勝者であるぬしらが敗者にかける言葉はなかろう」 しばらく、沈黙が続くがぽつりと優希がこぼした。 「京太郎、また麻雀がいやにならなきゃいいな」 「……そうですね。この敗北は心にくると思います。本当に、今日は巡り合わせが悪かったとしかいいようがありません」 和もそう言いながらどこか辛そうな表情をした。 まこがそんな空気を払拭するかのように、大きな声で言った。 「とにかく、京太郎を信じるんじゃ! まずは、帰ってきたら暖かく迎えてやろう。結果が伴わなかったとは言え、必死に戦ったんじゃ」 その言葉に、3人は小さく返事を返した。 そのとき、まこが何かに気がついたように辺りを見回した。 「ん? ……久は、どこへ行った?」 そういうと3人も辺りを見回したが、久の姿はどこにも見えなかった。 会場の一番はずれにあり、辺りには控え室も無い自動販売機コーナー。 京太郎はそこに全力で走り、辿り着いた。 「はぁ……はぁ……」 大した距離を走ったわけではないのだが、なぜか酷く呼吸が乱れた。 震える手でポケットから財布を取り出す。 小銭を取り出そうと財布の口を開いた瞬間に震えからか、財布を取り落としてしまう。 甲高い音が響いて、辺りに小銭が散らばった。 (何やってんだ、俺) 心の中で愚痴りながらも、しゃがみ込む。 「くそっ」 小銭を拾いながら、京太郎は言葉を漏らした。 何に苛立っているのかはよくわからなかったが、それでも何かを堪え切れなかった。 「くそっ」 目頭が熱くなってくる。 「くそっ」 鼻の奥がツンとした。小銭を拾う手が止まり、体が震えだす。 その時だった。 京太郎に影がかかる。その影は京太郎と同じようにしゃがみ込み、 一番遠くにあった最後の一枚の小銭を拾い上げた。 「はい」 そう言うと、影――久は微笑みながら手を差し出した。 「ぶ、ちょう」 「部長じゃないってば」 そう笑いながら小銭を京太郎に渡した。 京太郎はそれを受け取り、財布に入れる。 「ど、どうし、て?」 「ほら、6人分の飲み物持って帰るの大変でしょ。手伝ってあげようと思って」 久はいつもの笑いを浮かべながら京太郎に言った。 京太郎はそれに対してどう返せばいいのかわからず黙り込む。 そうしていると、久はせかすように京太郎の手を引いた。 「ほら、さっさと買っちゃいましょ?」 「……はい」 京太郎は小銭を自動販売機にいれ、適当にボタンを教えていく。 「ねぇ、須賀君」 久は自販機横のベンチに座り、京太郎の買ったジュースを自分の隣に置いた。 「なんですか?」 京太郎は自動販売機に向かい合ったまま、答えた。 久は少し間を空け、何かを迷う素振りをしたが、結局その言葉を発した。 「……麻雀、嫌になっちゃた?」 京太郎はその問いに、自動販売機のボタンを押す手を止めた。 そして、何かを考え込む。久は黙って、その返事を待った。 しばらくして、京太郎は途切れ後切れだが、久に向けて言った。 「……やっぱ、悔しいです。だけど、まだ、がんばれると思います。」 「あの南3局。たぶん、3人ともが俺のこと飛ぶって思ってたんでしょうが、なんとか、踏ん張れました」 「ただの頼りない理論、意味も無い勘でしたけど、当たり牌、止めること出来ました。その上で、聴牌できました」 「その瞬間、ちょっと、嬉しかったんです」 「苦しい苦しい対局ですけど、嬉しさも見いだせました。だから」 「だから、その、もうちょっと、がんばれるかなって、そう思います」 そこまで言い切って、京太郎は自販機のボタンを押した。 久はジュースを受け取り自分の隣に置いて軽く微笑み、そう、と言った。 「さ、行きましょうか。みんな待ってますよね」 「待って。須賀君、ちょっとこっちに座りなさい」 ジュースを手に取り歩き出そうとした京太郎に、久は自分の隣をぽんと軽く叩きながら言った。 「……なんですか? 何企んでるんですか?」 「いいからいいから」 口元は笑っていたが、どこか真剣な感じを受ける久に京太郎も何かを感じ取ったのか、言われるがままに隣に座った。 「はい、座りました。で、なんでしょうか」 京太郎が久に問いかける。すると、久は何も言わず、京太郎の頭を撫でた。 「……えっ?」 (そう、私は、あなたにとっていい部長ではなかったと思う) 「何ですか、先輩。何を企んでるんですか?」 (でも、あなたは私を責めることなく立派に成長した) 「先輩?」 (私は、あなたに対してほとんど何も出来なかった。だから) 「どうしたんで……!」 (これぐらいは、させて頂戴) そう言いながら、京太郎の頭を自分の胸に抱いた。 「た、竹井先輩。ど、どうしたんですか? と、突然何を」 「いいの」 動揺した様子の京太郎の言葉をさえぎりながら京太郎は抱きしめた久の頭を撫でながら言った。 「あなたが麻雀を続けると言ってくれたことは嬉しい。がんばれる、といって笑ってくれることは嬉しい。でも」 さらに、京太郎の頭を強く抱きしめる。 京太郎は久のやわらかい胸の感触を感じつつも何故か下心も無く、それに身を預けていた。 「辛いときは、悔しいときは、泣いていいのよ?」 その言葉に、京太郎はびくりと反応し体を震わせた。 それでも尚、何かに耐えている様子の京太郎に久はその背中を撫でて言った。 「辛かったわね、苦しかったわね……。須賀君が苦しい中、一生懸命がんばっていたのは見たわ。あなたは、あなたは」 久の目にも涙が浮かんでいる。それを1回ぬぐい、再び京太郎の背中を撫でた。 「あなたはよくやったわ。お疲れ様、須賀君」 京太郎の精神はそれが限界だった。堪えていた何かが噴出していく。 涙が大量にこぼれ、久の制服を濡らした。 「うっ、うぅ、ぐ、ぐぅ……」 引きつった声を漏らす京太郎。 一度噴出したそれはもう堪えが聞かなかった。 「悔しい、悔しいです。あんなに、あんなに打ったのに。みんなと、あんなに……!」 「うん、うん」 「ぜんぜん、うまくいかなくて、お、思い通りにならなくて」 「うん……」 「な、なんとかしようとしたんですけど、で、でも、どうしようも、なくて」 「うん……!」 「できることをしようと、おもった、のに、たいしたこと、できなくて」 「うんっ……」 「みんな、と、みん、なとあんなに、がんばった、のに」 「えぇ……! あなたは、あなたは、頑張ったわ、須賀君」 久は京太郎の言葉に頷き、自分も涙を流しながら京太郎の背を撫でた。 「なのに、なのに、俺、俺……う、ぐ、ううううううああああああ」 それ以降は言葉にならなかった。 京太郎は久の胸の中で呻く様な鳴き声をあげた。 久の腕を掴み、子供のように泣いた。 久はそれに対して何も言わず、ただ京太郎を抱きしめて子供をあやすように背をさすり続けた。 沸き立つ会場の片隅で、京太郎の嗚咽の声が響いた。 それは、しばらく止むことはなかった。 それからも京太郎はただ麻雀を打ち続けた。 毎日毎日、打ち続けた。 そして、毎日のように麻雀部メンバーに負け続けた。 久が学校から去り、新入生が入ってきたときも打ち続けた。 ほかのメンバーに比べての実力の低さを笑われるときもあったが、それにも負けずに打ち続けた。 その真摯な姿に後輩も感じ入るものがあったのか、不思議と男女問わず信頼を得るようになった。 もともと、人当たりのいい性格と言うこともあり、慕われるようになった。 夏の大会で2回戦負けしたときも打ち続けた。 男子はメンバーが集まらず団体戦には挑めず、個人戦での参加となった。 その時、初めて公式戦で1勝をあげることができた。 結局2回戦負けとなり、清澄は女子だけ、などと揶揄されることもあったが勝利に胸を躍らせた。 夏の大会後、まこから部長職を引き継いだときも打ち続けた。 京太郎は自分の実力も考えて和のほうがいいと強く固辞したが、京太郎以外の一同が京太郎を推薦した。 結局京太郎は部長職を引き受けた。 周りからは一番実力が無い者が部長はどうなのかと懸念の声もあったが、それでも周りが京太郎を盛り立てた。 秋の新人戦で後輩たちが活躍したときも打ち続けた。 数少ない男子メンバーの一人が全国への切符を手にした。 もともと中学から打ち込んでおり、京太郎が教えられることはあまり無かったが、 それでも京太郎は後輩をかわいがり、公開も京太郎を先輩として敬意を持って接した。 その後輩が全国への切符を手にしたときは自分のことのように喜び、泣き、称えた。 胴上げをした際に危うく落としかけ、まこと和に酷く叱られたこともあったが。 そして、まこが卒業を控え最後に1卓囲んだときも京太郎は全力で打った。 「あっという間の3年間じゃったな。もう打つことが無いと考えると寂しくなるのぅ」 まこは麻雀中そんなことをぽつりと言った。 京太郎はそれを聞いて、何を言ってるんですか、と前置きした後に言った。 「みんな卒業してからでも、それこそ就職してからでも、打ちましょうよ。だって」 京太郎はにっと笑いながら残りの4人に笑いかけた。 「俺、まだ皆に勝ってないんですよ? 勝ち逃げは許さないです」 そういうと、全員がとても嬉しそうに、可笑しそうに笑った。 「そうじゃな……。うん、そうじゃったな」 「えぇ、時間を見つけて、また皆で打ちましょう」 「京太郎もたまにはいいこというじぇ!」 「ゆ、優希ちゃん。それはちょっとひどいよ」 「そうね、私も大賛成よっ!」 「どわっ! 竹井先輩、どっから出てきたんですか!」 そしてその局も勝てなかった。 それでも、打ち続けた。 辛いことがあっても、苦しいことがあっても、敗北に心が折れそうになっても、ただ、ひたすらに打ち続けた。 ―――――――――――――――――――― ――――――――――― ―――――― 「ツモ。嶺上、混一色、ドラ3。3,000-6,00です!」 「ふぅ、最後の親が終わってしまいました……」 咲の発声に和が呻いた。ここまで焼き鳥だった咲の改心のアガリで点棒状況は大きく変動した。 『オーラス開始時』 京太郎 22,300 咲 26,600 和 13,300 優希 37,800(親) 「満直跳ツモで逆転か……」 あごに手を触れ、ざらざらとした感触を感じつつ京太郎は点棒を確認した。 「さて、京太郎。私をまくれるかな?」 オーラス、トップで親を迎えた優希がどこか不遜な態度でそう言った。 それに対して京太郎は口元に笑みを浮かべた。 「言ってろ。今日こそまくってやる」 そう言いながら京太郎は配牌を取った。 全員が、トップを取るために真剣な眼差しだった。 『京太郎配牌』 24m35779s34p東西北北 ドラ北 ドラヘッド。この状態から何かしらの手役を作れば跳満が見える。 配牌を見て、こういった状況で逆転の種が来てくれたことに感謝する。 「……(今日こそ、決めるんだ)」 場は進んでいく。優希を除く3人はごく普通の捨て牌だが和は捨て牌から国士無双であることが伺えた。 【8巡目】 『京太郎手牌』 45m57799s344p北北北 ツモ6s ドラ北 (いける、か?) 手ごたえを感じるカンチャン引き。7索を切り出す。だが、まだ手役が足りない。 ドラは6巡目に暗刻らせることはできた。だが、手役は見えずツモっても裏ドラ期待の手となってしまっている。 (咲なら、ここで北を引いてくるんだろうな) そう思いながらツモに手を伸ばす。 【9巡目】 『京太郎手牌』 45m56799s344p北北北 ツモ9m ドラ北 (4枚目……) 場に3枚見えている9萬。 和の捨て牌が露骨に国士無双を訴えかけていた。 この9萬を止めることは出来るが、それだとほぼアガリを逃すことになる。 ――国士無双。32,000です―― いつかの記憶を振り払うように、大きく息を吸ってから、切り出す。 和がちらりと京太郎のほうを見るが、発声は、かからなかった。 京太郎は胸をなでおろす。 そして、和のツモ番になった。 【和手牌】 1m19s19p東東南南西白発中 ツモ北 (一手間に合わず、ですか) 自分はここまでだ、和はそう思いながら心の中でため息をつき、場切れの白を切り出していく。 (後は、3人にお任せしましょう) そして、10巡目。 (裏期待じゃ、駄目なんだ) そんなことを思いながら京太郎は山に手を伸ばした。 裏ドラも確率である。乗る人間、乗らない人間と言うのもオカルトな話だ。 だが、京太郎は今までの経験上、こういう状況で裏ドラ期待の手を売って乗った試しがなかった。 ただ、聴牌したらリーチを打たざるを得ない。 (だから、俺に、あれを……くれ!) 京太郎は、強く念じながら力強く牌をツモった。 【10巡目】 『京太郎手牌』 45m56799s344p北北北 ツモ【5】p ドラ北 (! お前を待ってたぞ!) 待望の赤5筒引き。これで4役。リーチをかけてツモれば文句なしの跳満である。 「リーチ!」 力強く発声して、場に千点棒を出した。 (来たね、京ちゃん) 【10巡目】 『咲手牌』 333【5】5578m45567p ツモ7p ドラ北 その同じ巡目で咲も聴牌を入れる。 ツモれば2000-3,900でトップに届く。 (私だって、負けないよ) 先も5筒を切り出し追いかける。 それを見受て、優希は自分の手を睨みつけた。 (2軒リーチか) もとより、優希は配牌がガタガタであり、ツモも噛み合わなかったためいまだ2向聴である。 (こりゃ、流局期待だな) 即オリを選択する優希。奇しくも、咲と京太郎の勝負と相成った。 11巡目、12巡目、13巡目……。 重苦しい場が進行していく。京太郎も咲も強く、強く念じながら牌を取っていく。 よもやの流局か、と和が思った、15巡目。 勝負はその巡目に付いた。 「ツモ!」 『京太郎手牌』 45m56799s34【5】p北北北 ツモ3m ドラ北 裏ドラ 2s 「リーヅモドラ4! 3,000-6,000だ!」 『終局』 京太郎 35,300(+13,000) 咲 22,600(-4,000) 和 9,300(-3,000) 優希 31,800(-6,000) 京太郎がそう宣言した後も沈黙が包まれた。 そんな中、咲が嶺上牌に手を伸ばした。なんとなく咲はわかっていたが、そこにあったのは9萬。 京太郎の引いた3萬を自分が引けばカンして嶺上ツモアガリであった。 咲はそれを見てくすりと笑って、言った。 「京ちゃん、トップだよ。おめでとう」 最初京太郎は呆然と我を失っていたようだったが、見る見る顔が血色ばんできて、喜びを爆発させてた。 「よっっっっっっっっしゃあああああああああああああああああ!」 あまりの声の大きさに周りの卓に座っていた者たちが何事かと京太郎の達を見た。 席から立ち上がり大きくガッツポーズをする京太郎。 雄たけび、と言っても過言ではないような勝利の咆哮であった。 世界中で今一番幸せなのは自分だ、そういいきれそうな満面の笑みだった。 「す、須賀君、声が大きいです」 和は京太郎の大声に思わずたしなめた。 「あ、あぁ、す、すまん」 京太郎はあわてて周りの人間にすみませんと頭を下げた。 「まぁ、でも、無理もないなー。長かったな、京太郎?」 優希はそんな京太郎の様子を嬉しそうに、本当に嬉しそうに見ながら言った。 「あぁ、ほんと」 京太郎はその言葉に頷きつつ、天井を見上げて言った。 「ここまでくるのに、15年もかかっちまった」 最上級生になり、それぞれの進路に向けて歩き出し、別々の道を進んでも京太郎たちはこうやって集まり時たま麻雀を打っていた。 それぞれが働き始め、仕事や居住地の都合もあり学生時代とくらべれば頻度は下がった。全員集まらないことも増えてきた。 それでも、その機会が途絶えることはなかった。 そして、15年目の今日、京太郎はようやく大願を成就した。 「まったく。もうみんなそろって三十路になっちゃったじぇ」 優希はみんなといると時々こうやって昔の口調に戻るときもがあった。 本人は気づいていないようだがあえてだれも指摘しなかった。 「だな。俺らも老けたな」 そう言いながら、京太郎は伸びてきた顎髭を撫でた。 「……やめてください。現実に戻さないでください」 「和は最近、年齢の話になるとそんなんだな……」 「女にはいろいろあるんです」 ぷいっと顔を背ける和。優希はそれを見て和をからかう。 そして咲は感慨深げな顔をしながら微笑み、誰にともなく言った。 「でも、とうとう、負けちゃったね、私たち」 「えぇ。今の須賀君の実力と確率を考えれば遅すぎるぐらいですが」 「まったくだじぇ」 3人娘――今もこの表現が正しいかは疑問だが――は笑いあった。 それを見て京太郎は笑いながらも少し真剣味を取り戻して言った。 「でも、皆には感謝してるよ」 「……どうしたの、京ちゃん?」 「15年間、たくさんたくさん打った。たくさん負けて、いろいろあって喧嘩したり、気まずくなったこともあったよな」 その言葉に3人は何かを思い返すような顔をしながら、京太郎の言葉の続きを待った。 「で、やっぱり仲直りして、またぶつかったりしたりしたけど」 「麻雀に関しては一度だって、手を抜かなかった。俺のことを1人前の雀士として扱ってくれて、いつだって全力だった」 「卒業後もそれぞれがそれぞれの形で麻雀に携わり続けて」 「皆、ずっと強いままで居てくれて」 「それが、なんていうか、すごく、うれしかった」 ありがとう、そう言って京太郎は3人に頭を下げた。 それを見て和があわてた様に言った。 「やめてください須賀君……どんなときでも、相手に対して全力を尽くすのは礼儀です。当たり前のことですよ」 「そうだよ、京ちゃん。そりゃ確かに京ちゃんにも勝ってほしい、って思うことはあったけど…… 「手を抜いて京ちゃんが勝っても、それは京ちゃんを傷つけるだけだもん」 「そうそう、ライオンはウサギを狩るのにもなんとやら、ってやつ」 「ほざけ、タコス娘」 最後の優希の発言につっこみを入れつつ京太郎は笑った。 それに対して優希も笑うが、少し寂しそうな顔をして、京太郎に尋ねた。 「なぁ、京太郎?」 「なんだ?」 「京太郎は、これで満足か? 私たちに勝てて、もう、満足か?」 優希は恐れていた。 京太郎が自分たちに勝ったことにより、満足してこうやって皆で集まる機会は失われてしまうのではないか、と。 だからここ最近、優希は京太郎の勝利を願いつつも、心の底では勝ってほしくない。 そんな複雑な感情を抱え、後ろめたい気持ちだった。 だが、優希のそんな発言を京太郎は軽く笑い飛ばした。 「なーに言ってんだよ! たったの1勝だぜ? 俺がお前らに何敗してると思ってるんだよ?」 尋ねた後、数えるのも面倒なぐらいだ、自分で答えて軽く笑った。 「これから俺の逆襲劇が始まる! 勝って勝って勝ちまくって、今までの負けを取り返してやる!」 そういうと京太郎はふっと落ち着き、何か訴えかけるように、ゆっくりと語った。 「だから、さ。これからも打とうぜ。もっともっとおじさんおばさんになっても、爺ちゃん婆ちゃんになっても」 一旦言葉を切り、その先を万感の思いを込めて、言った。 「俺は、このメンバーで麻雀が打ちたいって、そう思うんだ」 優希はその言葉を聴いて涙がこぼれるのを我慢できなかった。 自分だけではなった。もっともっと打っていたい、と言うその気持ちを持っているのは自分だけではなかった。 そう思うだけで、とても嬉しくて涙が出た。 「ま、まったく、犬の癖に、な、泣かせやがって」 「ゆーき……」 和は優希にハンカチを差し出し、優希はそれを受け取って目頭を拭った。 「あー、年取ると涙もろくなっていかんじぇ」 そう言って優希がぼやくとそのタイミングで和の携帯がなった。 「あっ、染谷先輩。竹井先輩と合流できました? はい、はい……はい、わかりました。じゃあ、今行きますね」 和は携帯を切ると脇においてあった車のキーを手に取り立ち上がった。 「染谷先輩と竹井先輩が合流して駅まで来てるそうです。ちょっと迎えに行ってきますね」 「おっ、そうか。今日は久しぶりにあのメンバーが揃うから楽しみだなぁ」 「おっと、のどちゃん、私もいく!」 「和ちゃん、気をつけてね」 「はい、それじゃあちょっと行ってきます」 そう言って和と優希は店を出て行き、京太郎と咲が残された。 「さーて、ちょっと休憩だな」 京太郎は手元のウーロン茶をすすり、肩を軽く回した。 「うん……」 (今なら……聞けるかな?) 咲の心には1本の棘が刺さっていった。 15年前の京太郎とのあの1件で心に刺さった棘であった。 あれから京太郎の中は修復され、ずっと仲のいいまま過ごし続け、傷は塞がったが、その棘だけは残り続けた。 その棘は京太郎と話しているとき、麻雀を打っているときに時々ちくりと痛んだ。 「ねぇ、京ちゃん」 その棘が刺さる原因となったあの一言、今だったらもう一度聞ける気がする。 咲はそう考え、京太郎に呼びかける。 「ん、どうした、咲?」 京太郎は咲のそんな決意を知らずいつもの笑みを浮かべながら咲に向き直った。 口を開こうとするが、直前になってまた迷い始めた。 (怖い、怖いよ。また、またあんなことになったらどうしよう) (やだよ。あんな、あんな苦しいの、もう……) あのときの絶望感は今思い出すだけで心が引き裂かれそうだった。 それを味わうぐらいだったら、棘の痛みぐらいには耐えるべきなのか。 (……でも) 咲は一瞬そう考えたが、自分の考えを否定した。 (でも、でも、私、私はやっぱり) (聞きたいよ) (京ちゃんの、あの言葉が聞きたい!) 決意して、咲は口を開いた。 声が震えないように大きく息を吸い込み、ゆっくりと噛みしめるように言った。 「京ちゃん。京ちゃんは……」 「私たちと麻雀を打って、楽しい?」 その一言を聞いて京太郎はぽかんとした顔をする。 言ってしまった、もう後戻りはできない。 そう考えて咲は叱られる寸前の子供のような顔で京太郎の言葉を待った。 最初はぽかんとしていた京太郎は――満面の笑みを浮かべていった。 「何言ってんだよ咲。馬鹿だなお前、当たり前だろ」 「すっげー楽しいよ、お前らと打つ麻雀!」 (!) それは15年前に咲が聞きたかった言葉であった。 15年間咲が聞きたいと願っていた言葉であった。 (聞け、た) それが今日、ようやく叶った。 咲の心に刺さった小さな棘、それがようやく抜けた。 (よかった、本当に、よかった) 咲の目から涙が一粒零れた。 「さ、咲?」 びっくりしたように京太郎が咲に声をかけた。 一粒零れたらあとはもう止めようがなかった。 ぼろぼろと涙をこぼし始める咲。 (よかった……よかったよ……) 自分でも泣きすぎだと咲は自覚していた。だが、涙が止まらなかった。 堪えようとも止めようともしているのだが、まったく止まる気配はなかった。 「咲、どうしたんだよ突然、だ、大丈夫か?」 京太郎がおろおろとしながら咲に声をかける。 咲はそんな京太郎の姿を見て涙を拭いながら考えた。 (ほら、京ちゃんが心配してる。私も言わなくちゃあの一言) 「京、ちゃん……」 「お、おう。どうした?」 京太郎が動揺しながらも返事を返す。 咲は涙を流しながらも笑顔を咲かせて言った。 「私も、京ちゃんと麻雀打てて、すっごく楽しいよ!」 カン!
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http //hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1392621836/ 京太郎「これを机に仕込んで…」 京太郎「おおっ!?チョコが入ってる!一体誰が…」 京太郎「………」 京太郎「俺は何をやっているんだ…」 京太郎「もういい。食っちまえ」ベリベリ 咲「おはよう、京ちゃん」 京太郎「おー、咲か」モグモグ 咲「…えっと、京ちゃん、それは……」 京太郎「ん?これ?チョコ」 咲「……一体誰が……私を出し抜こうなんて……」 京太郎「なんか言ったか? 咲」 咲「……京ちゃんそれ誰からもらったの?」 京太郎「あ、いやこれはだな……その……」 京太郎(チョコもらえないだろうから自分で作ってきたなんて口が裂けても言えねえ……) 京太郎「わ、わかんないんだよそれが。メッセージカードも入ってなくてさ」 咲「……」 京太郎「はは……」 京太郎(ろ、露骨に怪しんでる……!) 咲(メッセージカードが入ってない……?) 咲(入れ忘れたのか、それともあえて入れなかったのか……) 咲(でもそんなことする必要あるの……?) 咲(あ、もしかしたら後で打ち明けるつもりなのかも……) 咲(はっ! そしてその時に京ちゃんに告白を……!) 京太郎「い、いったい誰だろうな。おっちょこちょいにもほどがあるぜ……」 咲「京ちゃん、机の中まだ全部見てない?」 京太郎「ん、ああ。まだだけど」 咲「……見てみて」 京太郎「え、なんで?」 咲「いいから」 京太郎「わ、わかったよ」ガサゴソ 咲「……」ドキドキ 京太郎(まあ、実はさっき見たからもうひとつあるのは知ってるんだが……) 京太郎(もしや、咲も知ってたのか?) 京太郎「……お、またチョコだ」 咲「!」 咲(私の入れたのと包装が違う!) 咲「き、京ちゃんそれ誰から!?」 京太郎「え、」 咲「ねえ誰!?」 京太郎「さ、咲がどうしてそんな知りたがるんだよ」 咲「京ちゃん!」 京太郎「わ、わかったわかった。ちょっと待て」ベリベリ 咲「……」 咲(誰……? まだ他にも京ちゃんにチョコを渡した子がいるの?) 咲(京ちゃんなんて女の子から全っ然モテそうにないのに!!) 京太郎「えっと、はらむら……原村和!?」 咲「!!」 咲(の、和ちゃんがどうして!?) 京太郎「『ずっと前から好きでした。受け取ってください』……だと」 咲「そ、そそそそそれって……」 咲(こ、告白!!?) 京太郎「え、これマジ……? ドッキリとかじゃないよな?」 咲「ちょっとそのカード貸して!」ガシッ 京太郎「お、おい!」 咲「……」 咲(和ちゃんの筆跡……間違いない。けどどうして?) 咲(和ちゃんも京ちゃんが好きだったっていうの? そんな素振りまったくなかったのに!) 京太郎「咲、返してくれよ」 咲「う、うん……」 咲(そんな……和ちゃんがライバルだったなんて) 京太郎「うへへ……マジで和のやつ、俺のこと好きだったのかあ……」 咲(和ちゃんは頭もいいしカワイイ……私じゃ勝ち目なんてないよ……) 京太郎「……ん?」 咲「……!!」ガサゴソ 京太郎「お、おい! なに人の机荒らしてんだよ」 咲「……じゃあね、京ちゃん。お幸せに」 京太郎「え、」 タタッ 京太郎(今、チラッと箱みたいなのが見えたような……) 京太郎「ま、いいか。それよりも……」 京太郎「おい友彦! お前チョコもらったか?」 友彦「あん? そっちはどうなんだよ」 京太郎「フフフフフ……聞きたいか?」 友彦「気持ちわりぃな。はよ言えや」 京太郎「ほらよ、じゃじゃーん!」 友彦「……悔しいがよかったじゃねえか。相手は咲ちゃんか?」 京太郎「ちげーよ! なんでそこで咲が出てくんだよ!」 京太郎「聞いて驚け。相手はなんと……あの和だ!」 友彦「はぁああん!? 和って、原村和か!?」 友彦「おい嘘だろ! 証拠見せろ証拠!」 京太郎「このメッセージカードにちゃんと書いてあるぜ」スッ 友彦「マジだ……すげえ」 京太郎「へっへーん、だろ?」 友彦「返事はどうすんだよ」 京太郎「もち、ふたつ返事でイエス! 決まってんだろ?」 友彦「そりゃそうか。しっかしお前があの学年一の美少女となぁ……」 京太郎「羨ましいか、友彦ちゃんよぉ?」 友彦「……お前、浮かれてるようだが咲ちゃんはどうすんだよ」 京太郎「は? だからなんで咲が話に出てくんだよ」 友彦「……いや、なんでもね」 京太郎「気持ちわりぃな。教えろよ!」 友彦「そんくらい自分で考えろ」 京太郎「はぁ?」 友彦「それより早くそれしまっとけよ」 京太郎「ん、ああ」 キーンコーンカーンコーン 京太郎(にひひ……放課後の部活が楽しみだぜ) 京太郎(あれ、そういや咲戻ってきてないな) 京太郎(具合でも悪くなったのか? あとで保健室に様子見に行ってやるか……) 放課後 京太郎(結局保健室にはいなかったし、咲のやつどこ行ったんだろうな) 京太郎(メールしたけど返事ないし) ガチャ 京太郎「ちわーっす」 まこ「おう、きたか。遅かったのう」 京太郎「数学の授業が長引いちゃいまして。すんません」 久「いいわ、とにかく四人そろったんだし半荘打ちましょ」 優希「……」モジモジ 京太郎「? 優希、お前元気ないな」 優希「ひゃっ! な、なんだじぇ?」 京太郎「いや、いつもより元気ないなって」 優希「そ、そうか? そんなことないじょ……」 京太郎「ふーん、ならいいけど」 優希「……」 まこ「部室きたときからずーっとこうなんじゃ。どこかソワソワしちょって」 優希「そ、染谷先輩!」 京太郎「そうなんすか?」 まこ「ああ、いったい誰のせいじゃろね」ククッ 久「さぁね~」 京太郎「??」 優希「……///」 京太郎「あ、あの」 まこ「ん? なんじゃ」コトッ 京太郎「和って、まだ来てないっすよね?」 久「来てないけど、どうしたの?」コトッ 京太郎「い、いや、別になんもないっすよ!」 京太郎(授業が遅れてんのかな。メールは……来てないか) 久「……?」 優希「……」コトッ 京太郎「……あ、それロン」 優希「うっ……」 京太郎「お前、リーチかけてんのにそりゃないだろ」 優希「う、うるさいじょ! ちょっとよそ見してただけだ!」 久「そういえば須賀君」 京太郎「はい?」 久「今日は何日だっけ?」 優希「っ!」ビクッ 京太郎「えっと、14日。バレンタインですよね?」 久「そそ。ご名答~」 京太郎「もしかして俺にくれるんすか?」 久「まっさか~。私はあげるってよりもらう側だし」 京太郎「ですよね~、あはは」 まこ「なんじゃ、残念そうじゃないのう」 京太郎「え? いえ、もちろん残念ですよ!」 久「ほんと~? じゃあげちゃおっかな~」チラッ 優希「……っ」 京太郎「またまた~。冗談はいいっすよ、寂しくなるだけなんで」 久「冗談じゃないんだけど」 京太郎「えっ」 久「……」 京太郎「……部長」 久「……なに?」 京太郎「顔がニヤついてて気持ち悪いです」 久「くっそ~! あと少しで引っかけられると思ったのに!」 まこ「なにいうとる。バレバレじゃ」 久「それはそうと、もし須賀君にあげる人がいるとしたら……」チラッ 優希「……っ!」 久「はやく渡さないと誰かに先を越されちゃうんじゃないかしらね~」ニヤニヤ 優希「……」プルプル まこ(久のやつ、もうちっと自然にやることはできんのかい) 京太郎(あれ……もしかして俺まだもらえてないと思われてるのか?) 京太郎(ま、そりゃそうか。去年も咲からの義理だけだったし) 京太郎(もし和からもらったって言ったらびっくりするんだろうなぁ……) 京太郎(だが堪えろ須賀京太郎! これは和のためだ) 京太郎(チョコはともかく、告白カードなんて誰だって見られたくないに決まってる) 京太郎(打ち明けるとしたら俺たちが付き合い始めたそん時だな……)ニヘラ まこ「京太郎、なにあんたもニヤついとるんじゃ」 京太郎「あ、すんません。ちょっと心の旅に出かけてました」 久「……」ジー 優希「……」モジモジ 久(こりゃもうひと押ししないとダメね……まこ) まこ(……了解)ガタッ まこ「いたたたた……!」 京太郎「ど、どうしたんですか!?」 まこ「と、突然腹が……!」 優希「だ、大丈夫かじょ? は、早く保健室に!」 まこ「うぅ……」 久「昨日チョコ食べ過ぎたからよ! バカね!」 京太郎「俺が連れて行きますよ」 久「いいえ、須賀君はここに残って。私が連れて行くわ」 まこ「すまんが頼む」 優希(なんで二人とも鞄をしっかり持っていくんだ……?) 久「それじゃあね。そこで二人で待ってるのよ!」 京太郎「は、はい」 バタンッ 廊下 久「……ふぅ。なかなかの演技だったわ、まこ」 まこ「腹痛の演技で褒められてもうれしくもなんともないがの……」 久「じゃ、私たちは隣の部屋に行って観察よ」 まこ「はぁ……ほんとにするんか? 優希に悪いじゃろ」 久「なに言ってんの! どっかの部長も言ってたように、部長としての部員の管理は大事よ」 まこ「……仕方ないのう」 久「そうはいってもまこだって気になるくせに。本当に素直じゃないのは誰かしら?」 まこ「じ、じゃかしいわ!」 久「ん、あら」 まこ「どうした?」 久「私、間違えて須賀君のカバン持ってきちゃったみたい」 まこ「なにしとるんじゃこのトンチンカンは……」 久「う、うるさいわね!」 まこ「どうする、今戻ってすり替えてくるか?」 久「いや、それはダメでしょ……あ、いいこと思いついた」ニヤッ まこ「……どう考えても悪いことにしか思えんわい」 久「まこ、あのチョコ貸して」 まこ「ん? わしが京太郎に作ってきた義理チョコか?」 久「そう、須賀君がだれからももらえなかったら可哀そうだと思ってまこが余計なおせっかいを焼いて作ってきた義理チョコ」 まこ「二言三言余計じゃ! ……ほれ」 久「これを須賀君のカバンに忍ばせてっと……」 まこ「なにしとるんじゃ!」 久「優希からチョコをもらって悶々としてるところにカバンから正体不明のチョコが見つかったら……須賀君どうなると思う?」 まこ「ん、まぁ混乱するじゃろうな」 久「そう、その通り! おもしろそうじゃない?」 まこ「この女狐が……」 久「ん、んんん???」 まこ「今度はどうしたんじゃ」 久「これ……見て」 まこ「おお……なんと」 久「須賀君、チョコもらってたんじゃない!!」 まこ「声がでかいわ!」バシッ 久「えっとどうやら二つあるみたいね」 まこ「ほう」 久「ひとつは青い包装紙に包まれた食べかけのチョコ」 まこ「誰からじゃ」 久「差出人は……書いてないわ。直接受け取ったってことかしら」 まこ「ふたつ目はピンクの包装紙に包まれたチョコじゃの。メッセージカードがある」 久「なになに……『ずっと前から好きでした。受け取ってください 原村和』ですってぇ!!!??」 まこ「だから声が大きい!」バシッ まこ「まさか和がのう……」 久「え~……絶対和はレズだと思ってたのに」 まこ「レズって……ひどい偏見じゃの」 久「ピンク髪はエロくてレズ。これ常識よ?」 まこ「どこの常識じゃ」 久「それはそうとこれ、マズいことになるんじゃない?」 まこ「たしかに……優希のやつ、立ち直れるかの」 久「もうフラれる前提? あなたの偏見こそねじ曲がってるんじゃないの」 まこ「だが、勝つ見込ゼロじゃろ」 久「ふむ……胸で負け、スタイルで負け、勉強で負け、麻雀で負け……たしかにそうだわ」 まこ「だんだん優希がかわいそうになってくるからそのへんにしときんさい」 久「早く優希を止めた方がいいんじゃないかしら。もういい感じの空気になってそうだし」 まこ「そうじゃの……」 ??「そこで何をしてるんですか? 先輩たち」 久・まこ「!!?」ビクッ 久「の、和!?」 まこ「い、いつの間に……」 和「先輩方が話に夢中で気づかなかったんでしょう」 久「そ、それはそうと遅かったわね」 和「ええ……ちょっと人を探してまして」 まこ「ほ、ほう……見つかったんか?」 和「いえ、結局……」 久「そ、そう……それは残念ねぇ……」 和「……」 久・まこ「……」アセアセ 和「……どうして中に入らないんですか?」 久「え、あぁ……それは……」 まこ「いたたたたっ!!」 久「あ、ああそう! そうなのよ! まこが腹痛で保健室へ行こうとしてたの!」 まこ「うぐぅ……こんなに痛いのは初めてじゃァ……」 和「……」ジトー 久「悪いんだけど和、まこを保健室へ連れて行ってくれないかしら?」 和「……部長が連れて行けばいいんじゃないですか?」 久「う……そ、そうかも」 まこ「うぐぅううう……久は嫌じゃァ……!」 久「いや、やっぱり和じゃなきゃダメよ! 私じゃイヤって言ってる!」 和「……」ジトー 久「お願い、連れてってあげて和!」 和「……なにか私に隠してるんですか?」 久「え? べ、別に隠してないわよ?」 和「じゃあ先ほどから私を部室に入れないようにしてるのはなぜですか?」 久「うぐ……そ、それは」 まこ「……」 和「……悪いですけど、入らせてもらいます」 久「待って! 和違うの! 誤解なの!」 和「なにが誤解なんですか!? そこどいてください!」 まこ「うぐぅうう!! 和ァ、腹が痛いぃい!」 和「染谷先輩、足をつかむのやめてください!」 久「和、落ち着きなさい! あなたは間違ってる!」 和「何が間違ってるんですか! はっきり言ってください!」 まこ「和ァ! 和ァ!」 ガチャ 少し時は遡って……部室 京太郎「大丈夫かね、染谷先輩」 優希「ぶ、部長はチョコの食いすぎだって言ってたじょ……」 京太郎「もしかして染谷先輩もバレンタインチョコ作ったのかもな」 優希「っ!」 京太郎「誰にあげたんかな。部長とか?」 優希「……」 京太郎「俺にはないだろうし、もしかしてクラスの男子とかに……優希、何か知らないか?」 優希「……」 京太郎「おい、優希」 優希「ひぇっ!」グラッ 京太郎「おっと……」ガシッ 優希「あっ……」 京太郎「お前、呼んだだけで驚きすぎだって。どうした?」 優希「な、なんでもないじょ……そ、それより……」 京太郎「ん?」 優希「て、手が……///」 京太郎「あ、悪い」 優希「……っ」 京太郎「……」 優希「……」 優希(なにしてる私……こんなはずじゃなかったのに) 優希(なんでかいつもより数倍マシで京太郎を意識しちゃうじょ……) 優希(部長たちがいない、今この瞬間に……カバンに入ってるアレを……) 優希(ん、部長たちがいない……? 京太郎とふたり……) 優希「……っ!!///」 京太郎「……優希、お前熱でもあるのか?」 優希「えっ、なんで……」 京太郎「いや、さっきから顔真っ赤だし……今なんて茹でダコみたいだぞ」 優希「ち、違うじょこれは!!」バッ 京太郎「んー……ほんとに大丈夫か?」 優希「大丈夫っ! こっち見るな!」 京太郎「……へいへい」 優希「……っ///」 優希(あーダメダメ! せっかく京太郎が気にかけてくれるのに……) 優希(私……いつもこんなだじょ) 優希(いつだって素直になれなくて……今日こそはって思ったのに) 優希「……っ」 京太郎「……優希、思い出さないか?」 優希「えっ……」 京太郎「こうして二人でいるとさ。4月の頭のこと」 優希「4月……たしか」 京太郎「ああ、俺が部の見学に来た日。部室にいたのがお前だけでさ」 京太郎「いろいろ教えてくれたよな、部のこと。麻雀のこと」 優希「……っ」 優希(忘れるわけないじょ……っ) 京太郎「この部に入ろうと思ったきっかけは色々あるけどさ」 優希「……」 京太郎「なんだかんだであの日お前に出会ってなかったら、俺は入部してなかったかもしれない」 京太郎「女子だけって聞いてたから、俺一人浮いちまうんじゃないかって不安もあったしさ。けど、お前は気兼ねなく接してくれた」 京太郎「ほんとありがたかったし嬉しかったよ。だからお前には感謝してるぜ、優希」 優希「……っ!!///」 優希「わ、私だって……嬉しかったじょ……」ボソッ 京太郎「え……」 優希「あ、い、今のは……独り言でっ!///」 京太郎「……はは、照れんなよ」ナデナデ 優希「うぅ……っ///」 優希(……今しかない。渡すなら……今しかないじょ!) 優希(勇気を出せ、片岡優希……!)ガサッ 優希「き、京太郎……」 京太郎「? なんだ?」 優希「あ、の……これ……っ」 京太郎「え、これ……」 京太郎(きれいなラッピングに……ハートの便箋……もしかして) 優希「私の、今までの感謝の……しるしだじょ」 京太郎「……」 優希「う、受け取れ……っ!///」 ガチャ 和「っ、……し、失礼します!」 京太郎「あ……」 優希「え……」 久・まこ「あ、あちゃー……」 和「……はっ! ご、ごめんなさい!!///」タタッ 京太郎「お、おい! 和!」 優希「うぅ……///」 優希(み、見られた……) 京太郎(くそっ、どうする……いや、追うしかないだろ!) 京太郎「すまん優希、返事はあとでだ!」タタッ 優希「え……」 京太郎「はぁ、はぁ……っ」 京太郎(和のやつ、どこに行ったんだ……) 京太郎「……」 京太郎(まさか優希がバレンタインチョコをくれるとは思わなかったけど……その現場を和に見られるなんて) 京太郎(とにかく和を見つけて誤解を解かねえと……!)ダッ ドンッ 京太郎「いてっ」 ??「きゃっ!」 京太郎「す、すみません……って」 京太郎「咲!」 咲「き、京ちゃん……」 京太郎「どうしたんだ。朝からいなくなったと思ったら……」 咲「うん、そのことなんだけど……これ」サッ 京太郎「え、これ……」 京太郎(もしや……) 咲「は、ハッピーバレンタイン……京ちゃん……///」 京太郎「お、おう……」 咲「……最初は渡すのやめようと思ったんだ……だから、朝逃げ出したの」 京太郎「……?」 咲「……けど、和ちゃんにはやっぱり負けたくない! 京ちゃんを渡したくない!」 京太郎「……え、なに言ってんだよ咲。これ義理だろ?」 咲「……っ! ほ、本命だよッ!!///」 京太郎「え……」 京太郎(やべえ……頭が混乱してきた) 京太郎「き、去年のは……?」 咲「去年も本命のつもりだったよ……けど、京ちゃん返事聞かずに部活行っちゃったから……」 京太郎「……」 咲「まさか、ずっと義理だと思ってたの……?」 京太郎「い、いや……」 咲「私の気持ち、気づいてくれなかったの……!?」 京太郎「さ、咲……落ちつ……」 咲「バカッ!!!」バシッ ダダッ 京太郎「さ、咲!」 ??「咲さん!?」 咲「の、のどか……ちゃん……」 和「さ、探してたんですよ」 咲「……っ!」ダッ 和「さ、咲さん!!」 京太郎「……」 和「す、須賀君! 咲さんに何かしたんですか!?」 京太郎「い、いや……その……」 和「……」 京太郎「そ、それよりさ和。今朝のあれの返事、お前に言いたくて」 和「今朝の……返事?」 京太郎「ああ、バレンタインチョコに入ってたメッセージカード」 和「……っ!!///」 和「な、なんでそのことを……!」 京太郎「へ?」 和「勝手に見たんですか!!?」グイッ 京太郎「い、いやだって俺の机の中に……」 和(そうか……あれを須賀君に勝手に見られたから咲さんは怒って……) 和「最低ですっ!! こんな無神経なことするなんて、見損ないました!!」パシンッ 京太郎「……え、あ……」 和「咲さん! 待ってください、咲さん!!」 タタッ 京太郎「ど、どういうこと……?」 部室 まこ「……と、そういうわけなんじゃ」 優希「……」 久「残念ながら、彼はあなたよりも和を選んだってことね」 優希「……っ」グスッ まこ「……泣きんさい。今なら誰もこん」 優希「うぅ……うぇえええ……」ポロポロ まこ「……」ギュッ 久「……」 久(須賀君……罪な男ね) ガチャ 京太郎「……」ヨロヨロ 久「え、どうしたの須賀君!?」 まこ「和を追いかけたんじゃなかったんか……」 久「ていうかその頬……」 京太郎「いや、あのですね……実は……」 カクカクシカジカ(説明中) 京太郎「……つまり、俺の勘違いだったみたいなんです……はは」 久「そ、それはなんというか……同情するわ」 まこ「なんちゅー哀れな男じゃ……」 京太郎「……ほんと、なんというか泣くに泣けないっすよ」 京太郎「ってわけで、優希。バレンタインのチョコもらうわ」 優希「なっ……」 京太郎「うめー……身体にしみるぜ」モグモグ 久「ちょっと須賀君……」 優希「……っ」プルプル 京太郎「ん、どうした優希?」 優希「の、のどちゃんにフラれたから……私に乗り換えるのか……?」 京太郎「ん? なんだって?」 優希「き、京太郎の……っ」 優希「アホーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」バッシーン 京太郎「うぎゃああっ!!!」 久(須賀君、さすがに無神経すぎよ……) まこ(とことん哀れなやつじゃ……) 後日 京太郎「あの……優希」 優希「……ふんっ」 京太郎「さ、咲さん……?」 咲「……」 京太郎(無言こええ……) 和「あの……なんというか本当にすみません」 京太郎「いや、気にすんなよ……」 和「はぁ……」 和(咲さんもなぜだか私に冷たいですし……一体どうしたら……) 京太郎(早く部長たちこねーかな……) 京太郎「……ん?」 京太郎(カバンの中にチョコが……)ガサゴソ 京太郎「……誰からだろ」ベリベリ 京太郎(差出人が書いてねえ……) 京太郎(……ま、うまそうだしいいか) 京太郎「……」モグモグ 京太郎「…………………………うめぇ」 カン